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大好きな人。  作者: 薄桜
3/9

見えない不安

3話目です。


ではどうぞ。

ノートを広げて机に向かっていたら、急に妹の騒ぐ声がした。

妹の部屋は僕の部屋の隣にあり、壁越しだが結構響く・・・理佐何が嬉しいんだ?

やたらと甲高い嬌声に続き「美晴さん大好きー」って言ってるのがはっきり聞こえる。

・・・って美晴さん?

その名前を聞くと嫌な想像しかできない。でも、きっとそんな想像は軽く裏切られる。僕の想像を遥に凌ぐ何かを、おそらく妹と一緒になって画策してるんじゃないだろうか?

もちろんその罠にかけられるのは僕だ。

・・・僕は一体何をされるんだ?

気を付けようにも、どこからその罠が始まるのかわからない事には防ぎようもない。もちろん、聞いた所で教えてくれる訳も無く、逆に妹の機嫌を損ねるだけだ。

何かヒントになる事が聞こえないかと耳を澄ませてみるも、それ以降妹の声が聞こえる事は無く、僕は不安な気持ちを抱えたまま、やたらと機嫌の良い妹と一緒に夕飯を食べる事になった。



「ねーちゃん、何難しい顔してんだ?」

夜にリビングのソファで謎の怪文書とにらめっこをしていると、風呂上りの航が麦茶片手に声をかけてきた。

私疑問に思われるほど、不審な事してたかな?

「これ。」

まったく読めない手紙らしきものを航に渡し、ソファに沈み込んだ。完全にお手上げである。断片的に読める平仮名はあるが、ひん曲がった漢字は『字』と認めたくない。

滅びた文明の文字の解読も、こんな苦労だったんだろうな。

脳のが疲れてきたせいか、考えている事が少々ひどいと自分でも思うけど、止めない。止めたくない。これはきっと新手の嫌がらせよね、きっとそうだ、そうに違いない。

私に無駄な時間を使わせるのが目的で・・・でも一体誰が?

一番やりそうな美晴はもっと不思議な手段を講じてくる。こんな幼稚な手は使わない・・・でも、それじゃぁ誰が?

「どうすんのこれ? 西山隆志って3年だったよな?」

しばらく紙切れを眺めていた航が、知らない誰かの名前を口にした。

「はぁ???」

西山って誰よ? ・・・ってそこに書いてあるのか・・・って事は、ただのイタズラな怪文って訳じゃないのね・・・って、え?

「あんた、これ読めるの?」

「確かに汚い字だけど、・・・ねーちゃんは読めないのか?」

不思議なものを見るように問うと、不思議なものを見るように返された。

「まったく、全然! 古代文字の解読ってくらい?」

「・・・ひでぇ。」

反論の余地が無いほどきっぱり言い切ると。小さくそう呟くのが聞こえた。いくら批判されても、読めないものは読めない。

航はそんな私の様子に盛大にため息をつくと、諦めたように読み上げはじめた。


+---------------------------------------------+

 安田 葵様


 明日の放課後、2号棟の裏で待ってます。

 来るまで待ってます。


 西山 隆志

+---------------------------------------------+


「・・・だってさ。」

「へー。あんたそれ特技よ特技、何でそんな字読めるのよ?」

思わず感心してしまった私に、航は眉を寄せてあきれた表情を作った。。

「それはもういいから、どうするかを考えてやれよ~」

「えーっと、西山って誰だっけ?」

同じ3年らしいけど私は知らない。航は1年のくせにどうして知ってるんだろう?

航を見上げてみたけど、向こうは目を合わせもせず残っていた麦茶を一気に飲み干し、グラスを流しに置いた。

そのまま自室に戻ろうとするのを、私は慌てて呼び止めた。

「航! ・・・今日美晴が言ってたんだけど。・・・聡太って、モテんの?」

「はぁ? 突然何だよ?」

「いーから、質問に答えろ。」

そりゃ、突然だけど・・・気になるんだから仕方ないじゃない。

素っ頓狂な声を上げる弟をいつもの調子で押さえつけると、向こうもいつものように憮然としながら口を割る。

「あーんと、小5くらいからキャーキャー騒がれるようになったかな? そのくらいから成績もトップになりだして、俺みたく、バカな事しなくなって・・・少し雰囲気変わったんだよな・・・まぁ聡太は聡太だけどさ。もちろん今も大人気だぞ、本当腹が立つほど。」

多少、何か含む所のある言い方をする弟はさておき、その弟から語られた内容に、今日音楽室で見た光景を重ねた。

急に沸き立った女の子達に驚いて、何故か嫌な気がした。

これまでどこか、もう一人の弟のような気でいた聡太。その彼という存在と、その周りの変化に、今私は正直驚き、戸惑い、寂しく感じている。

毎朝会う聡太はずっと変わらない。


だから私は・・・ずっとそのままだと思っていた。


毎朝毎朝変わらない、学校に行く仕度を済ませた頃に玄関のチャイムが鳴る。

弾む心をおさえて急いで靴を履き、いつものように玄関から出た。

しかし、そこに思う姿は無く・・・ただただ白いだけの世界が広がっていた。


・・・これは恐怖?

急に目が覚めて、耳まで伝う温かいものに驚き、それでも夢でよかったと安堵した。

この心の動揺は、見えない未来に対する不安・・・きっとそんな恐怖。だから真っ白で何も無かったんだ。

私は進路に迷っている。進路希望の紙にもまともな事を書けないでいる。特になりたい職業もないし、行きたい学校がある訳じゃない。

それに私は、今の状況にとても満足している。朝チャイムに呼ばれ玄関のドアを開けると、いつも笑顔の聡太がいる。それだけでよかった。

でもきっとこの先はこうはいかない。

もし私が適当に大学を選んで、ちゃんと進めたとして・・・でも、そこには彼がいない。

ううん、まだ聡太は毎朝航を迎えに来る。

家から通えるようなとこを選べば・・・でも2年後には?

彼はどこに行くのだろう?

もし遠くに行ってしまえば・・・もしそうなれば、私と聡太の縁は切れてしまう。

・・・そんなの嫌だ。


再び涙が込み上げてきて・・・そこまで考えて、私は初めて気付いた。

・・・そっか、私は聡太の事が好きだったんだ。


まだ暗い部屋の中でいくら布団を被り直しても、高ぶった感情に再び眠る事はできず、カーテンの向こうが段々と明るくなっていくのを、ぼんやりと眺める事になった。

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