シベリア鉄道、再び 2
色々と投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。では、連載を再開させて頂きます。
1942年2月17日 午後12時頃
ヨーロッパ・ロシア鉄道、シベリア鉄道支社線、お召し列車内特別一等室内
机で隔てられた先に客室乗務員を座らせた。
「...で、例えばどんな人にどんな事をされてるんだ?」
「...基本的には一等室の客ですがときどき...」
「...時々?」
「...その、幹部のかたが...その...セクハラを...」
「......成程。それで君は私を警戒していた訳か」
「は、はい...」
「...済まないね、うちの者達が」
「い、いえ...」
「ったく...うちの馬鹿共が...分かった、そこは同志に伝えてどうにかして貰おう。
...ところで車両内で犯罪を取り締まる者達は居ないのか?」
「...鉄道警備隊は居ますが中までは...」
「...鉄道警備隊を鉄道公安隊に引き上げて鉄道公安官に同乗させようか...?それとも...」
「す、すいません...私のような者がこんな事を言ってしまって......あ、け、消されませんよね...?私」
彼女が急に顔を青くした。
「...逆にセクハラする奴らを消してやるよ。少なくとも俺はそう考えている」
「よ、良かった...」
彼女は心底安心したように笑顔を見せた。
「大体君もソヴィエト連邦市民だろう?それならそんな者達を助けずして何が政治家か。特に鉄道は我が国の大動脈だ、これが無くなってしまったら終わりだからな。クレムリンに着いたら直ぐに対応しよう」
「...え?くれ、むりん...?」
「...?まさか私を知らずにこの話をしたのか?」
「え、えぇ...?」
「...私は評議会副議長及び特別大将のミハイル・ヴィサリオノヴィチ・スクリャノフだ」
「ミハイル...すくりゃ...!!ど、同志でしたか。も、申し訳ありません、全く知らされていませんでした」
「...それはまた...」
何故それで客室乗務員を務めて居られるのだろうか、と思いながら呆れていた。
「ではそろそろ車両の事聞いていいか?」
「あ、そうでs」
コンコン。
「同志ミハイル・スクリャノフ様、食事の準備が終わりました。2両目の食堂車にお越しください」
「そうか、もうそんな時間か。分かった、有難う」
俺は腕時計を見て、12時である事を思い出した。
「あ...やばい、絶対怒られる...」
...?顔を真っ青にし始めたぞ?
「...どうした?」
「私は客室乗務i」
「そういえば同志スクリャノフ様に質問があるのですが」
「何だ?」
「そこに客室乗務員は居ませんか?」
ビクゥ!!
「やめて...やめて...」
いや、何故机の下に潜って足に抱き着いて来てるんだよ...邪魔だぞ。
「ん?客室乗務員か?」
「言わないで下さい、おねがいします」
...あぁ、もう。そんなに震えるな!邪魔くさい。
「はい」
「いや、此処には子猫しか居ないよ」
「そ、そう、ですか。分かりました、失礼しました」
「ああ」
...うん、足音が遠ざかって行ったな。
「...ふぅ...ありがとうございます...」
「いや、確実にバレてるからな?」
「...うぅ...」
「諦めろ」
俺は頭を撫でた。
「あ、頭撫でるの......だめぇ...」
...最後の方が聞こえなかったが、まぁ良いか。
「ということで、行くか。大きい子猫ちゃん」
「うぇ...?!私は子猫では...!」
「じゃあ子猫じゃなかったって言いに行くか」
「やめてください...!」
「じゃあ子猫だな」
「うぅ...分かりました。私は同志スクリャノフがご主人の子猫ですぅ...」
「...その言い方はあざといぞ。...まぁ安心しろ、夕方6時にはそれも解任されるんだからな」
「あぅ...そうでした...」
「じゃあ行こうか」
「はい...」
俺は子猫を連れて食堂車に移動した。
......
食堂車
「失礼するよ」
「あぁ、お待ちしておりました。....そして後ろのは...」
車掌が不思議そうに言聞いてきた。
「ん?あぁ、夕方6時までの子猫だ」
俺は子猫の頭を撫でた。
「にゃ、にゃ~...」
「そ、そうですか...」
勿論車掌は顔を引き攣らせながら答えた。
「で、では失礼しました」
「ああ」
車掌は再び元の場所に戻って行った。
「...はずかしいです、わたしの黒歴史です...」
「さ、一緒に食べようか」
「ふぇ...?」
「だから一緒に食べようと言っているんだ、子猫」
「あ、はい...分かりました、もう何でもいいです...」
あ、目から光が消えかけてるな...
「さてと、今日は、と...」
俺は席に着いた。
「うん、美味しそうだ」
とにかく量が多いが...これは何人前だろうか...
「...本当にいただいて良いのですか?」
「...おそらく全部は食べれないだろうからな。流石に残すのも気が引けるし。ということでよろしく頼むよ」
「ありがとうございます...」
「じゃあ、戴きます」
「いただきます...」
ーーー
「美味しかった」
「はい、本当においしかったですね」
「...ここから見る車窓も良いな」
「...急にどうなされたのですか?」
「いや...またあの忙しい日々に戻るのか、と思うとな...やっぱりちょっと嫌だなぁ、と思ってな」
「...忙しい、ですか?」
「ああ。毎日書類仕事から国の方針の原案を作ってそれを提出して。朝は6時に起きて夜は午前1時~2時の就寝という生活だよ」
「...驚きです。むしろ上の方がゆっくりしているのかと思っていましたが...」
「だろう?...やっぱりソヴィエト連邦は数人で回すには、大き過ぎるよ...」
「...お疲れ様です、同志」
「ん...まぁこんな可愛い国民が、愛しい国民が居るからこそ、働けるのかもな」
「...ずるいです...そんな事言うなんて...」
「...?どうした?」
「何でもないですぅ」
「そうか、なら良いが...」
「...少しお休みになられてはいかがですか?ご主人様」
「...そうだな、そうするか。あっちに着いたら休めないからな」
「では、お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様だ」
私はそう言って、自室に向かった。
ーーー
同年同日 午後13時17分
特別一等室
「さてと...」
席に座ったは良いもののこの後何しようか...
う~む...寝るのは面白くないし、嫌な暇の潰し方だ。
...鉄道公安隊創設の計画を練るか。
というかロシア国鉄って幾つ管理局で分かれていたのだろうか。
...聞くか。
俺は呼び鈴を鳴らした。
...今度は直ぐに足音が聞こえてきた。
「どうなされましたか?」
「ロシア鉄道について聞きたいことがあるのだが」
「分かりました、今子猫を連れてまいります」
お、おう...子猫か...
「ああ、有難う」
均一の足音が聞こえなくなった後、今度はばらばらな足音が聞こえてきた。
...先に来た人は相当のベテランだな。走る車内では横に揺れたら振られそうになるのにその気配が全く無かった。
...まぁ、子猫は...素人そうだし仕方ないか。
「わたしです、ご主人様」
「...入れ」
「失礼します」
扉が開くと子猫が入って来た。
「まぁ座ってくれ。...相当絞られたか?」
「はい...」
「まぁ仕方ないわな。...取り敢えずロシア鉄道の管理局を教えて貰いたいのだが、良いかね?」
「...休まれるんじゃなかったのですか?」
「...そんな事言ったか?」
「言いました、ご主人様」
頬を膨らませながら言う。
「休まれるって言うから私は離れたのに...これでは意味がないではありませんか」
「まぁ仕方ないだろう?働き過ぎて逆に働かないと落ち着かなくなってるんだからさ」
「...わかりました。それでロシア鉄道の管理局、でしたか?」
「ああ」
「ロシア鉄道の管理局、まぁ支社ですが、支社としては16支社あります」
そうか、支社扱いだったか...日本国有鉄道は管理局で分かれていたから勝手に管理局にしていたよ。
そして意外に少ないな...国鉄は26個位管理局が有った筈なのだが...
「まずモスクワ鉄道支社。次に十月鉄道支社ですね。」
「...十月革命だから十月鉄道支社、か?」
「はい。良い名前だとおもいませんか?」
「...まぁ、そうだな」
「...?次はスヴェルドロフスク鉄道支社ですね。
更にカリーニングラード鉄道支社、ゴーリキー鉄道支社、沿ヴォルガ鉄道支社、北部鉄道支社、北カフカース鉄道支社、南東鉄道支社、南ウラル鉄道支社、クラスノヤルスク鉄道支社、クイビシェフ鉄道支社、西シベリア鉄道支社、東シベリア鉄道支社、ザバイカリエ鉄道支社そして最後に極東鉄道支社ですね。」
「...シベリア鉄道は七つの鉄道支社で経営しているのだな」
「はい。さすがに広大な地域を走っているので」
「成程...では鉄道警備隊を改編して、鉄道公安隊を作って、警乗させるとしたらどうなるだろうか?」
「...今や相当鉄道の範囲が広がってますから...隊員が数万人と必要になるとおもいます」
「...フィンランド戦後、ベリヤが秘密裏にソヴィエト連邦全土に鉄道を引いたからか」
「...秘密裏だったのですか?」
「ああ。少なくとも私は知らなかった」
「なるほどですね。...で、どうなさるのですか?たしかここ数年の決算は確実に赤字ですが...」
「...余りにも酷い場合は一部の路線を休線にするしか無いな。ただ、確実に利益が出る支社があるからその利益で補填して行くしかあるまい」
「...民営化は、かんがえていますか?」
「...私は考えてないよ。幾ら赤字が出ようとも民営化はさせない」
「なぜ、ですか?」
「我が国のインフラは現状、全て鉄道によって支えられている。おそらく幾ら時が過ぎようとも、我が国のインフラは鉄道が大部分を支えていく筈だ。...それを民営化させて、肝心な時に使えなかったらどうする?」
「それは...」
「例えば戦争が起こってしまったとする。民営化したロシア鉄道はあくまで民営会社の為に、安全を取って鉄道を動かさなくなる可能性がある。そうしたら、我が連邦はどうなる?」
「...すべてのインフラを鉄道で支えているため...、終わりです」
「そう、そういう事が起きてしまう。因みに鉄道を軍の下に置いて前半は戦争を優位に進めていた国が分かるか?」
「...いえ、わかりません」
「...ドイツ帝国だ」
「ドイツ、帝国ですか?」
「ああ。実はドイツ全土の鉄道は平時から参謀本部の管轄下にあった」
「?!...それは、本当ですか?」
「ああ、本当だ」
かの有名なシェリーフェン・プランの動員のダイヤ作成を手掛けた『ヴィルヘルム・グレーナー』は参謀本部で鉄道課長という役職をしており、ドイツ全土の鉄道のダイヤ作成も行っていた、というのは余りにも有名な事実だ。
「鉄道が国の下にあるからこそ、どのような事が起きようとも運行する事が出来る。インフラを支える事が出来る。...だからこそ、民営化は絶対させない。まぁ、休線にしても辛いならば、国家戦略的に譲れない路線以外の路線を私有鉄道に任せるか、自治体に維持させるかするさ」
「そう、ですか...」
「ああ。っと、相当話がずれたな。...まぁ鉄道公安職員自体は軍から余剰人員として除隊してきた者達を教育し直して、やるしか無いな」
「そう、ですね」
「分かった。運輸通信省大臣に提案として色々と送っておくよ。有難う」
「いえ、大丈夫です」
...良い笑顔だ。本当に。
「...今度こそ、寝るよ」
「...わかりました」
「...おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
...俺は彼女が出て行った後、ベッドを引き出し体を投げ出した。