ゴーリキー講和会議
1942年、1月26日、午前10時11分
ゴーリキー州、ゴーリキー市内、ロシア国有鉄道(RNR)、ゴーリキー駅
ゴーリキー駅に不思議な車両が入ってきた。
全車両、一等車の車両だ。
そして、そこから老若男女な人達が降りてきた...
「...ここがゴーリキー、か」
「確か一週間前まで戦闘が行われていた筈ですが...」
彼が言う通り、一週間前まで戦闘が行われていた。
が、しかし地面には瓦礫が一つもない、綺麗な駅前の広場を目の当たりにした。
皆、不思議に思っていると声が飛んで来た。
「こんにちは」
その男の声で全員がその男の方を向いた。
「今からゴーリキー州庁舎の会議室へ移動します。少々歩かせてしまいます事、先にお詫び申し上げます」
「運動不足の解消には良いものだよ」
皆、それを聞いて笑った。
また、男が口を開いた。
「有難う御座います、チャーチル首相。
...あ、自己紹介を忘れておりました。
私は今回のゴーリキー講話会議の議長を務めます、ミハイル・ヴィッサリオノヴィチ・スクリャノフと申します。よろしくお願い致します」
一部の者を除いて、皆どよめいた。
・・・・・・
「では、移動します」
皆、その男に着いて行った。
「...スクリャノフ議長?」
「何ですか?チャーチル首相」
「...本当に一週間前まで戦闘が行われていたのかね?」
「はい。だからこそ今は実質ここの統治者が私で、貴殿方がここでの開催を許可したのではありませんか」
「...そうだよな」
「はい」
ピィーッ!
「...汽笛、ですな」
「ええ。我が国は現状において、移動手段が鉄道に限られているので...」
「成程...」
「...あともう少しで着きます」
...皆気付かなかったが、この汽笛を鳴らした列車は多くのソ連兵と、瓦礫を乗せて、シベリア方面へ走っていった。
・・・・・・
同年同日、午前11時00分
同州、同市内、ゴーリキー州庁舎内、会議室
「...では、午前11時になりましたので始めましょうか。
...これより第二次世界大戦に関する講話会議、ゴーリキー講話会議を開会します」
皆、拍手をした。
「ではまず、各国の首相、大統領、書記長から損害賠償についてお話下さい」
ある男が手を挙げた。
「...ドイツ連邦、アドルフ・ヒトラー総統」
アドルフ・ヒトラーが立ち上がり、言った。
「我々ドイツは先日のクーデターにてソ連を支援する為に軍を派遣した。その分の行動費の賠償をして貰いたい」
「...モロトフ外相、答弁を」
「はい、その件について回答致します」
皆、息を呑んで、次の言葉を待った。
「我がソビエト連邦もこの軍事クーデターに関しては被害を受けました。
...ですので我々ソビエト連邦も被害者でありますので賠償金は払いません」
「...は?」
「...ですから、今回の件の全責任は『ゲオルギー・ジューコフ』にありますのでそちらの方に御請求下さい、窓口を作りましょう」
「...いや、そんな馬鹿な話が」
「元々第二次世界大戦を引き起こしたのは何処の国でしたかな?」
「ぐっ...」
「我々ソビエト連邦はプラウダの名の下に、戦争に参入したのです。良いですね?」
「しかしフィンランドは侵攻したではないかね...」
「何を言う。フィンランドは」
女性が手を挙げた。
「フィンランド共和国、サラ大統領」
「...確かに我が国はソビエト連邦により侵攻されました。そこは謝罪を求めます。
...しかし、同時に復興支援もして下さり、皮肉ながら元々より発展いたしました。
ですので、謝罪は請求いたしますが、賠償責任等の請求権利は破棄させて頂きます」
「っ...?!」
「...当事国が権利を破棄したので、フィンランドの話は終わりにしたいと思いますが...
よろしいでしょうか、アドルフ・ヒトラー様」
「くっ...分かった。議長の意見を受け入れよう」
手が挙がった。
「...イギリス連邦、チャーチル首相」
「我々イギリス連邦はドイツ連邦に損害賠償及び謝罪を要求する」
「っ...?!...敗戦国が何を...」
「それを言ったら此処に居る国の各欧州国家とアメリカ合衆国は敗戦国だと思うが、違うかね?アドルフ」
「くっ...」
更に男が手を挙げた。
「...ヴィシー・フランス政府、フィリップ・ペタン大統領」
「我々フランスもドイツに対し、謝罪と損害賠償を要求する」
「何っ...?!」
「我々フランスもドイツ侵攻の為多くの損害を受けた。その償いはしなければならない」
「き、貴様ぁ...!生かしておいてその態度か...!」
「...私はヴェルダンで約束したのだ。例え何があろうとも、敵を通さない、と。
予備役に入れられていたから無理だったが、もし私が指揮官であれば、通さなかっただろうし、倒していただろう」
「この...やろうが...!」
「皆さん一度落ち着いてください。...取り敢えず一度休憩を挟みましょう。良いですね?」
その言葉を聞いてほぼ全員が頷いた...
・・・・・・
休憩所(ソビエト連邦)
...何とかなったか?
「同志スクリャノフ」
「あぁ...同志モロトフ」
「本当に有難う御座います」
「...何がですか?私は何もしておりませんよ?」
「いえいえ。...まぁ取り敢えず上手く行きましたね」
「...油断は禁物です。何とか逃げ切らなければ...」
「...で、このアイデアは何処から」
「...フランス外相のタレーランという者の案です」
「彼はどんな事をしたのですか?」
「...ナポレオン戦争後のウィーン会議で祖国、フランスの窮地を救った」
「ほう...」
「欧州各国がフランスを叩き潰す予定でいたものをタレーランは『フランスもナポレオンの被害者である!』と言い張り、全ての責任をナポレオンに被せました。
その後上手く交渉を行い、見事にフランスはほぼそのまま生き残ったのです」
「そんな方が...」
「はい。我々は彼を『近世外交の祖』と呼び、外交最高の技術者と呼んでいます。
...まぁそういう事ですね」
「成程。確かにその通りです。
...申し訳ないですがジューコフには...」
「...ええ、その為に彼を生かしておいたのです」
「...辛いなぁ」
「...はい」
「...ところでどの位が落としどころですか?賠償は」
「あぁ...一応同志が言っていた分には、復興支援は大丈夫だと言ってました。
...ただお金は出来る限り...」
「まぁ...でしょうね...」
「はい...」
「...あとは本当に腕比べですね。頑張って下さい」
「ありがとう。それじゃあ...」
・・・・・・
休憩所(イギリス連邦前)
取り敢えず、大丈夫そうだな...
「...いや、流石に私でもその要求は厳しい」
ふむ...?どうしたんだ?
「お願いします。我々ユダヤ人の未来が懸かっているのです」
「...しかしなぁ」
...入るか。
コンコン!
「どうされました?」
「っ...その声はミハイル!」
「!!...そこにスクリャノフ様が居られるのですか?!」
「あ、あぁ...そうだが」
ガチャ!
目の前に現れたのはイギリス系の青年だった。
「お願いします!私の話を聞いてください!」
「...チャーチル首相、彼は...?」
「ユダヤ人協会イギリス支局の支局長だよ」
彼が支局長...?
「初めまして、ミハイル・スクリャノフ。私はユダヤ人協会イギリス支局の支局長、ジェームズ・チャールストンと申します」
彼は私の目を見つめて、言った...