【1-2】最後に会ったのは1年前
「姉さんも一緒にお茶どう?」
俺が尋ねると、姉さんはいつもと変わらない表情で俺を見つめた。そんなの御免だわとでも言いたげな顔である。
...まぁ断られるよな。
「忙しいから遠慮しておくわ。アリーユ、ネネ。話があるからこちらへ来なさい。あとラーセル殿下。お声が大きいですわ。では、失礼致します。」
姉さんはそう言うと、アリーユ姉さんと侍女さんを連れてすぐに部屋を出て行った。
「ほんっとにお前の姉ちゃん冷たいよなぁ。」
「それが良いじゃん。」
俺が即答すると、ラーセルはドン引きと言わんばかりの顔で俺を見た。
「アル、お前婚約者と上手くやってけてるのか?」
「俺の婚約者とはもう1年近く会ってない。」
俺の婚約者.....。気がついたら勝手に両親が俺の婚約を決めていたのだ。ちょうど3年前くらいだっただろうか。北部の辺境を治めるローウェルド伯爵家の次女だった気がする。婚約者の名前は、確かネラーネ。俺の2歳下の幼い女の子だ。政略婚約だったとしても、こんな幼いうちから婚約なんて決められて、少し可哀想だ。
ネラーネと最後に会ったのは、1年前の初顔合わせの時だ。
つまり、1回しか会ったことがない。申し訳ないが顔もほとんど覚えていない。
我が家であるセシルディア公爵家は中央都市にあるが、ローウェルド伯爵家は北の北。馬車で7日くらいかかる場所なのだ。そう簡単に、会おうと思って会える距離ではない。
「ふーん。アリーユちゃんはあんなに可愛いのに、弟の君は本当に可愛くないね。」
ラーセルはつまんないとでも言いたげな顔で焼き菓子をつまんだ。
それ、アリーユ姉さんのお気に入りの焼き菓子なんだが...。
勝手に食べたことがバレて怒られても知らないぞ。
「それよりも、お前はアレイル姉さんについて考えなきゃいけないもんな。」
「そうだな。あとしれっと姉さんと呼ぶな。」
「とりあえず、2週間後の夜会にでもついて行けばいいんじゃないか?」
「夜会?」
姉さんが夜会に行くのか?聞いてないぞ。
「僕はアリーユちゃんと行くから、お前は可愛い婚約者ちゃんと行けばいい。明日一緒に服でも買いに行くんだな。」
「だから、俺は婚約者とは...」
こいつはなんで俺の婚約者の話ばっかりするんだ。
2週間後の夜会に彼女が間に合うわけないだろ...。
女性は準備に時間がかかるんだぞ。
「ほんっとにお前は女心ってのが分かってないなぁ。婚約破棄されても知らないからな?」
「なんでお前にそんな心配されなきゃいけないんだ。」
「お前じゃなくて、殿下or義兄様な。」
「遠慮しておく。」
俺とラーセルはいつもこんな感じなのだ。
◇◇◇
「アルハイル様。紅茶とお菓子をお持ちしました。」
「ん、ありがとう。」
最近、アリーユ姉さんに付いていた侍女が何故か俺付きに変更されたそうだ。彼女はなんというか、ぎこちない感じなのだが、大丈夫なのだろうか。
「そういえば、侍女さん。女の人って何を貰ったら嬉しいと思う?」
「...えっ、気になる令嬢がいらっしゃるのですか...?」
間に合うとは思えないが、一応ローウェルド伯爵家に夜会に参加しないかという趣旨の手紙を書いた。
万が一許可が出れば、婚約者のドレスや、贈り物などを用意しなければいけない...。
ほんの少し面倒くさいが、これも姉さんについて調べるための必要経費なのだ。
「好きな人...といえばそうなのかもしれない。とにかく、そういう関係の女性に贈る物を...。」
そう言いかけ、顔をあげると、侍女が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
何故?!?!
「ネネだったら、お花とか香水とか、お菓子、ケーキとか...。何でも好きな方からの贈り物なら嬉しいです...。」
「あ、うん...。ありがとう。」
今にも泣き出しそうだが?!
「あ、君にお願いしていた、アレイル姉さんの監視だけど...。」
「その件でしたら!昨日はお庭で猫と戯れておられたり、ベンチに座ってお花を眺めておられたりしました。あと、私がお手紙を渡しに行ったらとても笑顔で、ありがとうと言ってくださいました。」
「...俺も手紙を渡しに行ったら微笑んでもらえるのか?」
「...さぁ。」
しまった。つい口が勝手に.....。
とはいえ、姉さんが屋敷の外に出るのは珍しい。
そのうえ猫や花と戯れていただと?
姉さんは人間嫌いだが、それ以上に動物が嫌いだったのだ。
「あと、もうひとつご連絡が...。」
「連絡?」
「殿下の婚約者様が、来年から、殿下と一緒に王立学園へご入学されるそうです。」
婚約者が入学...?
ネラーネ嬢は俺の2歳年下じゃなかったか?
王立学園は年齢関係なく入学出来るが、難しい入学試験に高額の入学金が必要だ。
試験に関しては、俺も少し苦戦したレベルだ。
それを全て突破したのだろうか。
俺の婚約者って何者なんだ...?




