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海の病気

 病院に到着した海は受付で受診科目を「婦人科」と告げて問診表をもらった。

「婦人科」?!僕は今日、内科を受診させるつもりで来たのに……

昨日の態度と言い、彼女に何らかの自覚症状があったのは明白だった。

(かなり悪い結果も覚悟しなきゃならないな)

僕は神妙な面持ちで座っている海の横顔を見ながらそう思った。


「結城さん、結城夏海さん2番にお入りください」

そんなアナウンスを受けて診察室に一人入った海。

しかし、程なく僕は中から出て来た看護師に、

「結城さんのご主人ですか?先生がお呼びなんで、お入りください」

と、中に入るように促された。

 僕は唾を呑み込むと、恐る恐る海の入った診察室の半自動の引き戸を開けた。

中には40代半ばと思われる男性医師が笑顔で座っていた。

「結城さん、奥さんがどうしても私からご主人に話して欲しいと言われましてね、おめでたです。最終月経から考えると、今10週というところですかね」

僕は自分の耳を疑った。海が妊娠してるだって!?

「まさか……そんなまさか……」

「奇跡が起こったのよ」

海が眼にいっぱい涙をためてそう言った。

その様子を見て医師はカルテを見ながら首をかしげた。

「奇跡って…奥さんは経産婦さんなんですよね」

「あ、奇跡って2度は起こらないと思ったものですから」

海が慌ててフォローした。

「子供の頃の病気の治療が原因で、精子の数が極端に少ないと言われたので……2人目の子を授かるなんて思ってなかったからですから。正直信じられない」

僕もそれに続いてそう言った。

「そういうことですか。それで、病気は完治されているんでしょう?それに、前の妊娠から7年もたっている訳ですし、特に避妊などされてない状態なら、そんなに驚く事態でもないと思いますよ」

僕の言葉に医師はそう返した。

「それにね、医者の私がこんな事を言ってるのが分かったら、叱られるかもしれませんがね、人間の身体って、結構心に左右されるものなんですよ。祈り続ければガンだって消えたり、位置が変わったりするんです」

「えっ!?」

医師のその言葉に、僕たちは同時に驚きの声を上げた。

「実は私の妹は末期の肝臓癌だったんです。しかも手術では切除できないような位置にあった。妹はその時結婚四年目で2人目の子供を授かったばかり、まだ生後6ヶ月でした。

『この子達を残しては死ねない』って妹は、毎日毎日泣きながら祈り続けていました。

そしたら奇跡が起こったんです。がん細胞が消えるようなことはありませんでしたが、すぐに切除できる位置に移動していたんです。早速手術して、悪いところを全摘することができました。

今から、12年前の話です」

「で、その妹さんは?」

「今も元気ですよ。この春は、そのまだ赤ん坊だった下の子のお受験に親子共々走り回れるくらいに。

お2人とも、もう1人欲しいと、心から願っておられたんでしょ?」

「ええ……ええ」

海は頷きながらそう答えた。

「だったら何度だって奇跡は起こると、私はそう思いますよ。現にここにこうしてあなた方の新しい命がはっきりと映し出されている」

そう言いながら、医師は海のお腹にエコーの端末をあてた。

「ありがとうございます……ありがとうございます……」

泣きながら何度もお礼を言う僕に、

「おかしなご主人ですね、私は事実を言ったまでですよ」

医師はそう言って笑った。

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