ゴーリキー講話会議 2
取り敢えず今の内に既に完成していた話を上げていきます。
1942年1月27日 午前10時00分
ゴーリキー州、ゴーリキー市内、ゴーリキー州庁舎内、会議室
前日と同じ配置にほぼ同じ(・・・・)人が座っていた。
...やはり改めて見ると壮観だなぁ...歴史上の人物と実際に見る事が出来、それを私が纏める...うん、ありえん。だが現実だ。ちゃんとしなくては。更に今日は同志スターリン(・・・・・・・)が参入してくる。上手くやらなくては終わるだろう...頑張らなくては。
私は一息付き、再開宣言を行う。
「...では、2日目を始めます。どうぞ」
...いきなりヒトラーが挙げてきたか...
「どうぞ、アドルフ・ヒトラー様」
「...一つ議長に質問したい。何故ソ連代表がモロトフからスターリンに変わっているのだ?いや、まずモロトフが居たのが可笑しかったのだが...」
まぁ当たり前そこ聞いてくるよな。
「理由としましては昨日の鉄道ダイヤが軍優先となっていましたので到着が遅れてしまった、と聞いています」
「......議長がそう言うのならそうなのだろう。分かった、有難う」
...引き下がるか。もう少し粘ると思っていたが...まぁこちらとしても好都合だ。
「はい。では続けましょうか」
...?最初から行きますか?同志スターリン。
「どうぞ、スターリン様」
「我々ソヴィエト連邦は戦災復興の為の支援は最大限行うことを宣言する。要請を受ければ何処だって飛んでいく事を誓う」
...これは大きい。最初から物理的に戦災復興支援の約束は賠償金から目を逸らさせる事が可能だろう。今のところは掴みは良いが...
「そう言いながら実際には共産主義の布教だろう?スターリン」
まぁ、そうなるよな。だが、ここは一つ釘を打っておこうか。
「ウィンストン・チャーチル様、発言する時は挙手にてお願いします」
「っ...分かった」
ここで...勿論同志スターリンが挙手。
「今さっきチャーチルが言った通り、皆私が共産主義を布教しようと思っているかもしれん。だが、私はあのウクライナを独立させたぞ?それにこれからも雪解けを行うつもりだ。安心したまえ」
「ほう...」
そんな声が何処からか漏れたのが分かった。
...再びヒトラーが挙手、か。嫌な予感はするが、まぁ議長だから当てるしかないだろう。
「どうぞ」
「...私は確かにドイツ第三帝国を育てた。育てたが...もう一人共同で育てた奴が此処に居る」
...やはり来たか...
「それはソ連だ」
「何?」「それは本当なのか?」「そんな馬鹿な...」
...やはり爆弾落としてきたか。まぁこれは「想定の範囲内」だ。
「実は私はソ連国内を借りて戦車の開発、訓練を行ってきた。その代わりに使用代金をソ連に払っていたのだ。...つまりドイツを強くさせたのはソ連のせいでもあるのだ」
...まぁ勿論同志スターリンは対抗して...手を挙げたな。
「...成程。確かにその通りだよ、アドルフ君。...しかし、それならもう一人断罪するべき人が居るではないか。...違うかね?チャーチル」
「っ...!」
...今何を言っている?スターリンは。こいつ(・・・)は何を『馬鹿な事』を言っている?
と、取り敢えずチャーチル首相に喋らせようか...
「...どうぞ、ウィンストン・チャーチル様」
「...ネヴィルは、あいつは...」
!!...やっぱり...やっぱり...!何があっても認められない!!
「...ネヴィルは...!」
「悪くない!...そうですよね?チャーチル首相」
「っ...?!...議長...?」
あぁ、チャーチルが驚いている...いきなり首相、と擁護の声を上げて驚いている...
...でも、功労者を、影の功労者を蔑ませる訳にはいかない...!
「...首相、彼は...彼は彼なりに裏で頑張っていた...そう、ですよね?」
「ぎ、議長?いきなり何を...」
...黙っていたまえ、アドルフ・ヒトラー。君から祖国を護ろうとした者を、これ以上蔑ませる訳にはいかないのだ。
「...あの男は、...ネヴィル・チェンバレンは頑張っていた!」
「な、何を...」
...それで良いのです、首相。私は貴方を援護しますから。
「...チェンバレンが首相に就任した当時、イギリスには拡大してきたドイツを倒す強さは、いや、正確にはイギリスを守る軍事力さえ無かった。何故ならイギリスは第一次世界大戦が終わってからずっと、軍縮を行って来たからだ。
...その為にチェンバレンは、表では宥和政策の振りをしながら裏では軍事力を拡大させて行く他無かったのだ。
実際我々の最新鋭の戦艦、キング・ジョージⅤ世級以下の艦艇は全て彼の政権下にて、毎年毎年軍艦増強の計画を改定し、建造されたものだ。更に我々の最新鋭戦闘機、スピットファイアも彼の政権下で開発されたものだ。
しかし、それも1939年9月1日に彼の表の宥和政策の破綻を期に、環境は変わった。皆、表だけを見てチェンバレンを叩き始めたのだ。勿論私も叩きに叩いたよ。表だけを見ればただの無能なのだから。
...しかし、私は首相に就任して、そこでようやく初めて気付いた。彼が最後の最後まで足掻き続け実のり始めた功績達を。...彼の『最期の置き土産』を。
...今更だった。私は就任するまでチェンバレンを叩いていたのに、国を纏めて首相になった瞬間それをひっくり返す事等出来る筈が無い...
結局私に出来たのは、彼の功績を、彼の『最期の置き土産』を使って、国を守る事だけだった。
そう、その約1年後の事だ...チェンバレンが亡くなったのは...
...彼への、せめてもの罪償いで必ず祖国を、大英帝国を護ろうと決意して、立ち向かったよ。...だが、私はそんな彼の『最期の置き土産』をすり潰しても、国を守れなかった。彼を無能扱いした神からの罰なのだろうね。
...此処で言うものでは無い事は分かっている。だが、言わせてほしい。...本当に...本当にすまなかった...!」
...お疲れ様です、チャーチル首相。では、私も仕事を続けましょうか...
「...ヨシフ・スターリン様。飛び火をさせるような事は御遠慮下さい」
「...分かった」
「そして...アドルフ・ヒトラー様。...どちらにしても最初に始めた責任は貴方にあります。そこは何があっても変わらないことをご承知下さい」
「し、しかし...」
「良いですね?」
私は低い声で言った。
「っ...分かった」
「...では、会議の続きをお願いします」
ーーーー
最終的にスクリャノフの一言で無駄な話も無く、直ぐに終わった。
内容は以下の通りである。
1、アドルフ・ヒトラーをドイツ、オーストリアから永久追放処分とする。また、SS関連部隊を「全て」を解隊させる。
2、アドルフ・ヒトラーの側近を政治から永久追放させる事とする。
3、ソヴィエト社会主義共和国連邦は要請された場合に付き、他国に与えた損害を経済以外の方法で戦災復興支援を行うこと。
4、条約締結国はヴィシー・フランス政府とアメリカ自由政府を正統な政府とし、継承国家として認めること。
その為に自由フランス政府とアメリカ軍事政府の撲滅を条約締結国で努めること。
5、ソヴィエト社会主義共和国連邦及び大日本帝国は、統治している占領地を解放すること。
なお、被占領地は国民選挙の結果、残留派が多ければ、占領国の許可を得た場合にのみ、残留が出来る。
6、条約締結国は世界連合という世界調停機関に加盟すること。
7、ソヴィエト社会主義共和国連邦は、ゲオルギー・ジューコフをーーーー。
「...では、議決を取ります。ゴーリキー講和条約を支持する国は拍手をお願いします」
...全員、拍手、だな。
俺は息を飲んで、心を静めながら言った。
「...では、可決となります。本講和条約の履行をお願いします!有難う御座いました!」
...その瞬間、再び盛大な拍手が巻き起こった。
ーーーー
会議場脇
さてと...会議は終わったが少しお話をしに行かなくてはな。
俺はチャーチル首相とペタン大統領が話している場所に向かった。
...さて、どんな話をしていらっしゃるか。
「やはりミハイルに任せて正解だったな、ペタン」
「ああ。お前が推薦するロシア人だからどんな奴かと思えば...本当に良い人選だったよ、チャーチル」
...第一次世界大戦時代の元海軍大臣と元参謀総長の組み合わせって今思うと凄いよな。
「お疲れ様です」
私は何気なく話に入った。
「おお!立役者の登場だ」
「有難う、ミハイル。イギリスは、そして何よりネヴィルは救われた...本当に、有難う...」
「いえ。...これからもイギリスをよろしくお願いします」
「ああ、頑張るさ」
「...そしてペタン閣下」
私はペタンの方を向いた。
「うん?」
「貴方は素晴らしい判断を致しました」
「...というと?」
...言うか。あの事実を。
「...実を言いますと、ヒトラーはフランスを、フランスという国自体を無くそうとしていました」
「「?!」」
「...それは本当、なのか?」
「はい。ところが、貴方が敢えてヒトラーに近寄る姿勢を取った為、ヒトラーはそれをやめます。
...本当に苦渋の決断だったでしょうが結果的にフランスを生き残らせたのです。本当に素晴らしい判断をしました」
「...そうか、あの決断は間違いではなかったか」
少し間を空けて、話した。
「はい」
「つまりペタンはフランスの『影の功労者』、という事だな?」
「はい、その通りです」
「...良かった。反対意見を無理矢理潰してでも通させて良かった...」
「...おめでとう、ペタン」
「ああ...有難う......」
「...ただ、ひとつ必ず約束して下さい」
「何だ?」
これだけは、これだけは言っておかなくては...
「...ド・ゴールだけは必ず殺してください。あの男には容赦など要りません」
「...君が言うならそうするよ、ミハイル」
「...何故そこまで念押しをするんだ?ミハイル」
「祖国フランスが既に元に戻ったというのに未だ亡命政権を組織している男ですよ?そんな男に国を渡せますか?」
「「あぁ...」」
...二人とも同意したな。
「分かった、必ずそうするよ」
「お願いします。...あ、チャーチル首相」
「何だ?」
「夜、KGBゴーリキー支部へお越し頂けませんか?少しお話が...」
特にイギリス王室についての...
「分かった、そうしよう」
「有難う御座います。...それでは」
「ああ」
「お疲れ様だ」
私は二人に頭を下げ、失礼した。
ーーーー
KGBゴーリキー中央支部、執務室
...私の目の前には少し不機嫌な同志書記長が居た。
「...さて、スクリャノフ。言い訳は?」
恐らく私が先の会議で文句を言ったからだろうが、ここは。
「言い訳など致しません、同志スターリン。何故ならあの時は私が議長で、同志スターリンは会議に参加した一員に過ぎないのですから」
「......」
...今度こそ怒らせたか...?いや、それでも言うべき事だった筈だ。
「......」
「...それでこそ、議長だ。良くやった」
あ、笑顔になって下さった。
「有難う御座います」
「ああ。では、私はゲオルギー・ジューコフをシベリアに送って来るよ。...本当なら同志が行く筈のものだったがな」
「あはは...まぁ旅行はせめてソ連が無くなってから、ですかね」
私は苦笑しながら言った。
「ハッ、それもそうだ。...では、クレムリンでな」
「はい、クレムリンで」
...私達は別れた。