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手……アルビノー二のアダージョ

 僕はその放課後、音楽室で1人ピアノを弾いていた。


 元々ピアノを弾くのは好きだった。でも、浮腫みが酷かった頃は指の動きも悪く、あまり上手に弾けないと感じていた。

浮腫みも取れやっとスムーズに動くようになったと思いながら弾いていると、音楽室の窓がガラッと開いて、

「あ、何だ結城君かぁ…アルビノーニのアダージョなんて曲が曲だから、幽霊だったらどうしようって思ったわよ。」

と、ひょこっとその窓から顔を出したのが、海-倉本夏海という名のクラスメートだった。

「でも、ピアノ上手いね。」

海はそう言ってふわふわの笑顔で笑った。

「倉本…さんもピアノ弾くの?」

「うん、でもちょっとだけ……一応受験にも必要だし」

「へぇ、音大に行くの?」

受験でピアノが必要だと聞いて、僕は当然音大に行くのだと思ってそう言った。

「まっさかぁ~、幼教だよ、保母さん。音大なんて考えたこともないよ。びっくりしちゃう」

「ヨウキョウ?あ、幼児教育のこと?何だそうか…アルビノーニのアダージョなんて曲名を即答するから、僕はプロでも目指してるんだと思ってさ」

僕がそう言うと、海はこう返した。

「この曲って有名じゃん」

「曲自体は有名だけど、曲名まで即答できる人はそうはいないと思うけど」

大体、クラシックなんて大抵そうだ。題名を言っても分からないけど、聞くとああ…て感じになるものがほとんどだ。

「そうなの?私、普通に知ってたけどな。この曲大好きなの」

「へぇ、僕もこの曲大好きで、だからピアノ用にアレンジしたんだ」

それを聞いて、海は驚いていた。

「自分でアレンジしちゃったの?ますます結城君って凄いね。じゃぁ、もっかい聞かせてくれない?」

「良いよ、じゃぁ、中に入って聞く?」

窓越しに覗いていた海は、音楽室に入ってくると、僕のすぐ横で僕の手元を見ながらアルビノーニのアダージョを聞いた。そして聞き終わった後ポツリと、

「良いなぁ……」

と言った。

「何?」

僕は何が良いのか分からなくて聞いた。

「小柄なのに結城君の手、大きいなぁと思ったから」

「うん、手は身体に比例すると大きい方かもね。」

僕は、鍵盤の上で自分の手を開いてみせた。そして、右手の親指でドを、小指でそれより1オクターブ上のミを叩いた。

「うわっ、ミまで届いちゃうの?!」

そう言うと、海はいきなり僕の手に自分手を重ねた。そして、

「私なんてオクターブがやっとなんだよ。しかも、曲の終わりには手が攣ってきちゃう」

と悔しそうに言った。僕のほうは不意に重ねられた手にドキドキしていたんだけれど、海のほうは僕なんて全くノーマークって態度だったから、皮肉たっぷりで

「そりゃ僕、男だしね」

と返してやった。それでも海はまだ、

「何か納得いかないなぁ……」

とぶつぶつと言い続けていたけれど。変わった子だな…それが海の第一印象だった。

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