新婚旅行 5
同年同日 四時四十二分 フィンランド上空(機内)
「さてと...」
首相はあのあと三十分近く泣き続け、泣き終わったと思えば私の胸に寄りかかって寝てしまった。
今からはカチューシャに対する説教の時間である。
「カチューシャ...?」
「...」
...完全に拗ねてるな...
体の向きを私の反対側に向けている...
「...そのままの体勢でも良いから聞いてくれ...」
「...」
「権力、まぁ力を持つという事がどういう事か分かるかい?」
「...」
「...それは部下の命を、彼らの人生を自由に出来るという事だ。まぁ難しく言えば生殺与奪権を持つという事。」
「...」
「つまりまだ生きたかった人の人生を命令だけで終わらせる。つまり殺す事が出来るという事だ。」
「っ...」
「彼らの後ろには家族があり、親友等がいるはずだ。つまり命令だけでその者の人生を終わらせるだけでは済まず、彼らの家族、親友の人生をも間接的にだが変えてしまう...」
「っ...!」
「優しくて、聡明なお前には意味分かるだろう?そういう事だ。」
「...(首肯する)」
「あとは何も言わないでおこう...そこからはお前さんが考えて答えを出すんだ。」
「...(首肯する)」
「最後に言っておく。」
「...何...?」
「大好きだよ、カチューシャ。(微笑む)」
「っ...」
「じゃあ首相をベッドに置いてくr...カチューシャ...?」
カチューシャが私の服を掴んでいる...
「カチューシャ...?」
「...」
「お願いだから手を離してくれ...首相をベッドに運ぶだけだから...」
「...離れたくない...」
「カチューシャ...」
「嫌よ...離れちゃ駄目...駄目だから...」
涙目になりながら私の服を掴んで離さない...
カチューシャ...
「...はぁ...ったく、我儘だなぁ...」
カチューシャの頭を撫でる...
「ぁ...」
「すぐ戻って来る。(微笑む)」
「...うん。」
涙が目から零れないようにカチューシャは頷いた...
―――――
機内、寝室
「よし、これで大丈夫だな。」
...ぐっすりと寝ているな...まぁ仕方無いか...
「...寝ていると思いました...?」
「おや、起きてたか...」
「ええ...」
「んで、何か用か?」
「...単刀直入にお訊きします...」
「ん、どうぞ?」
「...このまま行ったらミハイルさん殺されますよ...?」
「ほぉ...?」
「とぼけないで下さい。私はミハイルさんの為に言ってますから。」
「...」
「...ミハイルさん、今すぐ本国へ帰るべきです。まだ本国の方が安全です。」
「...十二。」
「えっ...?」
「私を暗殺しようとしている組織の数だよ。」
「っ...!」
「スターリン同志を操っている黒幕、ねぇ...確かに私は色々政策を打ち出してきた...そう見えるのも仕方無いさ...」
「ミハイルさん...」
「だが...!私は偉大なる祖国、ソヴィエトを良くしようとしているだけなんだ!」
ベッドを叩く...
「っ...!」
「あ、すまん。怖がらせてしまったな...」
「いえ、大丈夫です...」
「...まぁ、アメリカを倒したらある程度後始末をして退陣するか...」
「!?み、ミハイルさん?何を言って...」
「私の階級はなんだったか覚えているか?」
「特別大将ですね...っ...!まさか...」
「正直アメリカを倒したら用無しになるんじゃないか?俺は。」
「そんな...!」
「いや、良いんだよ。シベリア送りや投獄されなければ...むしろ出来れば静かに後世を過ごしたい...」
「...」
「有難う、首相。私の事を思ってくれて。(微笑む)」
「当たり前です...私をフィンランドの首相にしてくださったのですから...」
「私を慕ってくれる部下がいる事を嬉しく思うよ。」
私は微笑みながら頭を撫でた...
「ミハイルさん...」
「じゃあ私は失礼するよ、お疲れさん。」
「...はい...」