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月でウサギを飼う方法  作者: 吉田エン
ベテルギウス作戦 四章:少しやってみっかな、って気はするなぁ
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27(第二部最終話)

 その後催された、月面餅つき大会。もちろんその主役は、ムーンキーパー二号機と羽場だ。彼は一週間に渡って、佐治をはじめとする月面駐在武官たちの特訓に強制参加させられ、身体体力ともに万全な状態にさせられて檜舞台に望んだ。


「よいしょぉ! よいしょぉ! はいはいさっさと持ってって! 次の餅米は?」


 なんだかんだ云ってお祭り好きな羽場だ、半ばヤケクソ風ではあったが、工場でせっせと餅をつく彼は意外とノリノリだった。


 大会には、ユーロ、アームストロング、インドの基地の面々も招待されていて、合計二百人ほどが工場や食堂に分かれて歓談している。加えて食堂には、まるでアームストロングの人々に見せびらかすようにして、PS7のゲーム会場も用意されていた。


 そこで延々と対戦を繰り返しているのは、リチャード将軍と四方隊長。


「なぁ。やっぱりよくよく考えたんだが、ウチの全面降伏って条件は変じゃないか? そりゃあJTVに先にたどり着かれたかもしれないが、オタクの隊員の危機を救うのに一役買ったろう」


 コントローラーを操りながら云う将軍に、隊長も身を傾けつつ云った。


「それはそれ、これはこれだ。だいたいJTVはウチの物だ。それを勝手に掠め盗ろうとする方が悪い」

「おい! ここで閃光弾は卑怯だろう! ソイツはチート臭いから使用禁止だ!」

「別にルールじゃ禁じられてない」

「だから日本人は! 奇襲ばっかりだ! クソッ、リメンバー・パールハーバーだ! 今度こそ、PS7、半分もらうぞ!」

「ハッ、物量押ししか出来ないアメリカに云われてもね」


 再び開戦しかねない雰囲気に、私は呆れつつ口を挟んだ。


「っていうか、これってネット対戦なんですよね? 半分アームストロングに置いて、ネットで繋いで、日米で一緒にやったらどうなんです? その方が楽しいんじゃ?」


 隊長にしても将軍にしても、その考えはまるでなかったらしい。スタートボタンにかけていた手を凍らせると、互いに顔を見合わせ、考え込んだ。


「基地間の回線、どれくらいの太さだった?」

 尋ねる隊長に、将軍は答えた。

「詳しいことは知らんが、こないだの報告じゃあ、半分も使われてないって云ってたな」

「ファイア・ウォールに穴を開ければ、何の問題もなさそうだな」

「問題は配分だな。人口比からいったら、ウチが七、そっちが三」

「おいおいフザケるな! どうしてそうなる!」


 この二人は単に、互いに言い争っているのが楽しいだけなのかもしれない。


 私は他に、お世話になったジョーとベンからパワードスーツの話を聞いたりしていたが、ふとテツジの姿が見えないのに気が付いて、フラフラとしつつ探してみた。


 彼は何か酷く疲れた様子で、展望ラウンジのソファーに倒れ込んでいた。だらしなく半ば口を開いて、ベテルギウスの輝きを眺めている。


「何してんの。ジョーとベンさんも来てるよ? パワードスーツの話、色々聞けるよ?」云いながら対面に座った私に、彼は虚ろな瞳を向けるだけだった。「なに。何そんな疲れてんの」

「ここんとこ、寝る暇もなくてよ」

「あぁ、アレか」私は噂を思いだして、軽く身を乗り出した。「なんかムーンキーパー、アンタの工場で量産するらしいじゃん」

「まだ話だけだけどな。でも親父も何か変に乗り気でなぁ」大きく息を吐いて、更にソファーに沈み込む。「そんなら自分らで設計し直せばいいのに、文句付けるだけで、後は全部オレに回すんだぜ?」

「アンタに勉強して欲しいんでしょ、親御さんもさ」


 ヘッ、と鼻で笑って、テツジは僅かに黙り込んだ。


「つかま、親父ら、あんなマジだって。知らんかったわ」

「マジ?」

「ほら、あのラックにしてもよ。あんな色々考えて造ってるとかよ」

「でもアンタ、子供の頃から、仕事手伝わされてたんでしょ? 何で知らなかったの」

「知りようがねぇだろ? 熱力も材力も知らねぇガキがよ、その辺にあるビル眺めて、スンゲェって思うか?」


 成る程、それはあるかもしれない。

 人類が積み重ねてきた英知というのは物凄いかもしれないが、私たち後輩はポンと結果を示されるだけで、何か酷く簡単な物のように思いこんでしまう。ビルが倒れないのも当たり前、エンジンが爆発しないのも当たり前。


「ま、でも、五年も機械工学やっててよ。ようやく、ウチがスゲェ事やってるのを、理解できるようになったっつーか」

「アンタ、高専入ってから、ずっと実家から逃げてたしね」

「だってよ、ウチの工場に転がってるのなんて、パッと見、ただの部材とか什器だぜ? そんなん、マジになって造ろうって気になるか?」

「子供はね。で、今は?」


 テツジは黙り込んで、手垢にまみれた眼鏡の奥から、ベテルギウスを見つめた。


「ディーさん程じゃねぇけど、少しやってみっかな、って気はするなぁ」

「超新星爆発。興味沸いた?」

「ちょい、な」


 はてさて、これでテツジも、多少は真面目になってくれるだろうか?

 私は思いつつ、そう簡単には行かないだろうな、と苦笑する。なにしろ三つ子の魂、百までだ。


「さ、早く行かないと、ジョーさんたち帰っちゃうよ? あの人たちも、ムーンキーパー乗せて欲しいって云ってたし。百八十センチ対応の三号機、出来てるんでしょ?」


 腰を上げながら云った私に、彼は気怠く片手を上げた。


「もうちょいしたら行くわ」


 そしてじっと、彼はベテルギウスを見つめる。

 その瞳はまるで、そこにディーさんの面影を、意志を、見いだしているかのようだった。


〈第二部・完〉

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