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健史の『彼女』

「龍太郎……」

海のほうもアパートのドアの前に僕の姿を見つけた時、ひどく驚いた顔をし、一瞬踵を返そうとした。

「待って! 朝から健史がいないんだ。会社も無断で休んで…おかしいと思って、彼のデスクの引き出しを見たらここに来いって僕宛の手紙が……海は何か聞いてない?」

僕が慌ててそう言うと。

「健史が行方不明? それに、健史が本当に龍太郎にここに来いって!?」

と、僕を見つけたときよりもっと驚いて、ドアの前までつかつかと小走りにやって来て、海は健史の部屋の鍵を取り出した。

 僕はそれを見て愕然とした。まず、海は僕と違って、他のクラスメートに倣ってヤナと呼んでいたはずだ。それには僕ににつられて急にそう言ったのではなく、普段から呼び慣わしているような親密さが感じられた。

 そして、海が彼の部屋の鍵を持っているという決定的な事実。この頃早く帰るようになったのは、僕の予想が正しく、その相手は海だったという事だ。

 僕は海と別れる時に彼に、

「他の奴に取られるくらいなら、いっそのこと君に……」

とは言ったけれど、縦しんば本当にそうなっているとは夢にも思わなかった。健史はあれから1度も倉本の“く”の字も吐いたことはなかったから。

 でも、実際にそれを目の当たりにしてしまうと、それはそれで僕は胸が裂かれるような痛みを味わった。

だから、健史は僕には海と付き合っていることを内緒にし続けたのだろうけれど。

なら、何故今になって…


 ここに来れば全てが分かると書いてあったが、また分からない事が増えた。そう思いながら僕は、ドアを開けた海に続いて、健史の部屋の中に入った。


「う、ウソ…」

入ったとたん、僕たち2人は絶句した。元からあまり荷物は多くはなかった部屋だったが、さらに荷物は消え、わずかに残されたものも綺麗に纏めて置かれていた。

「3日前に来た時には、こんなじゃなかったわ!」

そして、海は僕のスーツの襟を掴んで叫んだ。

「ねぇ、健史は何処!? 何処にいったの!? 教えて! ねぇ、龍太郎!!」

涙をいっぱいためて僕を揺すぶって健史の消息を質す海の顔を見ていられなくなり、僕は目線を彼女から外した。

「僕も分らないよ。ここに来れば全てが分るって彼から手紙をもらっただけで、何も……」

そう言いながら僕は彼の部屋を一通り見回して、何か手がかりがないかと探して……


 僕は畳んだ布団の上に手紙が置かれているのを発見した。

「海、あれ……」

僕は目で、布団を示すと、僕のスーツを掴んでいた海の手をそっと外させて、手紙を取った。


 手紙は2通。1通は僕宛、もう1通は海宛だった。

僕は海宛の手紙を彼女に渡すと、開けるのももどかしいと焦りながら、開けてその手紙を読み始めた。


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