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海の不調

 仕事から帰ると、いつもは独楽鼠のように動く海が、その日はソファーで転寝をしていた。実はその日だけではなく、最近は転寝まではいかないまでも、ぼんやりとしている事が多い。

「海、風邪引くよ」

「あ……うん。おかえりなさい、もうそんな時間?」

僕の呼びかけに、うみはだるそうに眼を開けてそう言った。

「お母ちゃま、お腹空いたよ。ご飯まだ?」

その時、リビングで遊んでいた秀一郎がそう言った。

「あれ、ご飯まだだったの?先に食べてればいいのに」

「だって、お母ちゃま『食べようね。』って言いながら寝ちゃったんだもん」

見ると食卓の上には3人分の夕食が乗っていた。やっぱりおかしい……

「じゃぁ、早く食べよう」

「うん!」


 そして、3人で夕食を囲んだ。

しかし、海は元々食のあるほうじゃなかったけれど、ますます細く……というかほとんど何も手をつけていなかった。

「海、ちゃんと食べてる?」

「う、うん…食べてる」

「ウソばっかり、ちっとも食べてないじゃないか」

僕はほとんど手付かずの彼女の皿を示しながらそう咎めた。

「食欲ないんだもの。後で野菜ジュースでも飲むから……」

僕の言葉に海はおずおずとそう言った。

――野菜ジュース――すんなりとそうした言葉がが出てくるという事は、彼女はそれまででも野菜ジュースで済ませてしまうことが往々にしてあるという事なのだと僕は思った。

「明日、病院に行く」

意を決して僕はそう言った。

「えっ? 龍太郎、どこか調子悪いの?」

僕がそう言うと、海は驚いてそう返した。

「違うよ、君を診てもらう。僕も一緒に行くよ」

「私?私は……病気じゃないわよ」

しかし、自分を診てもらうのだと言われて、海はそう返すと僕から眼を背けた。

「ダメ、最近いつもだるそうだし、ほとんど何も食べられないんでしょ?僕が気付いてないとでも思ってるの?」

「あ、うん……それでも龍太郎が仕事を休んでまで一緒に来てくれるようなことはないから、自分1人で行けるわ」

海は何だか必死にそう答えた。それが、僕にはなおさら重大な病をひた只隠しにしているように思えて、語気を強めて言った。

「そんなこと言って、忙しいとか理由をつけて行かないつもりでしょ。普段ちゃんと仕事してるから、僕は1日くらい急に休んでも平気だから。もう、僕は決めたからね、明日は朝から君と病院に行く!分かった?」

「はい……」

反論したそうな眼をしたけど、有無を言わせないような僕の提案に、海は渋々首を縦に振った。


 翌日、僕たちは秀一郎を送り出すと同時に家をでて、病院に向かった。

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