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月でウサギを飼う方法  作者: 吉田エン
第三帝国の逆襲 一章:五所川原内親王の受難
102/117

5

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○第三帝国秘密研究所(南極)


 転送装置が光を発し、弘二、D2R2、依田老師が現れる。


依田「どうやら上手く行ったようじゃの」

弘二「でかしたぞD2R2! さっきまでスターリンに追いつめられていたってのに、危機一髪の脱出に成功した!」

依田「だが事態は悪化したかもしれん。この血のにおい。ここはメンゲレの秘密研究所のようじゃ」

弘二「なんですって!? あのヒトラーやスターリンを蘇らせた、マッドサイエンティストの!?」

依田「ワシも姿を見たことはないが、ある意味第三帝国の影の支配者じゃ。何とかして脱出せねば」


 弘二、舌打ちして周囲を見渡す。


弘二「D2! そこのデータポートから基地内部を探れ! 老師、行きましょう!」


 暗い通路を忍び足で進む弘二と依田。

 深紅の手術着に身を包んだ医師数人が、怪しげな装置を手に機密隔壁を抜けていく。


弘二「アレは、五次元立方体! ヤツら、あんな異星人の遺産を手にしていたのか!」

依田「いかんの。アレは人が手にしてはならん物だ」

弘二「アレの暴走で、ガニメデ・コロニーは全滅しちまったんだ! ヒトラーに持たせておいちゃ、何をされるかわかったもんじゃない!」

 と、弘二、無線装置を取り出して話しかける。

弘二「D2! 1701隔壁を開け!」


 開く隔壁。弘二と依田は、ライトニング・セーバーを手に忍び込む。

 暗い室内。様々な装置が放つ轟音が響く。

 奥が眩く輝いている。装置の影から覗き込むと、手術台の前に数人の人影がある。


 医師たちから五次元立方体を手渡され、悪魔的な笑みを浮かべつつ宙に掲げる女。第三帝国の制服に身を包んだその女は、五所川原姫にしか見えない。一方で手術台に拘束された美しい女は、必死の形相で拘束を解こうとしている。


弘二「な、なんだ!? どうなってるんだ!? どうして姫がここに!?」


 五所川原姫、物音に気づいて叫び声を上げる。


五所川原「誰だ! そこにいるのは!」


 弘二、依田と顔を見合わせ、影から歩み出る。


弘二「姫、一体ここで何をやっている? どうしてそんな格好を」


 五所川原、ニヤリと笑って五次元立方体を医師に手渡し、腰の鞭を手に取る。


五所川原「ハッ、見られたか。仕方がない。何を隠そう、この私こそ、ヨーゼフ・メンゲレ。ヒトラーやスターリンを蘇らせた、史上最高の科学者なのだよ!」


弘二「何だって! 姫があの、アウシュビッツで異常な人体実験を繰り返し〈死の天使〉と恐れられた、双子フェチの異常者だってのか!?」


五所川原「そう、オマエの知る姫は、自由軍の有望な遺伝子を集めるための仮の姿。がっかりしたか? しかし見られたからには仕方がない、依田もろとも、オマエも始末しなければ」


 と、五所川原、鞭に電流を通してパチンと床を叩く。

五所川原「勝負だ弘二! オマエも双子にしてやろうか!」



~色々あって弘二は五所川原を倒す~



五所川原「クッ、クソッ、この私が敗れるなんて・・・しかし私には何体もクローンがある! 何度でも蘇るさ! ハイル・ヒトラー!」


 爆発四散する五所川原。

 弘二は痛ましい表情でそれを見つめていたが、すぐに手術台の美しい女性に駆け寄る。


弘二「大丈夫かアンタ。ここで何をされようとしていた?」


 美しい女性、津田内親王(20)は身を起こし、潤んだ瞳で弘二を見つめた。


津田「私こそ、本物の内親王。五所川原は私の特異な遺伝子を利用して、永遠の若さを保っていたのです。彼女はあぁ見えて、本当は百四十を優に越えていたの」


弘二「なんてこった、オレはそんな化け物に恋してただなんて。とにかく姫、はやくここから逃げよう」


津田「えぇ!」


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「どう?」


 それこそ瞳を煌めかせながら、吉良を見つめるドクター。

 吉良は当惑したように辺りを見渡し、誰かに助けを求める。だが彼に視線を合わせようとする人は誰もおらず、仕方がなさそうに咳払いし、ドクターと向き合った。


「えっと、うん、悪くないよ」


「でしょう?」ドクターは頬を赤くしながら髪を撫でつけた。「これでも私、大学の頃は文芸サークルに入ってたの。あ、別に私がヒロインになりたいって云うんじゃないわよ? ただこの基地じゃ女性は限られてるし、大学の頃は劇団サークルも掛け持ちしてたから、消去法で考えても私くらいしか適任者は」


「いや、その、うん。仲間が実は敵だったとか、メンゲレみたいな色々と逸話のあるヤツを登場させるのはいいけど。でも、ちょっと津田姫の登場が唐突すぎるかな、っていう」


「そこは色々と複線を貼っておけばいいじゃない! そんなこともわからないの? 貴方プロでしょう!」


 ヤバい。スイッチが入った。

 私がそろそろと席を離そうとしている間にも、吉良は何とかしてドクターを説得しようとしていた。


「えっと、それに五所川原姫は、エピソード4から複線があって。今更敵側だった、っていうワケにも。それにゴッシーちゃんだって、爆発四散して死んじゃうのなんて嫌でしょ?」


 私に振らないでほしい。

 思いながら、辛うじて苦笑いを向ける。


「いや、そもそも私、出るの嫌ですし」


「聞いた! 出るの嫌なのよゴッシーちゃんは!」叫び、ドクターは吉良に詰め寄った。「どうなの吉良さん! 貴方は否応のない立場の女の子を、無理矢理映画に出させたいっていうの? そんなの、隊長だって許さないわ!」


「いやぁ、四方隊長からは、隊員は自由に使ってもらって構わないと」


「本人に拒否権くらいあるでしょう! そこで行くと、私。私は大人として、責任を持って基地のイメージアップに貢献する気があるわ。何なら私が最初から五所川原姫の代わりを」


「いや、その、こういうこと、あんまり云いたくないけど。そもそも津田姫(20)って云うのは、ちょっと無理があるんじゃないかな」


「わかった、じゃあそこは(22)。いや、(25)でどう? ギリギリ行けるでしょ。それでどう?」


 そこで不意に、吉良は胸元に手を当てて携帯端末を取り出した。


「はい吉良です」

「ちょっと、鳴ってないでしょ!」

「特異な遺伝子でわかるの。あぁ弘二! どう地球は!」


 まったく、手に負えない状況になってきた。しかも何故かウサギ牧場でやるものだから、私も逃げようがない。酷い疲れを感じて机に伏せってしまっていると、不意に扉が開く音がして、私は身を上げた。


 ぬっ、と姿を現したのは、基地の設備担当、上井克也だった。彼は相変わらずの巨体、相変わらずの髭禿の顔で牧場を見渡すと、戦い続けているドクターと吉良に首を傾げてから、我関せずを決め込んでいるテツジに目を向けた。


「おい、テツジ。悪いがムーンキーパーを出してくれないか?」


 ぴょこん、と顔を上げるテツジ。


「なんすか。こないだ設備のオッサンらに訓練したじゃないっすか」


「いやな。ちょっと離れた所に洞窟が見つかってな。結構勾配があるもんだから、慣れたヤツの方がいい。どうせ暇だろ?」


「月面洞窟!」叫んだのは吉良だった。彼は袖を掴むドクターを振り払って、克也の前に飛んでくる。「ホントに? ホンモノ? いやぁ、良かったら同行したいなぁ! あ、私は」


 克也は気乗りしない様子でため息を吐きつつ、頭を撫でた。


「話は聞いてる。吉良さんだろ? 隊長も、良かったら見せてやれって」そして踵を返しつつ、テツジに云った。「一時間後にエアロック集合だ。じゃあな」


 そして牧場を去っていく克也。吉良は満面の笑みで拳を握りしめた。


「やった、月面洞窟! 未知の生物との遭遇、謎の月地下世界が待ってるんじゃないの? あっ、カメラ準備しないと!」


「ちょっと、話は終わってないわよ!」


 慌てて扉を出て行く吉良を、ドクターは追っていく。

 やっと、静かになる牧場。私は不意に我に返って、棒立ちしているテツジに振り向いた。


「あっ、吉良さんがオッケーなら、私もいいよね?」


「あ? 別にいいけど、来るなら二号機乗って手伝えよ?」


 二号機。女用で、唯一私くらいしか乗れないムーンキーパーか。

 あんまりいい思い出はないが、今回はマラソンなんかじゃなく月面洞窟探検だ。とても未知の生物との遭遇なんてあり得ないが、これを逃す手はない。


「わかった。でも二号機ってしばらく使ってないよね?」

「そういやそうだった。しゃーねーな、整備すっぞ」

「オッケー、やろうやろう」


 ここの所のワケがわからない状況から、久しぶりに月面基地らしくなってきた。私はそう笑みを浮かべながら、エアロックに向かうテツジの後を追った。

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