木曜日の幼なじみ
R15も念のため。
「村野は和佳ちゃんのこと好きだと思う。」
「そうかなあ。」
「そうだってば。」
「結構いいと思うんだけどなあ。背は低いけど。顔可愛いし。やさしーじゃん。」
学食でのランチタイム、同じゼミの美樹ちゃんはたらこスパゲッティ、真奈ちゃんはAセットのチキンステーキ。あたしはカレー。
「でも和佳ちゃん好きな人いるでしょ。」
「えー。私知らないよそれ。だれだれ?サークルの人?」
さすが真奈ちゃん!っていうべきかなあ。女子が3人しかいないゼミだから木曜日2限の終わった後はたいてい3人一緒。真奈ちゃんには高校生のときからつきあってる彼が別の大学にいるんだって。美樹ちゃんはTAやってる大学院生と最近いいかんじらしい。だからあたしもって思うんだろうけど、その気持ちはありがたいんだけど。
「そういうわけでもないんだけど。」
「えーーー。なに?それ。」
「ねえ、アイス食べたい。買ってくる。真奈ちゃんと美樹ちゃんはどれがいい?それともコーヒー?」
「ちょっと和佳ちゃーん。」
「まあ。和佳ちゃんが言いたくないなら、無理に聞かないけどさ。」
好きな人、はいると思う。村野君でもサークルの人でもないけれど。だけど幸せ、な感じの美樹ちゃんと真奈ちゃんに話してもいいものやら。
「いや、あぁん。」
「ここがいいのか?」
「やっ。だめ。」
「だめ。じゃないだろう。和佳は相変わらず素直じゃないな。」
いつもその余裕がなんかいや。。。なんて考えるのはコトが終わった後なのだけど。
木曜日の夜にいつも部屋にやってきて、金曜日の朝には帰っていくのは私の好きな人。だけど、彼氏では、ない気がする。結婚してないってことは知ってる。彼女、も多分決まった人は今はいないと思うけど、よくわからない。そもそもどうしてこうなったのかもなんだか、なあ。あたしはどうしてこんなことしてるうんだろうって金曜日の夜一人になってから考えるんだけれども。やっぱり木曜日の夜にはバイトも入れず飲み会も断って晩ご飯つくたり外食に誘われればそれなりにおしゃれをして待っている私もいて。
そもそもこの大学を勧めたのも彼だった。地元の国立大学の教育学部に行って学校の先生になろうかと思ってたあたしに、和佳が学校が好きなことは知ってるけど、も少しがんばれば東京の誰もが知ってる大学に手が届くし、ずーっと地元で学生から即教員じゃあなくて一般企業とか公務員にしても県職員や市役所、国家公務員いろいろな職種もあるし、経済学部とかほかの学部も考えてみろよ。大学時代くらい地元からはなれてみろって、俺もそうしてみたら世界が広がったから、それから教員になることもできるんだからって、10も年上の初恋の人に言われれば真面目な高校生はその気になるでしょ。両親も頻繁に東京に行く幼なじみがお目付役もしてくれるならって許してくれた。だけどお目付役が一番キケンだったなんて知らないと思うんだけど。ちなみにこの部屋も彼のご両親が税金対策で買ったものを格安で貸していただいている。
勉強だって時間が許す限り彼がみてくれた。合格を誰よりも喜んでくれたのも彼だった。
そして、一人暮らしを始めてお母さんが帰った後、すぐの木曜日にやってきて、初めてだった私を抱いた。嫌だった訳じゃない。嫌だったら両親や彼のご両親に言えばよかった。ううん。したくないって言えば彼はこんなことしないかも。でも、毎週大好きな人に会って抱き合って、新婚さんみたいな夜と朝を迎えられる環境は手放せない。
だけどそれを大学の友達にはうまく話せないでいる。
水曜日と木曜日はたいていこっちで業務があって、金曜日の午後には地元の支社で会議があるんだって。私にこっちにくるのを進めたのもなんかこの辺含んでなのかなあとも思うけど、よくわかんない。だって、彼と過ごす時間は子どもの頃のそれとあまり変わらなくてひどく心地いい。家族とはなれてちょっとは寂しい私には週に1度のぬくもりが欠かせないし、オトコのヒトの彼は今までよりもっと格好よくって優しくて前よりも好きになった。
もっと外で会ってみたいとか、土日は何してるの?とか、聞きたいけれどこの心地よい木曜日を壊せないから聞けない。私にも授業はもちろんバイトもサークルも友達との時間だってある。
今はこれで、このまま、がいいのかなあ。でもこのままじゃあいけない気がする。
大学3年生は就職とか進学とか迷うことはたくさんで、相談とかついでに昼間の会話も考えて、彰にほかの男の陰をつらつかせてみたらどうなるかななんて思った10月の木曜日の午後11時。なぜか帰ってきて早々の彰に既に1回喰われて、ご飯もシャワーも終わって、あとは寝る?だけーでコーヒー入れてそれぞれ部屋着でのんびりしている時に。
「だから、これから就職か進学か考えていろいろ動かないといけないし、ゼミの同級生と親友も認めるほどいい雰囲気だし、もう、来なくていいから。」
と言ったからって両親との約束のこともあるし、来なくなったりはしないんじゃあないかな、なんて計算も本当はあった。
だけど、急に怒りだした彰にどうしていいかわからなくなった。
「じゃあ、お前はどういうつもりで毎週俺とこんなことしてんの?」
「だって、それは、彰が。」
「最初から、無理矢理だったつもりはないけど?」
最初、ううんと、お祝いっていって彰が持ってきてくれたシャンパン飲んで何となく盛り上がって「俺のこと好きだろうとか、いいよな。とかいわれてうなずいてなんとなくおしたおされて、嫌ではなくてきもちよくなって、挿入自体はいたかったけど、彰と一番近くになれたことが幸せで、2回目以降はいたくなくなってえ、今週も?って思ううちに、どんどん気持ちよくなってって、だから、今はそれ思い出しちゃいけないって。
「でも、なんにもいってくれないし。」
「言っただろう。こういう関係になったとき。『俺が好きだろう、ずっと一緒にいるな。』って。行為の最中にもちゃんと『可愛い』とか『好きだ』とか言ってるじゃないか」
「えー。何それ。そんなこと言ったっけ?どっちにしてもそれじゃあわかんないよ。だって経験値低いし。」
そういえばそのような台詞もあったような、でもキモチいいのとちょっと酔っぱらってたのでもうろうとしてたし。それって愛の告白?え?そういうものなの?行為の最中も、そういう言葉はみんな言うものじゃあないの?
「そういう問題なのか。お前なあ、だいたいこれだけ長い家族ぐるみの付き合いの30の社会人が学生に手だしたらそういう意味に決まってるだろう。親だって知ってるよ。お前がこの大学受けるって言ったときから親父さんにはいつもガンとばされてた気がするし。お袋さんもお前の弟も俺の気持ちは知ってると思うぞ。俺の両親もこの部屋を提供した時点で、まあ多分それより前から嫁認定だ」
「なにそれ、私だけ仲間はずれ?」
「いや、そうじゃあなくて。わかった。はっきり言わなかった俺が悪かった。一度しか言わないからよくきけ。」
なんだか疲れた様子の彰は珍しく真剣に私の顔を見た。
「和佳。お前がセーラー服の高校生だったときからお前が好きだ。お前しか考えられないから卒業したら結婚しよう。」
え、えええええええ。
じゃあ、あたしは何を今まで悩んでたの?
びっくりして口を開けているあたしに
「で、返事は?」
「え、だって就職したらどこに住むかもわかんないし。彰だって東京とあっちを行ったり来たりだし、私貯金とかあんまりないよ。」
「それらが解決したらするのか?そもそもお前は俺が好きじゃないのか?村野君とつきあうのか?それともほかに男がいるのか?」
「いない、し、彰が好きだけど。」
なんか冷静に考えたらすごく残念な気がしてきた。これってプロポーズ?なんだよね。なのに何でこんなあたしの部屋なんかでコーヒー飲みながらやってるの?夜景の見えるレストランで指輪用意してとかいうのがセオリーじゃあないのお?それを今更彰に求めてもってきもするんだけれど、でも彰の実家はセレモニーだってちゃんとするおうちだったし、時にはうちと合同でやってたし、中学生の頃とか誕生日にプレゼントくれたりドライブに連れて行ってくれたりしたじゃん。プロポーズは初めてだと思いたいけどきっと歴代の彼女さんともやってたような気がするし。幼なじみだし今更なの?
「ねえプロポーズって夜景の見えるレストランとかで給料の3ヶ月分の指輪とかで。」
「考えてたよ。だけどお前がいきなり来るなとか言うからだろうが。」
「全然デートとかしようって言わないし土日とかも一緒にいたくないのかなーって。」
「月に1度はそれなりの店に連れて行っているだろうが。それにあんまり若いうちから囲い込むのもって思ったんだよ。学生のうちくらい一人で自分の時間を満喫してほしいなって、まあ我慢できなくて、どうしても俺だけのものにしときたくて毎週抱いてたけど。」
「それってズルい。」
「大人はずるいんだよ。そもそも和佳は嫌だったのか?俺とこういうことするの?」
そんなことアゴクイして色気たっぷりの目をして言わないで!しかもキスとかされたらまた考えられなくなる。
「そういうときだけ大人ぶるし。」
「実際お前と俺は10歳年が離れてるの。でも俺はお前を手放す気なんてないの。だいたいそう毎週都合よく木曜日にこっちで仕事なんてあるものか。週の初めじゃあお前が疲れるだろうし、週末だとついそのまま居着きそうで自分が信用できなかったし、あえて木曜日なんだよ。」
「そういう、ものなの?」
「そういうものなの。」
「なんか体のいい現地妻とかかと。」
「だから、もう、わかったから、おまえはうちの会社に就職しろ。社会人として一から鍛え直してやるから。」
「彰が?」
「いや、それはさすがに無理だ。」
「でも専務の奥さんが新人とかって周りはどうなの。」
「そこは隠しとくしかないだろうなあ。まあほかにも付き合いのある会社がない訳じゃあないし、お前が会社員をやってみたいならそういう選択肢もあるってことだよ。他の男は論外だが、進路のことはそんなに思い詰めることはない、進学でも就職でもよく考えてお前のしたいようにすればいいし。専業主婦でも俺はいいけど、一度社会には出た方がいい。いきなり海外はやめてくれるとありがたい。2、3年なら待つ覚悟もあるけれど、できるだけ一緒に暮らしたい。俺もどちらでもできる仕事もあるが、基本的には東京とあっちを行ったり来たりだったりするし、海外出張もあるけれども、お互いの時間をすりあわせて一緒にいられるときは一緒にいよう。もう入籍だけでもするか?」
「え?」
いきなり捕獲?モードの彰になんだかついていけない気分になりつつ嬉しさがこみ上げてくる、やっぱり彰はいつだって頼りになる大好きな彰だった。でも告白?も初めてもプロポーズもこれだけハイスペック男子なのに昔は何人も彼女がいたはずなのに、どうしていまいち残念なの?あたしだから?大事にされてないの?あたし。
「また余計なこと考えてるだろ。確かに俺はお前のことになると余裕がない。大学時代くらいは自由に、と思ったのにさせてやれなかった。俺はお前がいないとだめだ。プロポーズも指輪もお前が望むならやり直すからもう嫁にきなさい。」
「うん。」
「いっそ子どももつくるか。」
「へ?」
「生むのも育てるのも若いうちというだろう。むしろ学生のうちに生んどいた方が、という社会学者もいる。それにお前今日はできやすい日だろう。」
え?そうなの?確か生理が終わったのは10日前、ってか何で彰がそんなこと知ってるの?そりゃあ定期的に会ってやることやってればもちろんできない日ってのは口に出すし、それはそれで一緒に寝るだけで私は満たされる訳だし。
そもそも、就職とか進学とかの話してたはずなんですけど、それも人生設計だけどそりゃあ彰の子ども、考えたことない訳じゃないけど。彰はいつもきちんと避妊してくれたし「ピルとか飲むべき?」って聞いたら「俺は気をつけているつもりだけれど、それでも和佳が必要だと思うなら。」って答えだったし。
「いきなり子どもとかはちょっとまだ心の準備ができてない感じだけど、わたしも彰と一緒にいたいです。」
「よろしい。」
満面の笑みを浮かべる幼なじみ改め婚約者の腕の中に満ち足りた気持ちで収まった。囲い込まれて捕獲された気がするのはきっと気のせいだろう。
それからの大学生活は怒濤の日々で、3日後には入籍、あっという間にやはり彰のお父さん所有のもっと広い部屋に二人で引っ越すことになり、彰は仕事の拠点を東京に移し、大学院への進学を決めた私の学部の卒業式の直後に彰そっくりの6ヶ月の息子をベビーベッドにねかせて結婚式をすることになった。