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月でウサギを飼う方法 第四部 第三帝国の逆襲
★あらすじ★
戦争だ! 月面基地に現れた一人の男。映画プロデューサーである吉良は五所川原に対しSF映画への出演を求める。あり得ない、絶対にそんなこと出来るはずがない! 五所川原は企画自体を潰すために脚本の大幅手直しを要求。しかし事態は思わぬ方向に進んでいくのだった・・・
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T『わりと近い将来、この太陽系で・・・』
T『IRON WARS Episode:5 第三帝国の逆襲』
Roll-Up『藤岡弘二は改造人間である。火星における凶悪な第三帝国の支配に弘二は奇襲を仕掛け帝国に対し初めて勝利を収めた。しかし蘇ったクローン・ヒトラー総統は本拠地である地球の月へ逃亡。究極兵器の完成を急いだ。それは"V6"と呼ばれ全太陽系の人類を洗脳するパワーを持つアンドロイド軍団だった。凶悪な第三帝国軍に追われながら五所川原内親王は盗んだアンドロイドの設計図を手に弘二の元へと急いだ。人類を救い太陽系に自由を取り戻すために....』
○宇宙空母瑞鶴・通路
爆発炎上し、無数の自由軍兵士が横たわる。
五所川原内親王(20)、傷だらけでよろよろと歩き、アンドロイド格納ブースに向かう。
猫型アンドロイド・D2R2を起動し、話しかける。
五所川原「いい、ドラちゃん。このメッセージをニュー・アサクサの藤岡弘二に届けて」
五所川原、ホログラフィック・メモリーをD2R2のポケットに突っ込む。
D2R2「しょうがないなぁ、ゴッシーは。今度だけだよ?」
五所川原、脱出ポッドのボタンを押す。格納され、船外へと投げ出されるD2R2。
五所川原「頼んだわよ、ドラちゃん」
と、ほっと息を吐く五所川原。通路の奥から、重い足音が響いてくる。ビクリと身を震わせ、顔を上げる五所川原。
クローン・スターリン(140)、二人の兵士を伴って現れる。
スターリン「五所川原姫、貴女のお転婆さにも困ったものだ」
五所川原、厳しい目でスターリンを睨みつける。
五所川原「ヒトラーの犬になった貴方なんかに、云われたくないわ! さっさと殺したらどうなの!」
スターリン「ふふっ、貴女を殺したりはせんよ。設計図の在処を吐かせるまではな」
と、二人の兵士に目を向け、叫ぶ。
スターリン「姫をシベリア送りにしろ!」
敬礼をし、五所川原を連行する兵士。
五所川原、遠くを見て呟く。
五所川原「弘二、お願い。あなたに太陽系の運命がかかってるの」
暗転。
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私は思わずパッドを机に叩きつけ、頭を抱えながら尋ねた。
「何なんです、これ」
月面基地の隊長である四方(43)は、酷く楽しげにパッドを指し示した。
「知らないのか? アイアン・ウォーズだよ! あの傑作SF映画シリーズの撮影を、月面基地で行うことになってね! 是非とも基地を上げて協力しなければと」
「いや、それはいいんですけど。なんで私の名前が?」
パチンパチン、と指を鳴らして注意を牽いたのは、四方の隣に腰掛けていた男。禿頭にがっしりとした顎、ギョロリとした瞳を持つ彼は、満面の笑みを浮かべながら机に身を乗り出させた。
「いやぁ、現実がSFに追いついたって云うのかな、とうとう本当の宇宙空間で映画の長期撮影が可能になったのはいいんだけれども、キャストからスタッフから全部連れてくるのは予算的に不可能でね! そこで是非、宇宙公団の職員のみなさんにも、ご協力頂きたいと。そういうワケなんだ」
「あぁ、彼は今作のプロデューサー、吉良さんだ」そしてニヤリとし、私に人差し指を向けた。「とうとうキミにも、本物の〈宇宙のアイドル〉になるチャンス、到来ってワケだ」
最早、これまで。
私はおもむろに被っていた猫の皮を脱ぎ捨て、眉間に皺を寄せながら云った。
「頭、大丈夫です? ドクター呼びましょうか?」




