準備
月曜日、僕は尚行方の分からない健史の捜索願を友人としてまた会社の同僚として提出した。
大学3年の時に母親を失った健史には表向き身寄りはなかった。しかし、彼の父は生きている。生きてはいるのだが、彼の母は父親に彼が生まれた事すら知らせてはいないらしい。
しかし、存在自体が掻き消えてしまったような彼のことに、一生懸命になれる時間は僕たちにはなかった。
海は少し悪阻もあったが、退職にむけ、仕事をセーブしてもらいながら後輩の女の子に引継ぎを始めた。
「彼女、依存傾向の強い子なのよ。何かいつまでも居て欲しいって顔をされるのよね、毎日」
と、それをまんざら嫌がってもいない様子で話す。海も内心名残惜しいのだろう。
そこに結婚式の準備が入る。大体は石動さんと久米さんというブライダルコーディネーターの女性が段取りを進めてくれてはいるが、海の親戚、会社の関係者、お互いの高校・大学の友人などの招待客のリストアップは僕たちでないとできない。
また、式だけではなく、その後の新居、新居に運ぶ荷物など…準備は挙げればきりがない。それを海の身体の状態が一番いいであろう6ヶ月の半ば過ぎまでに全部やりあげようというのだから。
ただでさえ、結婚というものは煩雑だ。でも、その煩雑さをかっ飛ばす事を軽んじるものがいるのも今回なんとなく解る気がした。軽い気持ちで結び合えば、軽い気持ちで別れるのではないかと考えるのだろう。
しかし、どんなに豪華な、それこそ〇億円の結婚式を挙げた芸能人があっという間にあっさりと別れることだって良くある事だとは思うんだけれど……
それこそ、『自分の結婚式こそ自分のものではない』と、あの人が言う通りなのかもしれない。癪に障るし、あの人の意見になんか同調したつもりなんじゃないけどね。
そんなこんなで、僕たちはこの日、衣装合わせを迎えた。