僕の日々
私が最初に書いた「求める者。」のリメイク、書き直した物です。
あまりに情けない文章で、ってのもあるんですが、
進行上、変更した部分や、こう・・・色々と・・・ねぇ?(何が?)
とりあえず、大きなストーリーの流れに変更はありませんが、文章量は10倍くらいになってます。
時系列的に「親友からもう一歩。」の続きになってまして、全9話です。
学校へ向かう川沿いの桜並木のピンクに、目にも鮮やかな緑が随分と混じり始めた。
高校の入学式から一週間が過ぎ、学校や教室の雰囲気にも少しは慣れてきた。
僕は元々新しい環境に飛び込んでいくのが得意じゃないし、目立つ事も、矢面に立つ事も好きじゃない。どちらかとえいば内向的な性格だ。でも、変に目立つらしい僕は注目される事が多く・・・日々非常に迷惑している。
だから、高校に進んでからもまたその面倒な事が、また新たに繰り返されるのかと、念願の高校に進んだ喜びも幾分削られていたのだが・・・運良く、以前から仲の良い親友二人と同じクラスになり、随分と救われている。
・・・というのが今の現状だ。
僕は毎朝決まってある家のチャイムを押す。それが始まったのは確か小学校の1年生の時。幼稚園の頃からの付き合いの、そして何とか同じ学校に通う事が叶った、クラスメートでもある安田航の家だ。
今日も同じ時間に、変わらずこうしてチャイムを押す。
ありふれた呼び出し音が響くと同時に、家の中からバタバタと足音が聞こえて、勢いよく玄関が開き、長い髪をなびかせたとてもきれいな人が出てくるのだ。
「おはよ聡太、今日も時間きっかりね。」
同じ学校の制服を揺らして、眩しい笑顔を見せる彼女は、航の2歳上の姉で・・・僕がずっと憧れ続けている人だ。
「おはよ葵姉、航まだ?」
航には悪いが、今ヤツは口実に過ぎない。
僕はもう何年も彼女と会うために、彼女と話すために、彼女の笑顔を見るためだけに、この寄り道を続けている。
ずっと先を行き続ける彼女の後を追い続けても、その距離はまったく変わりはしない。狭まりもせず、広がりもせず、でも時間だけは着実に流れ続けていく。
今年はようやくまた、同じ学校に通う事ができる。
・・・でもそれはまた、たった一年間だけの事で。
そして今度は今までと違い、この先はどうなってしまうのか・・・葵姉がどこに行ってしまうのか分からない。そんな不安を僕はずっと抱えている。
「色気付いて鏡の前で髪セットしてたから、まだかかるかも。」
「げ、置いて行こうかな・・・。」
弟の代わりに謝っているような顔する彼女に、少しこぼすと途端に笑顔に戻る。
うん、僕はこっちの顔をしてくれる方が嬉しい。
「それがいいかもね・・・あ、じゃぁお先に。」
・・・今日はこれで終わりだ。
じゃぁねと彼女に手を振って微笑むと、彼女も笑って手を振り返して、スカートを翻す。向きを変えた彼女の、段々と離れていくその後ろ姿を、角を曲がって見えなくなるまでずっと見つめ続ける・・・
僕はきっと、この朝の時間のためだけに生きている。
葵姉の事は、航と知り合った時から知っている。
あまり積極的ではない僕は、幼稚園の頃もそうだった。
家に帰りたいと泣いていた僕に、あれこれちょっかいを出して、ガンガン話しかけてきた航といつの間にか仲良くなり。それが縁で姉である葵姉も遊んでくれるようになった。
でもその頃の・・・もう少し大きくなってからも葵姉は怖い存在で、遊びに行く度に目にする激しい兄弟喧嘩や、途中で仲裁に入る二人の母親にも・・・僕の家では見た事の無い光景をハラハラしながら見守っているしかなかった。
そして、葵姉は時々僕にも航同様の扱いをしてくれた・・・今思えばすべて笑い話だけど、当時は本当に怖かった。
それが変わったのは、葵姉が中学に上がってからだ。
私服から制服に変わり、短かった髪が伸び、恐怖の代名詞だった彼女の顔に、柔らかい笑みが浮かぶようになった。
それと同時に乱暴な言動も減り、きっと一足先に大人に向かって歩き始めた・・・そういう事なのだろう。
そして彼女は僕にとって、親友の怖いお姉さんから、ずっと先を行く手の届かない憧れの人になった。
2歳の差・・・そのいつまで経っても埋まらない差が、僕にとっては大きな大きな隔たりとしてずっと存在し続けている。
「おう聡太、今日も早いな。」
「航は遅いよ。」
葵姉が先に行ってから10分以上が過ぎようとする頃、再び玄関の扉が開いてようやく親友が姿を現す。そして、悪気も謝罪も無い暢気な声に神経を逆撫でされるのもいつもの事だ。
何のために僕は朝早くに家を出ているのか疑問を感じ・・・いや、葵姉に会えるから、ちゃんと目的は達しているのだと納得する。
そして毎朝のように繰り返される、ここから学校までのジョギングが結構キツイのも・・・そういつもの事なのだ。
「二人ともおはよう、今日も朝からお疲れさん。」
教室に入ると、いつものように朋ちゃんが僕等を迎えてくれた。もう一人の親友で、名前は石川朋花。
中学の時転校してきた彼女に、航がとんでもない声のかけ方をしてくれた事が縁で仲良くなった。僕のせいで厄介な事に巻き込まれようが、気も個性も強い彼女はそんな事など気にも留めず、今も相変わらず親友でいてくれる。
・・・いや、少し変わって、今は航の彼女という立場でもある。
「朋花もお疲れ、今日も朝練だったんだろ?」
「うん、やっぱ朝から走ると気持ちいいね。」
ごめん、僕はそれに賛同できない。
以前は朋ちゃんも一緒に登校していたのだが、高校に進んでからは陸上部に入り、毎朝のように朝練に出ている。本当に彼女には尊敬の念が堪えない。
「聡太くんも毎朝走らされてるんだから、そろそろ体力がついてもいい頃だと思うんだけどな。」
「だよな、いくらひ弱でもなぁ、もう随分走ってるのにな。」
・・・何その会話? 二人の間に暗黙の了解の何かがあるような気がした。
「航? ひょっとして、これ作為的にやってる?」
僕の言葉に朋ちゃんは平然としていたが、航は一瞬止まった。
「何の事だ?」
「細かい事は気にしなーい。」
へー、そういう事ですか・・・。
二人に嵌められていた事実にうんざりして何気なく外を見ると、2階の渡り廊下に葵姉の姿を見つけ、癒しを求めて窓辺に寄った。
何の教科か分からないけど教室移動なのだろう。隣を歩く美晴さんが僕に気付いて葵姉にも伝えてくれた。
そして、二人が僕に向かって手を振ってくれたので、僕も手を振り返した。
「聡太、青春真っ盛りだな。」
「本当だね、でも純情過ぎだよ。」
・・・頼むから、二人とも黙っててくれ。
ではでは、続きもよろしくおねがいします。