序章
黒色の髪で黒色の目の少年は国立丘道学園へ行くための通学路を歩いていた。
彼の名前は志水圭兎。丘道学園に通っている平民の生徒だ。
丘道学園はほとんどの生徒が貴族の小中高一貫の学校だ。
だから、平民でしかも、高等部から入って通っている生徒は二人しかいない。圭兎はその内の一人だ。
しばらく歩いていたら丘道学園の校舎が見えてきた。丘道学園は日本で一番敷地面積が広い学園である。
「眠い」
圭兎は目を瞑りながら独りで呟いた。
「おはよう。圭兎」
すると、後ろから声がしたので圭兎は欠伸をしながらめんどくさそうに振り返った。
そこには、銀色の髪で黒色の目の少女がいた。
彼女の名前は佐藤希楽夢。圭兎と同じ中学校から入学した平民の生徒である。
「おはよう」
挨拶をしてきた希楽夢に圭兎は欠伸をしながら挨拶を返した。
「眠そうだね。昨日、何時間寝たの?」
希楽夢は心配性なので心配をして圭兎に聞いた。
「多分、寝たのは四時頃で起きたのは五時頃だから、一時間位だな」
希楽夢は心配性だと圭兎は知っているので欠伸をしながら
圭兎はいつもだったら怒る希楽夢が怒らなかったので不思議に感じながらも内心では喜んだがその喜び隠して聞かれた事について答えた。
「一時間しか寝てないの!? 大丈夫?」
希楽夢は驚きながらも心配そうに圭兎にそう聞いた。
「あぁ、大丈夫だ」
希楽夢は圭兎の予想通りの反応をした。だから圭兎は返答するときに苦笑をしていた。
「いつもの事だしな」と心のなかで圭兎は呟いた。
「大丈夫そうにみえないけどね」
でも、どうせ圭兎は大丈夫だと言うに決まっていると思い、諦めた。
そして、希楽夢は圭兎に「何してたの」と聞いた。
「バイトとゲーム」
圭兎はすぐに答えた。だが、心のなかでは
(よっしゃ! 今日は怒らない日だ。よかったぁ)
と思っていた。
「圭兎ってバイトしていないでしょ。本当はずっとゲームしていたんじゃないの」
希楽夢は圭兎がバイトをしていない事を知っている。
「うん...まぁ...そうだけど」
だけど、圭兎の返事は曖昧だった。
「まぁ、この話は置いといて。佐藤、そろそろ着くぞ」
圭兎は話を変えて希楽夢に言った。
「そうだね。でも、圭兎は授業全く受けないよね」
希楽夢は圭兎にとって当たり前の事を言ってきた。なので圭兎は「あぁ、そうだな」と相づちを打つ程度にした。
いきなり今度は、希楽夢が話を変えて圭兎に言った。
「そういえば今日、生徒会が主催するパーティーあるけど一緒に行こうよ圭兎」
希楽夢は何を想像してか楽しげに圭兎に聞いた。
「悪いが今日は行けない。忙しいからな」
だが、圭兎は素っ気なく答えた。
「圭兎が行かないなら私も、今日は行かないでいようかな...」
希楽夢は少し寂しそう顔をして言った。
そこで圭兎は思い出した。
前のパーティーの時も希楽夢にパーティー行かないかと誘われたがその時は圭兎は行くのがめんどくさいので今と全く同じ言葉で断った。希楽夢はその日は諦めて「じゃあ、次のパーティーの時に行こうね」と言ってきたので圭兎は「了解」と言っていたことを。
だが、どうしても今日だけは無理だ。
「あぁ、本当に悪いな」
圭兎は申し訳なく言った。
「良いよ別に。じゃあまた、今度に行こうね」
「あぁ、今度こそ絶対にな」
圭兎はそう思った。
その後、二人は丘道学園の校舎内に入っていく。
希楽夢は少し楽しそうだ。
なぜなら、希楽夢も貴族の一員だからだ。
希楽夢の父親は建設業界では大手の分類入る会社の社長で、母親か建設道具を作る大手の会社の次期社長だ。
だが、希楽夢は過去にある事があって貴族と同じ学校に通うのが、少し嫌になり圭兎と同じ中学校に通ったのだ。だが、今は国立丘道学園に在学している。
なぜかというと、圭兎に誘われたから仕方なく希楽夢はこの学園に通った。
それでは、何故圭兎に誘われたかというと圭兎は普通の高校に進学しようと思っていた。
だが突然三年の三学期の真ん中あたりで丘道学園の学園長から連絡が来て「君が選ばれたから丘道学園に通いなさい」と言われ最初は断っていたが、学費は全額無料で良いという言葉に甘えて圭兎はこの学園を選んだ。
だが、知り合いが一人も居ないのは辛いという理由で希楽夢を誘ったのである。
だが、今は希楽夢の方がこの学園生活を楽しんでいる。
朝に、圭兎が希楽夢と喋ってから時間が過ぎて今は、昼食前の四限目の授業が終わる数分前だ。
圭兎は学園の屋上で授業をサボっている。
すると、いきなり屋上の扉が開いた。そして、茶色の髪で青色の目の少女が屋上に入って圭兎に近づいてきた。
彼女の名前はエリカ·タンダク。この学園の有名な六人の貴族の一人で風紀委員長だ。
「あなた“また”授業サボったわね!」
エリカは、怒り気味で圭兎に言った。
何故“また”かと言うとエリカは必ず授業をサボっている圭兎に注意をしてくるのだ。それも、毎回のように。
だが圭兎は、何故こんなにエリカは自分に関わってくるのだろうと今さら気になった。
「お前、何故そんなに俺に構うんだよ。もしかして俺の事好きなのか?」
だか、圭兎は正直に聞くのが何故か恥ずかしく思い、おちょくるようにエリカに言った。
「そ、そんなわけないでしょ! バカ!」
するとエリカは頬を赤くして言ってきたので圭兎は驚いた。
(もしかしてコイツ冗談通じないのか)
圭兎はそう思い焦った。
「冗談だ」
圭兎は勘違いをされたままではめんどくさいなと思い、言った。
「そ、それぐらい分かってたわよ」
エリカはさっきより顔を赤くし、言った。だが、圭兎はコイツ絶対分かってないなと確信した。
(このままでは話が脱線するな)
圭兎はそう思い、元の話に戻した。
「で、何故俺にそんなに構うんだ?」
今回は正直に聞いた。
「私、風紀委員長とかしているのに学園での総合成績でも一単限での成績でも何も勉強していないあなたに負けているから...」
エリカは悔しそうに圭兎に言った。
(なるほどね。そういうことか)
圭兎はそう思った。圭兎は何と返答すればいいのかと少しだけ考えた。
「これから、お前は勉強していてもし、俺がずっとサボってたらきっと簡単に抜かせるぞ」
圭兎は根拠の無いことを言った。圭兎のその言葉にエリカは反論しようとした。しかし、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「そういえば、どうして俺がサボっていることが分かるんだ?」
チャイムが鳴ってからすぐに今までずっと気になっていたことを思い出し聞いた。
「屋上がある校舎じゃなかったら何処からでも屋上が見えるからよ」
エリカは圭兎が知らない事実を突きつけてきた。
「マジで!?」
今まで屋上だったら誰にも気付かれないと思っていた圭兎は心底驚いた。
「えぇ、本当よ。それじゃ、私はこのあと用事があるから急いで帰らしてもらうわね。じゃあね」
エリカはそう言い走って行った。
「風紀委員長が校舎内を走って良いのかよ。...さて、俺も戻るか」
残された圭兎は冷静になって、これからは屋上でサボらないと心に誓って教室へ帰って行った。
夜になった。
圭兎は一人で家にいた。今頃、丘道学園の生徒の大半は今日、開催されている貴族同士の交流パーティーに行っている。
交流パーティーの事を思い出すと同時に朝の希楽夢との一件のことも思い出し自虐的になった。
圭兎はその考えを拭い去るために自宅のお風呂に入った。
お風呂から出たあと家族の皆が好きな食べ物を一つ一つ作った。圭兎はその食べ物を一人で黙々と食べ、少しだけ残した。
午後十時になった。
圭兎はリビングに置いてある仏壇に少しだけ残した食べ物を置いた。 そして、黙祷をした。その間、圭兎は黙祷をしている自分の身に起きた過去の出来事を思い返していた。
圭兎が幼稚園年少の頃に父親があることに追い詰められていた。そして、父親以外はみんな出掛けている日の午後十時頃に父親は死んだ。父親が死んだために母親と双子の妹達と圭兎は家を出て、ある人に引き取られた。
それから、数年たった頃に母親が父親と同じ、午後十時頃に死んだ。
そして、母親が殺された翌日に双子の妹達も、午後十時頃に死んだ。
圭兎はその辛い過去を一時も忘れたことは無い。そして、母親が生前の頃によく言っていたことを思い出した。
「友達を作りなさい」
圭兎はその頃、友達が一人もいなかった。だから、母親は耳にタコができるくらいよく言っていた。
「母さん。友達、ちゃんと出来たよ」
時間が経ったので静かに黙祷を止め、小さな声で仏壇にそう報告した。
そして、圭兎は起きているのが辛くなり、食器を洗ってすぐに自室へ行った。
何もする事が無かったので眠くは無いがベットに寝転がった。
だが、ベットに寝転がった瞬間に眠気が襲ってきて圭兎はその眠気に身を委ねた。 そして、すぐに眠りに入った。
それは、まるで死ぬように....