澄んだ空
「ねぇねぇ! あれは何?」
隣のエルフが、通り過ぎて行った通行人の持っていた食べ物に興味を示した。
「あれは、チュロスってんだ。まぁ、大体の認識は甘いお菓子でオッケーだ」
「ねぇ、私あれ食べたい!」
目をキラキラさせながらねだってくるエルフ。
腕時計で時間を確認してから、溜息をつく。
「お前なぁ、さっき昼飯食ってからまだ十三分だぞ?」
「もう十三分だよっ! それに、甘い物はざっくばらんなの!」
「別腹だろ? どういう覚え方したら別腹がざっくばらんになるんだ」
「もう。細かいこと気にしすぎだよ。で、買ってくれないの?」
悲しげな声音と表情で、口をキュッと結び、上目遣いで尋ねてくる。
そういう仕草は反則だろ……。
「しゃーねぇな」
「ホント!? やったぁ!!」
「道のど真ん中でジャンプするな」
着地した所を狙いチョップをする。勿論、手加減はしてある。
「いったぁい! でも、お菓子買ってくれるから、大好きっ!」
そう言うと、元気よく飛びついてくるエルフ。
注意されたはずなのに性懲りもなく道でジャンプしやがった。神経が図太いんだか、単に頭のネジが緩んでるのか外れてるのか。
「単純な奴だな」
「えへへ、単純でもなんでもいいよ~」
初めて会った日からは考えられない程の良い笑顔だな。
エルフの里の情報は相変わらず無いし。いつまでこいつを連れて歩けばいいんだ。
少し憂鬱になり、空を仰ぐ。
肉たらしいほどに、澄んだ青い空と真っ白な雲。控えめな太陽と微かに見え隠れする薄い青の月。
あん時も、こんな空だった気がする。