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エルフとの旅行記  作者: 乃那加 結羽
現在:『霧の湖付近』
9/13

ブランク

「ねぇ、クレス?」


「ん?」


「あれさ、放っておいていいの?」


 困ったような顔で尋ねてくるリリィ。

リリィの指差す先には魔物だか盗賊だか知らないが、とりあえずヤバめの奴に襲われている女が居る。


「放っておけ。こっちに気がついてないみたいだし。面倒事に巻き込まれんのは御免だ」


「で、でもぉ……」


 より深刻そうな顔をするリリィ。後ろめたさとか色々と感じてんだろうな。

んなもん、どうせ赤の他人なんだし感じなくてもいいのに。まぁ、知り合いだったらご愁傷さまとしか言えねぇが。


「んなことより、フードもうちょっとしっかり被れ。エルフの耳見えたら困るんだからよ」


「あ、ごめんね?」


「気にすんな。お前の頭が抜けてんのはいつもの事だろ?」


「むっ、それはさすがに失礼だよーっ!!」


 フシャーッと、猫のように威嚇し両手を上げながらこちらに向かってくるリリィ。


「馬鹿が……お前大声出すなよ……」


「ふぇ?」


 まったくもって理解できない、と言いたげな顔をこちらに向けながら首をかしげるリリィ。

そんなちょっと抜けているリリィにも分かるようにさっき、こいつが指さした方向と同じ方向を指差す。

俺の指差した方向を見て、やっと理解したらしいリリィは即座に俺の後ろに隠れる。


「たくっ、お前が騒ぐから気付かれただろうが」


「ごめんなさい……」


 先程まで女を襲っていた奴らが、こちらに向かってくる。

女が居ない所を見ると、俺たちに気が向いた隙に逃げたか、もう捕まったもしくは殺されたってとこか。興味はねぇが。


「まぁ、いい。後ろにある林に隠れてろ」


「え!? クレスだけで、戦うなんて……」


「出来るわ。むしろお前がいると動きにくいんだよ」


「じゃあ、いろんな意味で、絶対置いてかないでね」


「分かってるよ」


 俺の言葉を聞いてもなお不安そうな顔をして林へ引っ込むリリィ。

さて、見える限りでは敵の数は三人。隠密での集団行動としてはベストだが、真昼間っから略奪を行うにしては少ない。別の所に潜んでいる、と考えるべきか。


「ま、全員始末すりゃいい」


「ウエェヒヒヒヒヒッ!!!」


 奇声を上げながら、先頭を走っていた奴が、手に持ったナイフを突き出す。

そう言うのは、もっと近づいてから不意打ち気味に出せよ。んな、遠くから構えたって手の内明かしてるだけだろ。


「ド素人が」


 低く姿勢を屈め、突き出されたナイフを避ける。

空振った男の体は俺に当たり、一瞬停止する。


「……まずは一」


 するりと男の横を抜け背後を取る。同時に腰のナイフを抜きだし、男の首に当てる。

すこし手前に引き、肉に刃が埋まるのを感じたら、一気に切り裂く。

口から悲鳴は上げず、喉元から噴水のように血飛沫を上げたあと、静かに地面に倒れ伏す。


「距離……ここなら……入るな……」


 腰からさらに二本ナイフを抜き、前方に居る二人のうち右側の奴に狙いを付ける。

喉と眉間を狙い、二本を投げる。

飛んできたナイフを避ける事もせず、喉と眉間に受け入れ前のめりに倒れる。

 おかしいな…………。こんなに遠くから投げられた物に反応もせず、避けもしないなんて……。

これは……あれか?


「シ……ネッ!」


「っ!?」


 考えているうちに予想以上に接近されて居たみたいだ。

チッ、迂闊だったな。戦闘中に関係のない考え事は禁物、基本中の基本じゃねぇか。


「シぃ……ネよォッ!!」


「るせぇ……」


 湾曲した剣、タルワールで切りかかってくる。安直な上から縦に振るだけの剣閃。

剣自体はそこそこ良いもん使ってる割に、馬鹿正直。


「…………」


 横に体をずらし、前のめりになった所を狙い腹を捌く。特注のナイフなので本来よりも深く刺さり、肉を抉る。

 一度倒れ伏すが、最後の力を振り絞ったらしく立ち上がり切りつけてくる。


「!?」


 予想だにしなかった一撃。体を引くが避けきれずに左腕を浅く切られた。

クソが、止めを刺しきれなかったなんてよ……。ブランクって怖いな。

だけど、これくらいの傷なら放っておいても大丈夫だろ。一応、応急処置はするが。


「クレス……? もう……大丈夫……?」


 林の陰から、頭を出しこちらの様子を窺うリリィ。

俺の周りに男の死体が転がっているのを見て、一瞬怯えるが、すぐにこちらに駆け寄ってくる。

やけに心配そうっていうか、困ったような顔で俺の服を掴む。


「クレス、腕、大丈夫なの?」


「あぁ、心配ねぇよ。止血だけしときゃ問題ねぇ」


 倒れている男の服を切り、腕に巻き付けようとするがリリィにその手を阻まれる。

ナイフを俺からぶんどり、男の服を切り、俺の左手をぐっと握る。


「わ、私がやる!」


 もたもた、あたふたしながら危なっかしく手当てをしていくリリィ。

いや、なんつーかこう、人に手当をしてもらうのって良いな。


「ありがとな」


「っ! クレスがデレたぁ!」


「ばっ、お前! あんまひっつくな! フード取れたらどうすんだ!」


 このままじゃ、今日は野宿だな。

まぁ、確かこの辺りには湖があったはずだしいいか。

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