図書委員会へようこそ!
「では、第一回、『図書の扉』製作会議を行います」
たくさんの本に囲まれた一つのテーブル。
そこでは誰かが本を読むのではなく、ただ五人の男女がそこを囲んでた。
しかも、誰もが神妙な顔つきをしている。まさにこれからの命運がかかっているかのように。
そう、これは図書委員会から抜擢された役員会、その中でもさらに抜擢された編集部によってこの学園での図書室が送る通信紙を編集する瞬間である……!
「と……まずは、そうですね、『推薦図書』枠について話し合いましょうか」
二年生の三つ編みをした委員長が眼鏡をくいっと持ち上げて淡々と告げる。
その瞬間、全員の瞳がギンッと野獣の如く煌めいた。
何かを渇望するように、お互いの挙動を探り合う。すぐには動かない。
その様子を見かねて、委員長は誰に尋ねようか迷うかのように視線を彷徨わせ、結論、同級生のポニーテールの少女に視点を合わせた。
「キミは何が良いと思うか?」
「あ、私?」
ポニーテールの少女はほんの少し嬉しそうに笑って言った。
「私はこれかな」
そうして少女が取りだしたのは、源氏物語だ。
「お、良いね……?」
委員長は満足げに頷いてそれを受け取ったが、何ページか捲って表情を一転させた。
「……これ……マンガ……?」
「そう! マンガって良いよね!」
「……絵がゴル○13っぽくない?」
「それも魅力っ!」
ちなみにこの学校の図書館にもマンガは数冊ある。『そのとき歴史が動いた』など。
もちろん、源氏物語のマンガも存在するが、その中でどうやらゴ○ゴっぽいものが存在するらしい。宣伝である。是非とも探しに来て欲しい。
「……いや、推薦図書にマンガを載せる訳には……」
ため息混じりに委員長は本を突き返すと、ポニーテールの少女はえー、という顔をする。が、それに構わず委員長は視線をまた彷徨わせる。
(さて……次は……)
ふと、後輩の男子に目が合う。
「んじゃ、キミは?」
軽い口調で委員長は訊ねると、後輩くんは嬉々として文庫本を取り出す。
「これなんてどうっすか?」
「んー……?」
委員長はあからさまに怪訝そうな顔をした。
何故なら、彼の持っている本が俗に言う、ライトノベルであったからである。
ライトノベルはまた崩れた分かりやすい言葉に若者の人気を勝ち取り、図書室の本棚の一角をすでに占領している。
だが、それと同時にその崩れた言葉のせいか、硬派な教員陣からはあまり勧める者はいない。
委員長もまた、その硬派であった。
「却下」
「えええぇ……! 超面白いんですよ! 挿絵だけでも良いので見て下さい!」
後輩くんは強引に委員長にその文庫本を押しつけてくるので、委員長は根負けしてそれを受け取った。そしてペラペラとページをめくる。
ふと、その開いた挿絵では、まさに男と女が絡み合い、快楽の最中へ、ひゃっほい。
「却下!」
「ちょ、えっ!? 駄目ですか!?」
ちなみに過激な挿絵が時折入っている事はあるが、それだけでその本の価値を断定するのは些か早計である。もし、委員長のような反応するような方がいるならば、その態度を改める事を勧める。
もちろん、当図書室にはライトノベルを配備しているが、明らかに古いものが多い。ライトノベルが出来上がった最初の頃の本が並んでおり、なかなか面白いものも多い。役員の一部からも絶大な人気を誇っている。
そんなことはさておき、涙目の後輩にライトノベルを突き返した委員長は困り果てて、頼りになる三年生男子の先輩に視線を向けた。
「先輩、どうにかなりませんか……?」
「うむ、そうなると思っていくらか本は用意してきた」
先輩は低い声でそう言うと、小脇の鞄から何冊か本を取り出した。それを見て、委員長はほっとした笑みを見せた。
「村山由佳や江国香織の本ですか……」
「うむ、教科書にも載っている本故、勧めやすいと思うぞ」
そうして取りだした本は教科書などで掲載されている事もある、著名作家の本であった。委員長はそれらの一つを手にとってパラパラと目を通す。
「……はい、大丈夫そうですね……でも、これだけあると……」
委員長はテーブルに視線を向けて困ったように笑みを見せた。
何冊か、といっても二桁ほどの本がそこに置かれていた。
学生でよくある傾向なのが、本を十数冊持ち歩く生徒である。制服などにも入っている事がある。そいつらには基本的に刃物が効かないので襲うときは注意したい。
……まぁ、そんな襲う事態は無いと思うが。
「ふむ、ではこれがお勧めかな」
その瞬間、先輩の瞳が獰猛に輝いた……気がした。そうして差し出された本は村山由佳の『アダルト・エデュケーション』という本である。
「短編集だ。村山由佳の世界観が味わえる」
「へえ……え……えぇ……?」
委員長は受け取ってページをめくる……が、その声は徐々に戸惑いが混じっていった。
「これぇ……?」
「うむ、官能的だろう」
ちなみに、作家に関してよくあるのが、教科書に載っている作家は必ずしも良識的な作家であるとは限らない。というか、ほとんどの場合は凄まじい世界観を持っている場合が多い。
『走れメロス』の太宰治を例に挙げれば、あの作品自体は友情に重きを置いた良い作品に思われるが、その実、『人間失格』などの本を読むとこちらの気が滅入るほど、友情とは違った要素が流れ込んでくる。
今回、例に挙げた村山由佳も同じく、『アダルト・エデュケーション』においては非倫理的な恋愛観について官能的に記されている。ちなみに編集長お勧めである。
「……せ、先輩、これはさすがに……?」
「まぁ、仕方ない、この辺のが良いだろう」
先輩は呵々と笑ってその本を引っ込め、代わりの本を差し出す。だが、その瞳は明らかに残念そうだ。無念で一杯である。
それを見ないようにして委員長はそれを確認し、手元に置いた後にため息を漏らした。
「しかしまぁ、君達はもっとまともな本を読まんのか」
「えぇー、まともですよぉ」
「何を仰いますか」
ポニーテールの少女と後輩くんはさも心外そうに言う。先輩はまぁまぁ、と不平を漏らしそうな後輩達を宥めて視線を委員長に向けた。
「そういう委員長殿はどうだね?」
「ええ、もちろん、このような本が宜しいかと」
委員長は三つ編みを掻き上げるようにして微笑むと、自分の鞄からそっと本を取り出した。
そのタイトルは『三国志』である。
「おお……」
「確かにまとも……」
後輩くんとポニーテールの少女は眩しそうにその本を眺めている。それを見て委員長は得意げだ。
しかし、先輩はゆっくりとその本に手を伸ばして作者名をじっくりと眺めた。
「……ふむ、この作者は確か、同性愛的な意味合いで歴史書を小説として書き上げているお方だな。なかなか渋い所を持ってきた」
「は……?」
「同性愛……的……?」
委員長と先輩を除く全員が凍り付く。
そして、自然と委員長へと視線が集まる。委員長は不敵に笑ってぐっと親指を突き出す。
同時に委員長を除く全員が全力で首を振った。
そう、ここは図書委員会役員会『図書の扉』編集部。
図書委員会自体、変人が集まる委員会である以上、役員会はさらに濃い連中。そして、その編集日となれば……必然的に、校内で有数の変人が集まることが約束される。
そう、ここは一風変わった生徒達の巣窟。
一目見たければ図書室に来れば……もしかしたら会えるかも知れない。
尤も、貴方が会いたいかどうかは分からないが。
ハヤブサです。
今回はウチの学園で掲載するものを上げてみました。
まさか、掲載されるとは思いませんでしたが……。
しかし、まだ草案です。
これがこちらの図書委員会の委員長のお眼鏡にかなえば、晴れて掲載されるということなんですね。
どうですかー? 委員長!
ま、皆様のお暇潰しになれば幸いです。