秘書の資質(?)
...夜。午後10時を過ぎた頃。
私は今さっき自分の執務を終えた。
もう仕事は終わったから寝ようとした時だった。
コンコン!
ビクッ!!
...そう、これは恐らくいつものあれである。
よく午前4時頃に来て、「やぁ同志。一緒に地下室に行こうか。」、と言われ地下室で永遠の眠りにつく奴だ。
...まさか私にも来るとは思わなかった。いや、確かに私は沢山迷惑を掛けた。掛けたのだがまさか...
...しかし、私は敢えて死亡フラグを言い放ってやった。
「おや、こんな夜中に誰か来たようだ」
「いや、私よ?KGBでもないしまだ午後10時だからね?」
...訪ねてきたのは愛しい愛しい妻でした。
「入っていいぞ」
「ええ」
扉を開けて入って来たのは愛しい妻、エカチェリーナだ。
「もう終わった?仕事は」
「ああ。取り敢えずは終わったな」
そう、良かった...そう言いながら妻は私の隣に座り、体を寄せて来た。
「...どうしたんだ?」
...正直こうも近いとエカチェリーナの良い匂いがして落ち着かないのだが。
するとエカチェリーナは上目遣いをして言った。
「...私を直ぐに出て行かせてどんな気持ち?」
...はい?
「...ねぇ、どんな気持ち?どんな気持ちなの...?ねぇ...」
あ、涙目になってきた...
「正直悪かったとは物凄く思ってる。だが仕事中で更に重要な交渉をしていたんだ。...済まなかった」
俺は素直に頭を下げた。
「...ねぇ。仕事と私、どっちが大切なの...?」
「っ...!」
...ここまで俺は追い詰めていたのか?妻を?
「...ねぇ、答えてよ。仕事と私、どっちが大切なのよ!」
...初めて妻を怖い、と思ってしまった。
確かにここまで追い詰めたのは俺だ。だが、ここまで来るともう...
...しかし、その思いは妻の目を見た瞬間に消え去ってしまった。
...妻が泣いていた。
ぼろぼろと瞳から大きな涙が零れてきていた。
私の愛しい妻が、あの可愛らしい妻が、今にも壊れそうな顔で泣いていた。
「どっちなのよ...うぅ...」
...俺は無言で抱きしめて言った。
「勿論お前だよ」
「じゃあ何で私を爪弾きするのよ...!」
「それは...」
「いつも何時でも支え合うのが夫婦じゃないの?!違う?!」
っ...それは...確かにその通りだが...
「私を秘書にしてよ!何があっても貴方を守るから!...お願いだから...私に、私に貴方を支えさせてよ...」
...ここまで意思が固いか。...仕方ない、させてやろうか。ただその前には...
私は紙にある事を書いて、封筒に入れて妻に渡した。
「...分かった。じゃあこれを同志スターリンに渡してきてくれ」
「...!」
妻はそれを聞いた瞬間、涙を拭いてこっちを見てきた。
「ほ、本当?本当に、良いの...?」
「ああ、渡してきてくれ」
「わ、分かったわ!ちょっと待っててね!」
妻は大急ぎで扉を開けて行った。
...本当に可愛いなぁ、俺の妻は。
...さてと、今度こそ衛兵が来て連れて行かれるだろう。
まぁそれも覚悟の上だ。それまでゆっくり紅茶でも飲んでおくことにしようか。
...にしてもロシアの紅茶はよく紅茶にジャムを入れて飲むもの、と日本では思われがちだが実はそれらはポーランド系の飲み方らしい。
妻に聞いて知ったのだが、その当時は恥をかいたのを覚えている。
ではどう飲むのかというとティーカップとは別に小さな器にジャムを盛って、スプーンで軽く口に含んだ状態で飲むらしい。
因みに他にもハチミツや角砂糖を溶かして飲んだり、ウォッカを少量混ぜて飲む事もあるとか。
この辺りは流石ロシアといったところか。
...唐突に何故紅茶の事を話し始めたかって?
...最近紅茶しか飲んでいないからついね。
コンコン!
お、今度こそ衛兵だろう。
そして、改めて私は言った。
「おや?こんな夜中に誰か来たようだ」
...その後、私は衛兵に両腕を掴まれたまま、同志スターリンの居る部屋に連れて行かれたのだった。
ーーーーーー
「えっと...これはどういう...」
私の目の前にあるのは執務机の椅子に座っている怒り心頭の同志スターリンにソファーにしょんぼりとしたまま座っているエカチェリーナだった。
「しらばっくれる気か!この馬鹿野郎が!」
...久し振りにここまで怒られてる。流石に演技でも怖いです、同志スターリン。
「っ...本当に分からないのです。何の事でしょうか...」
「わしに、このわしにドッキリを行えと?!ふざけてるのか!!」
「ヒッ!も、申し訳ありません!」
「...いや、まぁエカチェリーナが怯えている姿を見たから役得としておこうか」
この言葉を聞いた瞬間エカチェリーナは俺と同志スターリンを見て言った。
「...え?どういう、事...?」
「本当に有難う御座います、同志スターリン」
「いや、問題ないよ」
「...まさか2人して私を騙したの?!」
「...エカチェリーナ、同志スターリンの前でその喋り方は何だ?」
「いや、でも...」
「この国のトップを、どなただと思っているんだ」
「っ...」
「...エカチェリーナ、一言言わせてもらうが」
あ、同志スターリンが鼻根を揉んで...
「...何でしょうか、同志スターリン」
「...厳しい事を言うようで辛いが...君には秘書は向いていない」
「っ...!それは、何故でしょうか...」
「もし私が秘書なら機密と書いていない書類は中身を読む。もし読んでなかったとしても受けとった相手が怒った時は直ぐに誤りその理由を何が何でも聞いて、理不尽な理由だったら反論するだろう。何故か分かるか?」
「...いえ」
「それは上司の顔に泥を塗るからだ」
「それは...」
「あぁ、あの男はこの程度の男なんだな。部下を管理出来ていないんだな、と相手からは思われる。そうなると上司の評価はどうなる?昇進が無くなるなら未だしも重要な物事だったら一発で左遷かシベリアだぞ」
「で、ですが...失敗は...」
「秘書は上司を補佐する役割にある。違うか?」
「っ...」
「少なくともこの現状では秘書になる事は私が認めん。それが例えスクリャノフの願いだったとしてもな」
「...はい」
...言いたい事を言って頂き、有難う御座います。
...?同志スターリンが何か書類を書き始めたか?
「...エカチェリーナ秘書候補に命ずる。これから『秘書教育部』にて一ヶ月間の急造秘書教育研修を履修する事を命じる。背命も抗命も許さん。...良いな?」
そう言って書き上げた命令書を封筒に入れて、エカチェリーナに渡した。
「っ...はい...!で、では失礼しました!」
エカチェリーナが出ていく。
「...有難う御座います、同志スターリン」
「これで良かったのだろう?」
「はい、私の思った通りにして頂いて感謝の極みです」
「ん、良かった。...では、一ヶ月後。宜しく頼む」
「分かりました、同志スターリン」
こうして、エカチェリーナに対してのドッキリは大成功に終わった...
...ですから何度も言いますが...
何でこの一ヶ月投稿していないのにPV数がおかしい数値になっているんですか!?
...まぁ出来る限りこれからは一週間に一回は投稿しようと考えています、代替機が来ましたから。
...これからもこの作品をよろしくお願いします。それでは。