表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフとの旅行記  作者: 乃那加 結羽
現在:『王都』
7/13

一抹の不安

この話はちょっと長めです。


特別増量版です。特別かどうか知らないけど。

「ふぃー、つかれたねー」


「部屋に着いた途端、床に寝そべるな。汚れるだろバカ」


「もー、うるさいなぁ。ベッドに行けばいいんでしょ?」


「床を這うな。ワームかお前は」


「にしても、クレス部屋のチョイス間違ったんだね」


ベッドにダイブしたリリィが足をバタつかせながら呟いた。

だって、なぁ? 所持金が心許こころもとなかったんだもの。物売って多少余裕はあるけど、リリィの食費がなぁ……。


「この大きさのベッド一つじゃ、狭すぎるよー」


「ニヤニヤすんな。一人で寝るには充分だろ」


「えー! 一緒に寝よーよー、一人じゃ寒いしさみしーよー」


「だめだっつの」


「むぅー、クレスのケチ」


こいつはいつもいつも……。聞き分けはいい方なんだが、毎回毎回同じ事を提案してきやがって。

無駄だと分かってるはずなのに。俺と寝て、こいつのトラウマ掘り返したら申し訳ないしな。


「頭撫でたって、ごまかされないよ?」


「はいはい。ま、今日も俺はその辺りで適当に雑魚寝しとくから」


「じゃー寝るまで、一緒に居てよー」


「やる事あるからダメ」


「クレス付き合い悪いよー」


頬を膨らまし不機嫌アピールをするリリィ。いやまぁ、可愛いけど、可愛いんだけども、腰辺りにしがみついて揺らしてくるからすげぇうぜぇ。


「だぁーもう。分かったから、お前が寝るまでは、一緒に遊んでやるよ」


「やった! まーとりあえず、座りなよ」


ベッドの枕近くにぺたんと座りこみ、前方に座れとジェスチャーで示すリリィ。


「荷物の整理があんだろ。お前に構ってやんのはそれが終わってからだ」


「どーせ明日すぐに別の村に行くんだから、そのまま放っておこうよー。すぐに片づけなくちゃいけないものがある訳じゃないんだからさー」


「はいはい。わかったからそれ以上ジタバタすんな」


「じゃー構ってよー、いや、かーまーえー」


俺の事をがっちりホールドし、意地でも離さないぞと目で訴えかけてくるリリィ。

ここで振り払って、不機嫌になられても困るからなぁ。付き合ってやるか。


「あいよ。で、今日はなんかする事あんのか?」


「ん~……そうだなぁ…………あ! 髪!」


「髪がどうした?」


「梳いてよ! せっかくあのお店の人に貰ったんだからさ」


大分前に買い与えた、腰に付けるタイプの小さいポーチから櫛を取り出すリリィ。

この櫛は、今日、町を散策している際に立ち寄った店の店主が、好意でくれたものだ。

まぁ、確かにこれも使われないよりは、使ってやった方が幸せか。


「なら、シャワー浴びて来い。髪乾かした後、梳いてやる」


「ん! 絶対だからね!」


ぴょん、とベッドから飛び降り、とととっ、と軽く小走りでシャワールームへ向かうリリィ。

ベッドが一つのこの部屋を選んだ理由は料金というのも、もちろんあったが部屋に小さいながらもシャワールームがあるからだ。リリィはまだ他人に服の下の素肌を見せられない。たとえそれが同性であっても。だから、こう言う高級とは言えない宿屋によくある大浴場みたいな風呂には入れない。でも、だからといってシャワーすら浴びないというのは、不潔で不衛生だから、なるべく個室にシャワールームが付いている宿屋を探す。欲を言えば、湯船も欲しいが、贅沢は言えないだろう。俺は後で浴場に行けばいいだけの話だし。

さて、アイツ結構長い事シャワー浴びるからな。俺もパパッと風呂入ってこようかな。


● ○ ●


「クレスー、でたよー? クレスー?」


ドア越しに、呼びかけるけれど、返答がない。


「クレスー? クレスってばー」


いくら呼んでも、声が聞こえない。


「クゥーレェースゥー!!」


大声を出しても、叱られないし、憎まれ口も飛んでこない。

なんで? いつもなら、すぐに返事してくれるのに。


「返事してよー」


軽く髪と体を拭いて、下着と肌着を着てシャワールームから出る。

まぁ、私は別に服着なくっても良いんだけど、着ないとクレスうるさいからね。


「クレス?」


部屋に出てみると、クレスが居ない。クレスの着替えが入ってるカバンもない。

もしかして…………捨てられた……?

一瞬頭をよぎった最悪の可能性をブンブンと頭を振って否定する。

クレスが私の事を捨てる訳ないもん。ちょっと、出かけてるだけ、そうに決まってる。

でも、もし本当に捨てられた、置いて行かれたとしたら?

もし本当にそうでも、今からすぐに追いかければ間に合うかもしれない。

そうじゃなかったとしても、クレスにすぐ会えるんだから、私に不利益な事は無い……はず。


「クレスっ……」


そう決めたらもうじっとしてはいられない。

不安が、焦りが、恐怖が、私を動かす。

部屋から、飛び出す様にして駆けだす。

私たちの部屋は角の方だから、右には壁しかない。なら、左。

右を確認する事もなく、左に曲がり走る。

多分、ううん絶対にクレスは浴場に居る筈。そうに決まってる。他にこの宿屋に行く所なんてないもん。出かけてるんだとしたらそこしかない。


「クレス……クレス…………クレスっ」


ドンっ、と何かにぶつかった。前を見ないで全力で走っていたんだから、むしろ今まで当たらなかった事が奇跡かもしれない。

相手は、びくともしていない感覚だったが、私は踏ん張れずその場に尻もちをつく。


「あぁん? お穣ちゃん、しっかり前見て歩けよなぁ?」

「おい、あんま威嚇すんなよ、怖がってんだろ?」

「カカカッ、やさしーねぇお前。でも、俺に非は無い訳だし」


二人組の男の人にぶつかってしまったみたいだった。見るからに良い人とは言えない、どう見ても悪い人の風貌。


「ご、ごめんなさい……あの、その、急いでるので、退いて貰えませんか?」


立ち上がり、横をすり抜けようとしたが、止められる。

そんなに廊下の幅は広くないのに、男の人二人が仁王立ちしたら、通る隙間が無くっちゃう。


「おっとぉ? それだけで済むとは思ってないよなぁ? エ・ル・フちゃん」

「エルフって事は、どうやって謝ればいいか、躾けられてるでしょ? ちゃんとやってくれれば俺は文句言わないから」

「カカカッ、甘いねぇお前。こう言う時は要求を無理やりにでも飲ませんだよ。俺らに非は無いんだから」


右側の人が、私の腕を掴み、体ごと壁に押し付ける。左の人は、反対側に来て、私が逃げられないように取り囲む。


「や、やめ、やめて下さい……」


「やーですよー」

「止めないよ。抵抗すると俺、何するか分からないよ?」

「カカカッ、大概鬼畜だなお前」


値踏みをするように私の体を舐めまわす様に見る二人。

声を上げれば、誰かが来てくれるんだろうけど、怖くて、声が出ない。足も震えて逃げられない。


「ひっ!」


すーっと私の体を撫でさする男の人たち。

気持ち悪い、怖い、嫌だ。やだよぉ……。


「おぉおぉ、可愛い声あげちゃって」

「何? 怖いの?」

「カカカッ、馬鹿かお前。見りゃわかるだろ」


「ひっ……ぐぅ……」


「あららー泣いちゃった。可哀想に」

「恥ずかしんだな。俺らの部屋で可愛がってあげるよ」

「カカカッ、お前紳士だな」


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。こんな人たちに好きにされたくない。気持ち悪いし、怖いよぉ。

がちがちと奥歯がかみ合わなくて音が鳴る。がくがくと足が震える。恐怖に対するせめてもの抵抗として目を閉じる。

クレス……助けて……。


「あれ? ウチの連れが、迷惑かけました?」


「あぁん? 誰だテメー」


「そいつの保護者。迷惑かけたなら謝るけど、そいつ離してくんない?」


「じゃあ、こいつ一晩貸してよ。それで俺ら満足するから」


「それは出来ないな。そいつは俺のだから」


「カカカッ、独占欲強いなお前。そーゆーのうっとおしんだよ!!」


「るせぇ、黙ってろ」


「がっ!?」


どさっと、倒れる音がした。


「い、一撃!? ワンパンで!?」


「同じ目に遭いたくないなら、そいつ連れて大人しく消えろ」


「う、うわぁぁぁ!」


ズザー! と何かを引きずりながら去っていった男の人。

助けてくれたのは、勿論、


「クレスっ!」


恐怖で、腰が抜けたから、いつもみたいに抱きつけないけど、それでも、いつもみたいに名前を呼ぶ。


「たくっ、部屋で大人しくしてろよな。エルフに対する認識は結構酷いんだからよ」


「ひっく……ぐぅ…ぐす……こわかったよぉ」


「はいはい。泣くな泣くな。ま、俺も無断で部屋留守にしちまったしな。悪かった。捨てられたかと思って追っかけてきたんだろ? ごめんな。不安だったろ」


抱き上げて、背中をさすりながら、謝ってくれるクレス。

信じきれなくて、勝手に部屋を出て、自己責任で危ない目に遭ったのに。


「ぐしゅ……ごめ、なさい……でも…ほんどに……こわっ、かった」


「分かってるって。今度からは部屋に俺がいなくても部屋から出るなよ? 今回は俺が間に合ったから良かったけど、間に合わない時だってあるんだからよ」


「う、うん……わかってる」


「じゃ、部屋に戻るか」


● ○ ●


「気持ち良かったか?」


「うん……やっぱりクレスに髪梳いて貰うのは気持ちいいよ」


俺の問いに小さく頷くリリィ。

まだ、小さく震えてるけど、指摘はしない。


「ね、ねぇクレス?」


「分かってる。さすがに今日は一人で寝かせられないからな」


「ありがと」


小さくだが、しっかりとお礼が聞こえた。

でもやっぱ、あんな感じの奴らに絡まれたときに対処法は伝授した方がいいのかね。


「クレス……」


クイクイと俺の服を引っ張るリリィ。


「もう寝るか?」


「うん……」


「そっか、じゃ、おやすみ」


明りを消して、リリィが潜っている布団に入る。

すると、控えめながらギュッと抱きついてきたリリィ。まだ、震えてる。

いつもは、突き放すんだけど、今日は仕方ないか。

そう思い、リリィが寝入るまで頭を撫でた。

よくよく考えたら、この話のモブ。


140㎝ぐらいの女の子捕まえて、ゲヘゲヘ言ってるとか。


かなりの変た……いや、ロリコn……


何も言わないでおこう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ