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月でウサギを飼う方法  作者: 吉田エン
未知との遭遇 三章:グレイといえば、身長一メーターちょっとと相場が決まっている
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 ガチン、とロックが外れて開く重い扉。その先には短い通路があって、月面と隔てている最後の扉がある。


「とにかくゴッシー、やばそうならすぐ逃げてくるんだよ?」


「心配なら、自分で行けばいいじゃないですか」云いつつ背後の扉を閉じ、軽く床を蹴って奥の扉へと向かう。「減圧します」


 コンソールを操作すると、シュゥッ、という音と共に通路の空気が抜けていき、間もなく周囲から響いていた音という音、全てが消え去る。そして解放可能なサインが点ると、私はグルグルとハンドルを回し、月面への扉を開いた。


 宇宙服で月面に足を踏み出すのは初めてではないが、それでもやはり感動する。基地はクレーターの中にあるので、陽はごく僅かにしか射さない。今も辺りは暗闇に包まれていたが、仰ぎ見れば無数の星々が輝き、地平線近くには大きな地球の姿が少しだけ窺える。


 私は大きく息を吐いてから、月面の砂礫が積まれて墳墓のような姿になっている基地の外縁を、軽く跳ねながら辿っていく。所々にある覗き窓は、身を臥せて、あるいは思い切ってジャンプして通り過ぎ、五分ほどかけて半周する。


 格納庫の巨大なエアロックが見えてきた。月面から緩やかに下った半地下にあり、周囲は整地された着陸場や、各種観測装置などが設えられている。私はそれらの視界になるべく入らないよう、煌々と灯されている照明の陰になるよう、積まれたままの資材やレゴリスの山を伝いつつ、明かりの漏れだしている覗き窓に近づく。


 その窓は、本当に小さな物だった。せいぜい直径百ミリ程度。

 これなら、内側から逆に発見されてしまう可能性は低そうだ。


 そう私は当たりを付けて、そろそろと顔を近づけていく。最初は窓の位置がわからずに戸惑ったが、すぐに格納庫の隅の方、上部にある物だと気が付いて、視線を下に向ける。


 途端に私は、はっと息を詰めた。


 格納庫に納められている、白銀色の物体。その全景が、完璧に視界に収まっている。


 それは明らかに、円盤状の何かだった。ただ半分ほどは酷く破損していて、内部の骨組みや機械構造が露わになっている。直径は二十メートルほどだろうか、覗き窓のような物はなく、全体がつるんとしている。


 ただ、機体の下部は、どうにもUFOっぽくなかった。テーパーがかった下部はずんぐりと不格好に突き出ていて、まるで蜘蛛のように足が何本も出ている。どうやらこれがスッキリと収まると、漏斗状のフライパンのような形状になるらしい。


「これ、UFOって云うより」


 喘ぎつつ呟いた私に、無線越しで羽場の声が響いた。


『何? どうしたの? 何か見えた?』


 そうだ、と思い出して、私はカメラを窓に近づける。


「ほら、見てください! これ、UFOって云うより、何かの輸送船ですよ!」


 少なくとも、超技術。異星人の手による物と思わせるような、オーバーテクノロジーは見受けられない。ヒトの、人類の手による、新型の星間輸送船のようにしか見えなかった。


『ワオ! こりゃ凄げぇ!』無線越しの羽場は、興奮した様子で叫んだ。『アメリカのカーゴ船に似てるけど、かなりスマートだし、倍以上のサイズがある』


 云われて思い出した。私が月面基地に来た時のこと。ロケットで打ち上げられた日本の簡易有人宇宙船は、衛星軌道上でアメリカのカーゴ船に拾われ、月面まで運ばれた。あれもこの輸送船と同じように、胴体下に何本もの足を備え、様々な形の有人宇宙船や無人輸送船を確保出来るようになっていた。


「つまり、これってアメリカの秘密宇宙船って事ですか?」


『断定は出来ないけど、アーキテクチャは凄く似てるよ。いつの間にこんなの作ったんだろう』そこで彼は、あっ、と声を上げた。『ちょっとゴッシー、左上見て!』


「左上?」云われて視線を向ける。そこは白銀色の装甲が剥がれて、骨組みが剥き出しになっている部位だ。「何です?」


『ほら、アレ! 見えないの?』


 云われても、黒々とした骨組みがあるだけ--と思ったが、すぐに彼が何を指しているのか気が付き、私も喘ぎ声を上げていた。


「うおっ! あれは!」


『グレイだよ、グレイ!』


 破損したUFOの向こう側。無造作に横たえられている、二体の影。それは頭がずんぐりしていて、目の部分が黒々としていて、対する身体は妙に細く、手足が長い。全身が鈍く光る灰色の皮膚に覆われていて、見るからに、宇宙人、だ。


 けれども。


「ってかあれ、グレイにしては。デカくありません?」


 云った私に、羽場は不思議そうな声を返した。


『え? そう?』


「そっか、カメラだとわかんないのか。なんか周囲のサイズからすると、二メートルくらいありますよ。デカさ」グレイといえば、身長一メーターちょっとと相場が決まっている。「それになんか継ぎ目が」


 目を凝らしても、遠くてよく見えない。そこで私はカメラの存在を思い出し、小さなディスプレイを眺めつつ、グレイを拡大していく。


 五倍、十倍、十五倍。

 そこで羽場は、大声を上げていた。


『ちょ、ゴッシー! アレ、宇宙人じゃないよ! ロボット! ロボットだよ!』


 私も気づいていた。けれども、何が何だかわからなくて、まるで声を上げることが出来ずにいたのだ。


 拡大された、宇宙人の死体。その身体には無数のつなぎ目があり、可動部があり、部分的に破損した外皮からは、ゴチャゴチャとした機械や基盤が覗いていた。


 一体これは、どういうことだ?

 UFOはアメリカ製っぽいし、宇宙人もロボットだなんて。


 きっと私がLv10で見た宇宙人は、あのヒト型ロボットだったのだ。けれどもアメリカは、どうしてあんなものを、極秘裏に製造していたのだろう。月面の軍事力だけならば、パワードスーツ部隊だけでも他国を圧倒している。これ以上、ヒト型ロボットをカーゴ船に乗せてまで、行わなければならない事なんて。


 そこで一つの推理が、私の頭の中で形作られた。


「ひょっとしてアレ、冥王星を攻撃するためのドローン部隊?」


『そうだ! きっとそうに違いない!』羽場は叫んだ。『現在の技術でも、冥王星に行くには何年もかかっちゃう。だからネズミーはあんなドローン軍団を作って、冥王星を遠隔攻撃しようって腹なんだ!』


 冥王星の攻撃なんて、と半信半疑だったが、こんな星間航行が可能っぽい新型宇宙船、そして精巧なロボットを見せられると、他に考えられる用途なんて思い浮かばない。きっと彼らは月面でドローン軍団を量産し、冥王星に送り出そうとしている。


 それが、〈プロジェクト9〉なのだ。


「どうしましょう、羽場さん、これ」


 怯えつつ云った私に、彼は決然とした口調で云った。


『冗談じゃないよ、これ以上アメリカの。ネズミーの覇権主義に付き合ってられるか! ゴッシー、とにかくすぐ戻ってくるんだ。そしてそのカメラの映像を全世界に公開--』


 その時、背後から、バッ、と激しい光が投げかけられた。


 咄嗟に振り向いた私は、強烈な光に目が眩みそうになる。それでもうっすらと、光を発している物体の影は窺えた。例の月面移動要塞、パワードスーツ部隊の母艦である、大型LRVに違いなかった。


 私はすぐに月面を蹴って物陰に隠れたが、果たして見つからずに済んだかどうか。とにかくLRVは基地に向かう坂をゆるゆると下ってきて、砂埃を上げながらエアロックの前に停まる。そして基地のエアロックが解放されると同時に、LRVからは数体のパワードスーツが射出され、内部へと入っていく。


 時刻は二十三時。情報提供者の示していた時間は、これを指していたのだ。


 私は息を詰めつつ、彼らの作業をカメラに収める。パワードスーツは宇宙人型ロボットを軽々と運び、次いで八体総出でUFO型輸送船を持ち上げ、LRVの後部へと搭載する。


 作業が終わるまで、十五分ほどだったろうか。その間かぐや側の技師は誰も出てこず、全てをパワードスーツ部隊が行っていた。最後にエアロックが硬く閉じると、LRVは再び、月面を揺るがしながら移動を始める。


 向かう先は、アームストロング基地に違いない。


 LRVの発する光が見えなくなってから、私は再び格納庫を覗き見る。


 残された物は、床に散らばる黒々とした滓ばかりだった。

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