軍縮とイギリス王室
1942年1月26日、午後9時53分
ゴーリキー市内、KGBゴーリキー支部内、執務室
...今日も色々あったな。
まぁ取り敢えず、反フリーメイソンのユダヤ人に会えて良かった。これで安心して活動できる。
コンコン!
「どうぞ」
「失礼します」
扉を開けて入ってきたのはボルマンだった。
「報告を持って参りました」
「ん、有難う」
私は彼を椅子に座らせると報告を始めさせた。
「まずドイツの方向性としましては明日ソ連とドイツの組んだ秘密協定を暴露し、損害賠償を減らす事で決定したようです」
「ふむ...その件について同志モロトフには?」
「伝えています」
「なら、大丈夫だろう。同志なら大丈夫だ」
出来る限り援護もするからな。
え?議長として失格だって?大丈夫だ、ギリギリ中立のところで動くからな。
...逆に言うと、それを超える場合は援護は全く出来ない、ということだが。
「...分かりました。では続いて他の国ですが...まぁ基本ドイツに賠償させる方向性になっています」
「まぁ、開戦国だからな...ただあまり重くしていけないのは確かだ。特に過度な軍縮はしてはいけない」
「何故ですか?」
「...ふむ。では例え話をしよう。例えばボルマンがビールを飲みたいと思っているとする」
「まぁ今も少しは飲みたいと思っていますしね」
「...流石に勤務後にしてくれよ?」
「流石にそこは弁えていますよ」
「なら良いが...っと脱線したな。で、飲みたいとするだろ?」
「はい」
「そこに私がやって来てボルマン、君はこの戦後処理が終わるまでビール飲むの禁止だ、と言ったらどう思う?」
「最悪殴りに掛かるか、秘密で沢山飲む可能性が充分にありま...あ、成程」
「そう。不思議な事でね。
平和を望むならば逆に過度な軍縮させてはいけない、という不思議な逆説が国際関係でも起きてしまうんだ。あの第1次大戦後のドイツのように...」
「...確かにそうですね。自分達に置き換えれば分かることを何故その時は分からないのでしょうか...」
「それが目先の事だけしか考える事が出来なかった政治家、というところだ」
「成程...」
「この悪循環をここで止めなくてはいけない。ボルマン、諸外国にこの件を伝えておいてくれ」
「分かりました」
...これで、上手く行けば良いが。
「で、今度はフリーメイソンについてですが...」
「話してくれ」
私は姿勢を直した。
「今回侵入しようとして捕獲された人数は3人でした」
「......まだ入って来ようとしているのか?奴等は」
「はい」
「懲りない奴等だな、フリーメイソンも」
「そうですね...」
「...そういえばジョージ6世は」
「ガッチガチのフリーメイソンです」
「...消そうか」
「...はい?」
「いや、消してしまった方が良いだろう」
「...相当軋轢が起きてしまいますがそれでも良いのですか?」
「今イギリスは『民間で』ユダヤ人狩りが行われている。違うか?」
「っ...」
「ジェームズ君から聞いたよ、相当危急の事態だと」
「それは...」
「...史実でもジョージ6世はイギリス王室の権威を落とした。俗世化を進ませたからだ。...まぁ跡継ぎがエリザベス・アレクサンドリア・メアリー王女だが、まだ16だからな...出来ればまだ彼女には自由に生きて貰いたいと思うのだが」
「...時間が、ですか」
「ああ。...最悪少々手荒な事をしなければならないかもな」
「...」
「ジョージ6世とメアリー王女に謁見の許可を取れるかチャーチル首相に伝えてくれ」
「分かりました。...取り敢えず報告は終わりです」
「...ん、分かった。下がって良いぞ」
「では...」
ボルマンは出ていった。
...何があっても神聖化、またはそれに近いことを行われている者は絶対にその地位から下ろされてはいけない。
特に王族、皇族全てが消されるのはもっての他だ。
何故か?思い出して欲しい、完全に消された国、下ろされた国がその後どうなっているか。
例えばフランス。あのフランス革命である。
世界史を知っている人ならば分かるだろう。
フランス革命以降まるでフランスが神に見限られたかのように安定した平和な時代が無いことを。
例えばロシア。ロシア革命である。
ロシア革命は誰が見ても明らかである。
良くなった事などあっただろうか?いや、無い。それどころか完全に闇の時代へと向かっていってしまった。
そして、日本。敗戦である。
我が国は敗戦によって陛下と皇族の世俗化が起きてしまった。
本来元を辿れば陛下は日本創世期の神の血統を継ぐ血筋である。
だからこそ、神聖化されていたのである。
だからこそ、思想の統一を行われていたのである。
それが敗戦によってどうなっただろうか。
経済だけ発展した中身の無い国家になってしまっている。
本当に嘆かわしい...
...つまり何を言いたいかと言うと、上のものが消されたりすると、思想が統一されず。
国民は何を信じ、何をすれば良いのか分からなくなり、更にそこに社会主義、共産主義の思想が入り込んでしまい、国を蝕んでしまう。
だから私は思う。
完全に下ろすのはいけないし、消すのはもっての他であると。
...まぁ勿論腐っていたなら消しても良い。
が、出来れば親族を立てるか、他から連れて来て立憲君主制の方がまだ良い。
今回の場合はイギリス王室がフリーメイソンに乗っ取られ、操られるという考えられる限り最悪の事態だ。
だから今回は敢えて潰しに行くしか無いだろう。
逆にここで根付かせてしまえば...
もう考えたくも無い。
因みに有難い事に次の王位継承者はエリザベス王女、つまり女性だ。
フリーメイソンは女性の加入を拒否している。
これを利用して、フリーメイソンパージを始めよう。
さぁ、私にどれだけ抵抗出来るかな?フリーメイソン。
楽しみだ。
コンコン!
「おや、こんな夜中に誰か来たようだ」