四話
孤卯未が老夫婦の家に住むことになってから四日経った日の皆が寝入ったぐらいの時間、孤卯未も眠りに入ろうとした。
だが、どうしても眠れなかった。
なぜなら、自分は老夫婦に何もお礼を返せていないと思っているからだ。
「ゔぅぅ。どうしよう…」
そう、さっきからずっと同じ言葉を繰り返していると、ふと、隣の部屋──孤卯未が元いた老夫婦の娘の部屋から物音が聞こえてきた。
とっさに孤卯未はずっと同じ言葉を繰り返していた自分の口を掌で抑えるて耳をすませた。
すると、若い男性と女性の小声の会話が聞こえてきた。
「本当にここでやるの?」
「うん。ここでやるよ」
「犯罪よ。バレたら危険よ」
「バレなければ、どうということない」
「でも、危なくない?」
「大丈夫。もう、寝ているはずだから」
「起きてたらどうするの?」
「僕が何とかする」
若い女性が質問して若い男性が安心させるようにその質問に返した。孤卯未が聞いた範囲はそういう会話ばかりだった。
孤卯未はその会話を聞いて理解した。
これは、泥棒の会話だと。
孤卯未は動いた。
いや、動こうとした。
だが、動けなかった。
なぜなら、こんな時に限って金縛りにあったからだ。
(くっ!? このままじゃ…おじいちゃんとおばあちゃんの大切な娘さんの部屋が荒らされる‼︎)
孤卯未はそう思い、必死に自分の身体を動かそうと踏ん張った。だが、いつまで経っても動かない。
すると、バックが開く音がした。
(ごめんなさい。おじいちゃん、おばあちゃん。あたし…役に立てなかった)
孤卯未はそう思い老夫婦に嫌われる覚悟をした。
だが、いつまで経っても孤卯未が思っていた音は聞こえてこなかった。
だが、代わりに違う音が聞こえてきた。
「ゔぅぅぅぅ」
孤卯未が唸っていた声よりさらに低い獣の様な声が聞こえてきた。
「よし‼︎ 成功だ‼︎ 暴れない」
「良かったぁ。これで誰も死なない国を創れるわ」
「え?」
予想外の会話が聞こえてきて思わず孤卯未は声をもらした。
すると、
「ゔぅぁぁぁぁ!!」
とさっきの獣の様な唸り声が叫び声に変わっていた。
「っ⁉︎ いきなり暴れ出した……だと……」
「ダメ‼︎ この部屋から出て行ってしまうわ‼︎」
若い女性の悲惨な叫び声がした。
「え? え? 何があったんだろう?」
さすがに、気になった孤卯未が首を捻っていると部屋の扉が突然、勢いよく開いた。
孤卯未は身体をびくつかせ扉の出入り口を見た。
だが、何も無かった。ただ単に暗い廊下があるだけだった。
「ふぅ。驚かせちゃって」
孤卯未は扉を閉めようと出入り口に向かった瞬間、何かが物凄い勢いで孤卯未に音も立てずに当たった。
「っ⁉︎」
孤卯未の背中に何も抵抗していなかった状態で当たったので孤卯未は息が出来なくなった。
孤卯未は必死に空気を吸おうとした。
だが、そんな孤卯未に構わず何かが追撃をしようとしてきた。
だが、出来なかった。
なぜなら、若い男性と女性が来て何かの追撃を防いだからだ。
孤卯未は驚いた。
なぜなら、若い二人は泥棒の姿なんかしていなかったからだ。むしろ、どこかのゲームで出てきそうな服を着ていた。
その服は、背中に白いマントが付いてあり、黒い上下の服だった。
二人は服の胸元から、黒い刀身の暗殺者などが愛用してそうなナイフを手に取って、何かに立ち向かった。
孤卯未の意識はプツリとそこで消えた。
「っ!? 孤卯未が!?」
若い女性は後ろへ振り向くと孤卯未に意識が無くなっているのを見てそう声を上げた。
「何!? 息が正常か調べてくれ! ここは、僕一人でやる」
若い男性がそう言うと若い女性は無言で頷いて言われた通り息が正常か調べた。
すると、あることがわかった。
「呼吸が浅い! このままじゃ!」
若い女性がそう言うと今度は若い男性が無言で簡単に空気が送れる人工呼吸器を投げ渡した。
若い女性は急いでその呼吸器を孤卯未に付けた。
若い男性は一人で何か──ゾンビに立ち向かっていった。
「くっ! さすがゾンビだ。そう簡単に死なないか。だが!」
若い男性はそう言って攻撃を開始した。
普通は足が遅いゾンビだが、さっき隣の部屋で若い二人が投入した薬によって、すさまじい速度になっていた。
ゾンビの攻撃速度も速い。
だが、若い男性はその攻撃をことごとく、避けるか防いでいる。
すると、突然ゾンビは一歩後ろに下がった。
若い男性はそれを好機と見て床を蹴りいっきにゾンビとの距離を詰めた。そして、ナイフを振るった。
だが、ゾンビは若い男性が振った手をいとも簡単に掴んで、背負い投げをしようとした。
だが、
「ふっ。それも、予想通りだ!」
そう言って若い男性はナイフを振るった。
そう、さっき持っていたナイフは偽物だ。バックに何故か入っていたガラスの破片をナイフに見せかけて囮にし、本物のナイフは先に振った手とは違う手に持っていた。
ゾンビは、その予想外の攻撃を防ぎきれずにあっさりと首を撥ねられて絶命した。
「孤卯未を早く病院に‼︎」
若い男性がそう言った。
何故、若い男性はゾンビが背負い投げをすると予想出来たか。それは、彼は死人をわざわざ選んで、ゾンビ化するからだ。だから、その死人のプロフィールを見ることになる。彼が殺したゾンビは生前、柔道をしていた。そして、背負い投げを得意技としていた。だから、彼はゾンビが背負い投げすると、予想したのだ。
孤卯未は病院で目が覚めた。
「あれ? どうしてあたし病院にいるんだろう?」
そう、考えると何故か記憶に靄がかかっていることに気付いた。
「何、馬鹿げたことを言っているの」
突然声が聞こえたので孤卯未はそちらに振り向いた。
すると、そこには老婆がいた。
「昨晩、階段から転げ落ちたのでしょう」
確かにそう言われるとそんな、記憶があるような無いようなと孤卯未はモヤモヤした気持ちになった。
「ま、無事で良かったけど」
老婆はそう言い微笑んだ。
「そう…だね…」
孤卯未はモヤモヤしたままそう納得した。