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Rhyme:6

 その後、あちこちの店を回った俺達は、十二時半頃になり、昼食を取ることになった。

何を食べるか考えるため、とりあえず飲食店街に行くことにした。

野中さんは、

「私、スパゲッティーが食べたいな〜。ねぇ舞は?」

と言いつつ、三枝さんの腕を取って寄りかかった。

「ん〜、私は何でもいいかな。おいしいものがいいかな。」

そういいつつ、考えていないような表情をしている。

「んも〜、それじゃ困るじゃんか。ねぇ風間、あんたも何か言ってよ。」

野中さんは、そう俺に振りつつ後ろ向きで歩いている。俺も正直何でも良かったので、振られても困る。

「そうね、とりあえずお店を見てみましょ。選ぶのはそれからでもいいんじゃない。」

伊集院がそういいつつJ−Wingの地図を見ている。これだけ大きければ、何処に何の店があるか分からない。こういったと場所に縁の薄い俺には尚更である。


飲食店街には時間が時間だけに、昼食を摂ろうとする多くの人がいた。

これではどの店も待たないとダメだろう。

適当にぶらつきながら、目に付いたイタリアンレストランに入ることにした。

店内は満員だったので、十分ほど待つことになった。

その間、やはりと言うか野中さんは落ち着きが無く、忙しなく俺達に絡んできた。

特に俺への絡み方は尋常ではなく、いろいろと聞いてきた。

趣味やら特技やら女の子タイプやら。

まぁ、俺も律儀に答えていったのも悪かったのかもしれない。

当然、俺の仕事については何も話はしないが。

暫くして無事席に着いた俺達は、メニューを選びながら話をしていた。

そんな時、俺はその場にふさわしくない雰囲気を嗅ぎ取った。


それは生臭く、肌に纏わり付くような感じ。

俺の日常に当たり前のように存在するそれは、俺の近くから感じられた。

こんな仕事をしていると、自然と周りの空気に敏感になってしまう。

間違いなくこれは俺達の世界の奴が放つ気配だ。しかもこれ程あからさまな奴となると、危ない奴だ。


「ねぇ、風間くん。どれにするか決めた?」

その気配に、敏感に反応していた俺を他所に、三枝さんがメニューを手に聞いてきた。

どうやら俺以外は注文を決めたようだった。

「え、あぁ、うん。ごめん、ちょっと待って。」

そう言い、メニューに目を落とす。適当にメニューを選び、注文をするため店員を呼ぶ。

その間も、その気配は消えることなく感じ続けられた。

対応に来た店員にそれぞれ注文をした後、俺は自然な感じで周りを見回した。

「そうそう、二人は進路とか決めた?私らもう受験生じゃん?大学行くの?」

野中さんが唐突に話し出した。

「私は進学したいかな。いきなり就職とか考えられないし。まだどこの大学にするとかは決めてないけどね。」

そう言いつつ、三枝さんは微笑んでいる。

「そうね〜、私は進路決められている様なもんだからね。」

「そっか〜、そうだよね。伊集院は医者になんないといけないもんね。あんなおっきな病院の後継ぎだもんね。で、風間は?」

野中さんは、伊集院の答えに頷きつつ、俺に話を振ってきた。

「えっ、俺?」

さっきからの気配を気にしつつ、俺も答えようと考えた。

気のせいだろうか、皆が俺の答えを待っているように注目されているような気がする。三枝さんも、興味津々といった表情を見せている。

(進路、将来か…。そう言われれば、考えたこと無かったな。俺ってこれからどうなるんだろう。仕事さえこなしていれば、これと言って制約はないし、何してもいいと思うんだよな。仁兄達も自分の進路は自分で決めたし。でも、その後はどうなるんかな?)

改めて言われると、これと言って答えが出てこない。

「ん〜、よく分からないかな。全然決まってないし。」

とりあえず答えておくことにした。今のとこはそれが本当だと思う。

それに今はそれどころではない。

その雰囲気は消えることなく漂い続けている。

(どこだ…。)

こういったことに敏感な人なら、気付いてもおかしくない。

(店の中?いや、外か?)

周りの人たちは、休みの時間を楽しそうに過ごしている。家族連れは子供の面倒を見ながら、楽しそうに、カップルは二人の時間を楽しそうに、幸せな空気の溢れているこの空間に紛れている、余りにも不釣合いなそれ。

(どうする。このままやり過ごすか。)

三枝さん達は楽しそうに話している。俺だけが一人、この場に馴染めないでいるように思えてくる。

「ねぇ風間、あんたって何でいつも学校で一人なの?」

不意に野中さんが聞いてきた。どうやら三人は学校についての会話をしていたらしい。

「えっ、あ、何?」

俺はそれどころではない。三人の会話はまったく聞いていなかった。

「話し聞いてないな!?だから、何であんたは学校でいつも一人なのってこと。」

学校での俺のことらしい。

そう聞かれても困る。別に一人でいるわけではないし、皆を避けていると思わない。皆に避けられていると感じたことも無い。

「いや、別に一人じゃないと思うんだけど。」

質問の真意が分からないまま、普通に答えた。これは本心だ。

「いや、そういう一人じゃなくて、何て言うか、こう親友と言うか、本当の自分を出せる時と言うか、そんな感じの。」

「そうそう、それは言えるわね。私も感じるもの。何かこう誰にも言えない影があるみたいな感じ。でもそこもいいのよ?」

「うんうん。」

「ぇ…。」

正直、驚いた。

野中さんの後に続いた伊集院には、勘が鋭く思慮深い人間だと言う感がある。こいつは何かしら俺について思うところがあるのだろうとは思っていた。

人の上に立つ者はこういう感じの奴だと思う。

でも、その他の二人の台詞には驚かされた。

俺はそんなに分かりやすい人間なのだろうか。それともこの二人は人一倍鋭い感覚の持ち主なのだろうか。

さっきの気配に加え、二人の台詞。

正直、今の俺はかなり動揺していると思う。

「い、いや、そんなの無いって。影って、漫画じゃないんだし。なはは。」

自分を落ち着け、当たり障りの無いように答えておく。

俺って、単純な人間かもしれない…。

「それに、伊集院がいるじゃん。」

「あら、私のこと親友と思っててくれたの?嬉しいわね。」

俺の適当な返答に、思った以上の反応を見せる伊集院。

向かいの二人は「私は?」みたいな顔で俺を見ている。

このままでは何を言い出すか分かったもんじゃない。ここは一時退却だ。

「ご、ごめん。俺トイレ。」

そう言って席を立った瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、先ほどからの異様な気配の元としか思えないそれだった。

店の外、正面に見える吹き抜けの通路の向こう側。

周りの雰囲気とは明らかに違う空気を放つそいつ。

これほどあからさまな奴も珍しい。

周囲に放つ殺気は、尋常じゃない。鋭い人なら嫌でも気付く。

現に、そばを歩く人達の中には何人かその殺気を感じ取り、振り向いたり、そっちを見たりしている。

俺は席から立ち上がったままそっちを見、緊張した面持ちでいた。

「風間くん、どうかしたの?お手洗いならあっちだよ?」

俺の異様な雰囲気に気付いた三枝さんが、トイレの方を指差しながら言った。

こういったことに彼女は敏感だと思う。

「いや、うん、何でもない。それじゃ。」

そう言い、トイレに行く振りをして、三人に気付かれないように店を出る。


店を出た俺は、そいつに気付かれないよう近づいていった。

そいつはそこに留まったまま、何をするわけでもなく、黙っている。

しかし、放たれる殺気は本物だった。

とにかくこの場から離れないといけない。

(ここで騒動を起こされても困るし。とりあえずどこか別のとこに行かないと。)

そう思った俺は、近づきつつこの辺の空間の見取り図を頭に浮かべていく。

(この辺だと、二ブロック向こうの商品搬入口から出るのが一番無難だな。余り遠すぎると面倒だし、何より危険すぎる。)

自分の行動を簡単に順序立て、ある程度のめどが立ったので直ぐ様行動に移す。

まず、そいつに向け軽く殺気を放ってみる。

これにはコツがいって、絶妙な強さで放たないといけない。大きすぎると、必要以上の警戒・反応を起こす原因となり、小さすぎると意味が無い。

案の定、そいつは俺の殺気に気付き、多少周りを気にした素振りを見せた。

その姿を見ただけで、俺は直感した。

こいつは、『本物』だと。

必要以上の行動や、反応を起こさず、自分の何気ない仕草の中で周りを警戒している。

(マジかよ。あんなプロがこんなとこで、しかもあからさまにいるんじゃねーよ。つーか、下手したら、仁兄レベルかもしんねーじゃん。)

その異様な殺気を除けば、立ち振る舞いや雰囲気は相当な使い手であることが分かった。

それも、俺より上かもしれない。

これはこっちも気を引き締めないといけない。

その時、明らかに目が合った。

二人の動きが同時に止まる。いや、二人を中心としたこの空間の時間が止まったような印象を受ける。

男は俺を見、目を細めた後、何か呟いきゆっくりと踵を返し、人ごみに消えていった。

まるで宙に浮いているようなその身のこなしと、一瞬で気配を消す技術。

俺は、その場に立ったまま動かなかった。

いや、正確には動けなかったと言ったほうが正しいだろう。

男が立ち去る前に見せたその表情。それは強者が弱者を圧倒的な高みから見下ろす様な、何の力も持たないものを哀れむような。そんな笑み。

そして、その唇が紡いだ言葉。

『風間の瞳術使いか。』

俺の全てを一瞬にして理解したかのような言葉。

「かぁっ…。はぁはぁはぁ。」

俺は息をすることも忘れ、動けずにいたらしい。今になってようやく息をすることを思い出した。体中に汗を掻き、膝が微妙に笑っている。

(お、俺は…。あいつは…何なんだよ…。)

さっき目を合わせただけで、俺はあいつには勝てないと言うことを一瞬の内に思い知らされてしまった。

俺はそのまま、帰りの遅い俺を探しに来た三枝さんに肩を叩かれるまでまったく動けずにいた。

すっごく久しぶり。

がんばってるつもりですが、何とも…。

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