【1-3】最悪の再会
俺は侍女のネネを連れ、中央都市へ来た。
夜会への招待状を送った件なのだが、なんと、伯爵家から、こちらに確認せずとも好きな時に連れて行ってくれれば良いと言われたのだ。
ネラーネは伯爵家ではなく、別荘かどこか、中央都市の近くで暮らしているそうだ。
とにかく、夜会へ参加して姉さんを観察する作戦は上手くいきそうだ。婚約者がいる身で、パートナーなしでの参加は流石にまずいからな...。
だが、夜会に行くということは、婚約者へのドレスと贈り物を買わなければならない。
うちのセシルディア公爵家は国一番の金持ちだから金の問題はゼロだ。アレイル姉さんが、もうそろそろで新しい事業を興そうと思うと言っていたし、まだまだ伸びるだろう。
そう、問題は金ではないのだ。
何を買えばいいのか分からない。俺の知識不足である。
経済学や法律学は既にほとんどマスターした俺だが、女心というやつは全くもって分からない。
本当は姉さんに着いてきて欲しかったが、二人共に適当な言い訳を言われ、何故か侍女のネネを連れてくることになった。
「いらっしゃいませ。アルハイル様。」
まず初めに、俺は贈り物を見に雑貨屋に来た。
姉さんたちの馴染みの店だから、もちろん俺も特別待遇だ。
とはいえ、女性が何を貰うと嬉しいのか全く分からない...。
一緒に来たネネはほとんど俯いており、発言しそうにもない。普段は少しはコミュニケーションを取ってくれるんだけどな...。
「どれがいいと思う?」
「あ、えっと...香水とか頂けたら嬉しいと思います...」
香水...か。
良いとは思うのだが...好きな香りが分からないから選ぶのが難しいな。
「他には?」
――そんな話をしながら1時間近く店を見て回ったが、結局ピンとくるものがひとつもなかった。
一応ここら辺で1番高級な店だったのだが。
「甘いもの、食べに行こうか。」
俺は考えすぎたのか、糖分が足りない気がしてきたため、近くにあるお気に入りのカフェに来た。
川沿いにあるカフェで、テラス席からの景色はとても綺麗だ。
今日は川を挟んだ向かい側の店が大行列だが...。
新しい店でも出来たのか?
「好きな物頼んでいいよ。俺もあんなに悩むのは久しぶりだったから、少し疲れたな。いつの間に優柔不断になったんだ...?」
「悩まれるのは悪いことではないと思います。それほどお相手を想っていらっしゃるのでは?」
そうなのだろうか...。1度しか会ったこともなく、顔も声も何もかも覚えていない人のことを想っている?そんなことあるのか?
「あら、アルハイルじゃない。」
思考を遮るように、背後から聞き馴染みのある声が聞こえた。
「アレイル姉さん?!」
「婚約者さんとデート中?邪魔して悪かったわね。あ、でも丁度よかったわ。向かいのお店、私の店なの。ネネちゃん借りていくわね。1時間くらいで戻るからー!」
姉さんはそう言うとネネを連れ颯爽と店を去っていった。
向かいの店は姉さんがやってるのか。
カフェのオーナーに聞いてみると、ネイルサロンというものだそうだ。
ネイルは女性の爪を綺麗にするものらしい。
それにしてもさっきの姉さん...。物凄く笑顔で楽しそうだった!
事業をしているとき、あんなに生き生きしてるだなんて...。
俺も姉さんと、事業の共同開発をしたらあんな風に話してくれるのか?
...........あれ?
そういえば、姉さん最初になんて言ってた?
"婚約者さんとデート中?"って言ってたよな?俺の聞き間違いじゃなければ。
ネネ...。ネラーネ.....。
.......え?嘘だよな?
◇◇◇
「アルハイル〜。戻ったわよ!」
1時間もしないうちに、姉さんは戻ってきた。
「ネネちゃん可愛いから気合い入っちゃった!」
姉さんはものすごい笑顔で彼女を俺の向かい側に座らせた。
彼女は本当にネラーネなのか?だとしたら、何故うちの侍女を...?
考えれば考えるほど分からない。
「なんかね、アリーユが花嫁修業だとか言ってこの子をうちの侍女にしたらしいのよ。伯爵も本人も同意済みだって聞いてたから見逃してたんだけど...まさかアルハイル、貴方知らなかったの?」
姉さんは俺の横顔をじっと睨んできた。
知ってたら今日の買い物に連れてくるわけないだろ!
婚約者へのサプライズプレゼントを用意しようと思っていたのに、それを渡す本人が着いてきてたらダメだろ!俺のサプライズ計画が.....。
「まぁなんでもいいわ。可愛くしといたから、ちゃんと褒めてあげてね。私は忙しいからお暇するわ。」
そう言うと姉さんは去っていた。
忙しいくせに彼女を1時間もどこに連れて行ってたんだよ...。
ネネの手元を見ると、爪がキラキラと光っていて、可愛らしい装飾がたくさん散りばめられていた。これがネイルか...。女性人気は高そうだな。
しかし、姉さんが居なくなり、空気は最悪になった。
お互い何も言い出せず、俯いたままだ。
とはいえ、2人とも被害者であり、何も悪くない。
そう、悪くない。だからこそ困るんだ。
これから、この状況をどう乗り切ればいいんだ...?
困った俺は、とりあえずメニューを開いた。
「好きな物、頼んでいいよ。」
「あ、えっと、はい...。」
彼女はまた俯いた。
...ミスったな。




