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エルフとの旅行記  作者: 乃那加 結羽
現在:『霧の湖付近』
10/13

抗えない衝動

「ふぅ~……クレスー、テント張り終わったよー」


「ん、じゃあテントの中で休んでろ。俺が戻ってくるまで、絶対にテントから出るなよ」


 着替えある程度あってよかったわ。いつまでも血濡れの服着たままとか気色悪いし、血液って時間経つと結構臭い発するしなぁ。ついでだがインナーも着替えたしスッキリしたわー。


「はやく、帰ってきてね?」


「わーってるって。保存食十分にあるんだから、この服さっと水で洗ったら帰ってくるっつの」


「私、待ってるからね?」


「重てぇ女みたいなこと言ってんじゃねぇ」


 背中に視線をひしひしと感じながら湖へ向かう。

水の匂いは西からするな。そんなに遠くない、か?



● ○ ●



「あっ、インナー持って来るの忘れた……。ちっ、失敗したな。持ってきてりゃあ、まとめて洗えたのに」


 まぁ、明日には町に着くだろうしどうにかなるよな。

どうでもいいが、ここの湖無駄に水が綺麗だな。んで、霧が濃い。


「伊達に霧の湖じゃない、ってか?」


 さして大きくない湖なのに目を凝らしても対岸が微かに見えるくらいか。

今日は寝ないで警戒しねぇと危ないか?


「まぁ、どうにかなんだろ。つーか片手だと洗いにくい事この上ないな」



● ○ ●


「クレス、遅いなぁ……。暇だなぁ……」


 ブツブツと呟きながらテントの中をゴロゴロと転がりまわる。ふと、テントにすみに丸めて置いてあるものが目に入る。


「これ、クレスが着てたインナー?」


 手に取り広げると見た事のあるシャツだと分かった。


「持ってくの忘れたんだ。クレスも抜けてるとこあるんだなぁ…………良い、匂い……はっ!」


 無意識にシャツに顔をうずめていた事に気が付き咄嗟にシャツを丸めて投げる。

な、何してるんだろう私。で、ででででも、多少なら……好きにしたってバレない……よね……?


「クレスは、まだ戻ってこないよね? そーっと、そーっと」


 ゆっくりとシャツに手を伸ばして顔をうずめてみる。

大きく、ゆっくりと息を吸う。


「ふぁ…………ぁぅ……」


 やっぱり、良い匂いだなぁ。こう、なんていうんだろ、安心する。

なんか不安感がスッと消えるっていうか、なんていうか、頭がふわっとして心地が良い。

でも、なんか、物足りない、のかな?


「んんっ……なんか、むずむずする……」


 かゆいとこに手が届かない感じ。良い匂いで満たされるけど、何かが足りない。んむぅ、なんだろ、モヤモヤする。食欲とかの欲求とは別のベクトルでモヤモヤする。

 もっと強くシャツを抱え込んで大きく息を吸ってみても、何か足りないものは満たされない。


「んぅー……なんだろ…………」


 最初とは少し変わってクレスのインナーを抱きしめながらテントの中を転がる。

それにしても、クレス遅いなぁ……。でも、インナーがあるとクレスが近くにいるみたいで、いいなぁ。


「クレスぅ…………さみしいよぉ……」



● ○ ●


「やっべぇ、まさかこんな短距離迷うとか馬鹿か俺」


 テントを前に少し考え込む。

 結構時間開けちまったし、リリィが癇癪を起さなきゃいいが。

謝る言葉はどうすっかなぁ。俺が面倒かけてんじゃなくて面倒見てやってんのに下手に出るってのは腑に落ちねぇが、速く帰ってくるって約束しちまったもんなぁ。契約不履行だよな、となると俺が謝ってしかるべきか。


「すまんな、だいぶ遅くなっちまった」


 考えた末の、最もシンプルな謝罪の言葉を口にしながらテントの中に入る。

下げた頭を上げた先には、なるべくならば見たくなかった光景があった。


「うぅ……くれふおひょいなぁ……さみひいなぁ……」


「……お前、なんで人のインナー咥えてんの?」


「ふぇ……? はっ! く、くれふ! こ、こここれはね、ちちちらうんらよ?」


「何が違うんだか分からんが、いいからそれ口から離せ」


 軽い拳骨をお見舞いしながら、一部濡れまくった俺のインナーを回収する。

匂いを嗅ぐとかならまだしも、口に含むとかどんな上級者だよコイツ。


「あぅ……ごめんなひゃい」


 しゅんとした様子で縮こまるリリィ。


「で、なんで俺のインナー口に含んでたわけ?」


「その、あの、クレス遅いなぁって思ってたら隅っこの方に、それが丸まってたのね? でね、こう、ぎゅってしたらふわーってなってね? あの、その……えっとぉ……それから……………」


 よく理解できないすごく抽象的で、酷く感覚的な説明の後、長考に入るリリィ。

うむむ、と小さく唸っているが、たぶん考えはまとまっていないのだろう。頭がふらふらと右に左に行ったり来たりしてるし。


「…………気が付いたら咥えてました。ごめんなさい」


「はぁ……リリィが変態なのは知ってたが、ここまでだとは。まぁ、インナー置いてって帰りが遅かった俺にも非はある。だからそんなに震えんな」


 目の前で正座してフルフルと震えているリリィの頭を軽く撫でる。

大方、俺に嫌われるんじゃないか、見捨てられるんじゃないか、とか心配してんだろ。


「私の事、嫌いにならないの?」


 案の定か。


「お前の奇行は今に始まった事じゃないだろ? この程度じゃまだまだ動じねぇよ」


「……ほんとに?」


「当たり前だろ? 心配すんなって。ほれ、飯だ、飯」


「あ、う、うん! クレス何食べる? 私食べさせてあげちゃうよっ!」


 ほぼタックル同然で飛びついてくるリリィ。

片手なので後ろに手も着けずにそのまま押し倒される形になる俺。片手だと色々不便だな。まぁ、明日の朝には戻ってるだろうけども。


「だぁー! もう、急に抱きつくなっての。つーか普段からあんま抱きつくな」


「んふふー。やっぱり実物のが温かくて良い匂いー……」


「ちょ、おい! 話聞け! 人の上でくつろぐな!」


「えへへー、もうちょっとだけー」


「頭擦りつけんなっつの。………………しょうがねぇ、少しだけな」


「うんっ!」


 満面の笑みでこちらに笑いかけるリリィ。

はぁ、笑顔と涙は反則だと思うんだよ。んな顔されると拒否できねぇじゃねぇか。

なんだかんだ言って俺ってリリィに甘いのかねぇ。

いや、まぁ、はい。


リリィさんはっちゃけ過ぎですよ。

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