新しい時代
そして海は夏、男の子を産んだ。名前は秀一郎とつけた。
みんながそのかわいい姿にメロメロになった。
中でも一番はおばあ様。あれほど苦々しく本当に渋々といった感じで僕たちの結婚を承諾したのは誰なのかと、僕が時々彼女がいない場所で毒づくほどおばあさまは曾孫に夢中だ。
海もそんなおばあ様を僕のようには邪険にはせず、頻繁に本家詣でをするし、その際にはかならずと言っていいほど料理好きな海は彼女の好みそうなものを自作して携えていく。
また、海は母様のところにも秀一郎を連れて行く。
母様はあの人が妙子さんを選んで結城の家に帰らなくなってから、趣味に生きる生活をしていた。
でも……心の中ではあの人を求めていた。それに誰も気付かなかった。傍目にはとても楽しそうに生活を送っているように見えたのだから。
そんな母様にあの人は何度か離婚を申し出たらしい。でも、母様は拒んだ。
「君は君の幸せを掴んで欲しい……」
あの人はそう言ったらしいけど、母様にとっては、幸せは“あの人”でしかなかったのかも知れない。
母様は徐々に壊れていった。何度ものリストカット、そして心はあの人と出会う前の少女の頃に……
今は1人、施設に暮らしている。
「お義母様ね、秀一郎を見るとすごく優しいお顔になるのよ。でもね、ちょっぴり辛いの。たぶん、お義母様には秀一郎の本当のことが分かってると思うのよ、だから……」
そんなできた嫁を誰も非難するものなどあろうはずはなく、子供ができないと分かった時に僕がした別れの決心など無駄な取り越し苦労だったのかも知れないと、そんな風にも思ったりもした。
でも、それは少し違うのかもしれない。秀一郎がいてくれたからこそ、秀一郎が健史の子供であったからこそ、僕も海も周囲に優しくなれたのかもしれない。
僕たちの宝物-秀一郎は、健史に似て優しく、明るく、そして賢く育っていった。
だけど結婚して7年……僕たちに予想もしなかった事態が起こった。