【1-4】俺より乗り気な姉さん
「え〜〜〜。もうバレちゃったの〜?面白くなぁ〜い」
ソファに寝転びながらアリーユ姉さんは口を尖らせた。
社交界での人気はトップで、聖女だの天使だと言われた美貌の持ち主が、自邸ではこんなぐうたら生活を送っているだなんて、アリーユ様ファンクラブ入会者の貴族たちが知れば失神するだろうな...。
もちろん俺もアリーユ姉さんが綺麗なのは認める。
綺麗な金髪に赤い大きな瞳、スタイルも抜群。礼儀やダンス、仕草も全て綺麗で完璧だ。俺の社交レッスンはアリーユ姉さんが担当しているほどだ。
それほど完璧な淑女だと言うのに.....。
「ちょっとアル。失礼なこと考えてるでしょ?」
「そんなわけないよ姉さん。」
俺は咄嗟に飛び切りの笑顔を見せた。
「社交レッスンのときもずっとその笑顔でいなさいよ!」
「それはちょっと.....」
この笑顔はもって1分。そろそろ表情筋が.....。
「ほんっと貴方って損してるわ!」
姉さんはそう言うと、突然ソファから起き上がり、俺の隣に座った。
「こんなに綺麗な白髪に綺麗な赤い目...。美しいフェイスラインに綺麗な鼻。透き通るような肌.....。背は少し低いけど、でもこんっなにイケメンなのに、笑顔が下手なせいでモテないなんて可哀想だわぁ〜。」
姉さんは憐れむような、嘲笑うような、何とも言えない表情で俺の顔を覗き込んできた。そして鼻をツンとつついてきた。
「別にモテたいとも思わないしな。」
「そうだよね〜。もう既にあんなに可愛い婚約者がいるもんね〜。あー、うらやまし」
姉さんはそう言うと、どかっとソファに腰を下ろした。
「で、婚約者ちゃんとのデートはどうだったの?」
ネラーネ嬢とのデート...。
端的に言えば、最悪だった。
もちろん、九分九厘俺のせいだ。
カフェを出た後、ドレスを見に行ったのだが、会話はほとんど続かず、何も買えず終い。そのままブティックを何店舗か回ったが良い物が見つからず、気づけば夕方になっていた。
そして帰宅。
収穫ゼロなのだ。
「姉さんは近いうちにデザイナーを呼んだりするのか?」
「明日5人呼ぶわよ〜」
5人.........?
さすが国一の富豪の娘。一度に5人もデザイナーを呼ぶのか。
「俺の婚約者のドレスを一緒に見たいんだけど...」
「あ〜!そういうことね!!お姉ちゃんに任せなさい!!」
姉さんは自慢げに胸を叩いた。
こういう時は、あまりいい事が起きないのだが...。
◇◇◇
「こちらが王都で有名なデザイナーさんで〜こちらが〜〜」
アリーユ姉さんがデザイナーを1人ずつ紹介してくれた。
が、デザイナーは皆萎縮しているようで、こちらの表情をかなり伺っている。
それもそうだろう。
今回同席しているのは、俺だけでなく.....。
「なんで僕がいるのか、知りたい?」
突然、俺の顔を覗き込み、軽くウインクしてきたこの男は、アリーユ姉さんの婚約者の.....。
こいつは暇なのか?一応王子なのだろう?暇してていいのか?
そんな俺の悩みなんてお構い無しにラーセルはソファに座った。
「噂によると、アルがドレスを見繕うとか.....。面白そうすぎて来ちゃった☆」
本当に何なんだこいつは...。
「ラーセル殿下。煩いです。」
振り返ると、アレイル姉さんがラーセルを物凄い目で見ていた。今日はなんと、アレイル姉さんも同席するのだ。
今我が家であるセシルディア公爵家では、公爵である父が病で倒れ、別荘で母と共に療養中なのだ。そして、アレイル姉さんが公爵代理という形で公務を行っている。
つまり今日、この5人のデザイナーは、国の第二王子と、国一の富豪である公爵の代理、そして国の聖女だの何だの言われている公爵令嬢、その3人を相手にしなければいけない訳だ。さすがに、何が何でも可哀想すぎる。
「デザイナーの皆様方、本日は足をお運び頂きありがとうございます。」
アリーユ姉さんは外交向きの顔で対応している。
とりあえず、今日の俺の立ち回りは、姉さんたちのドレスが見繕い終わるまで端で観察し、それを参考に、最後に1着俺が見繕う。これだ。
――の予定だったのだが...
「アルハイル、これはどう?ネネちゃんに似合うと思うのだけど。」
「いいえ、お姉様!私はこちらの方がいいと思いますわ!」
「ちょっと待ってよお嬢さん方。僕は断然、こっちだね。」
デザイナー達がカタログを出すやいなや、この3人は飛びつくようにカタログを広げ、俺の婚約者、ネラーネのドレスを選び始めた。
「私たち3人で、1つずつ候補を作りましょう。その中から、アルハイルが選ぶといいわ。」
珍しくノリノリなアレイル姉さんはカタログを両手に宣言した。
なんだろう。今日はやたらと口数が多い。
今まではこんなに沢山話したことは無いし、まずそもそもドレス選びなんかに来ることもなかった。
急に気が変わったとかなのか...?
どうして姉さんがこんなにも変わったのか、真剣に調べなくては.....。
その原因が男なら、尚更。




