【1-1】姉さんが変
最近、姉がおかしい。
◇◇◇
俺はアルハイル。
四大公爵家のうちでいちばん裕福なセシルディア公爵家の長男だ。
とはいえ、姉が2人いるため、末っ子なのだが...。
長女のアレイル姉さん。頭が良くて、顔はThe美人という感じだろうか。真面目で優秀で、商業なども得意らしい。将来も期待されているが、性格に難あり。あと目つきが怖い。
次女のアリーユ姉さん。アレイル姉様とは真反対で、勉強などはからっきしだが、性格が聖女と言われている(あくまでも社交界での話だ)。優しく、可愛らしい印象の人だが、頭脳に難あり。あと無自覚男たらし。
俺は15歳で成長期はこれからだ。だから、まだまだ伸びしろだらけって訳だ。2人の姉のいい所だけを持ち合わせてやろうと思っている。いや、2人の姉の足りないところをカバーしなければいけないのか?
なんて考えながら、俺は短くため息をつき、来年入学予定である王立学園の予習用の本を閉じた。
王立学園。貴族も平民も関係なく、成績だけで扱いが決まる、少し変わった学校だ。俺も最近は毎日しっかり勉強に取り組んでいる。
勉強もひと段落着いたところだから、甘いものでも食べようかなと自室を出ようとした時だった。
廊下からバタバタと走る音が聞こえ、俺の部屋の前で止まった。
嫌な予感がし、ドアを開けようとドアノブに伸ばした手を引っ込め、3歩下がった。
と、同時に勢いよくドアが開き、俺の前髪を掠めた。
「姉さん、ノック。」
俺は笑顔で返したが、ドアを勢いよく開けた張本人はそんなことお構い無しで声を荒らげた。
「お姉様が変なの!!!!」
いつも通り、慌ただしく長い金髪を揺らし部屋に飛び込んできたのは2人目の姉、アリーユだ。
落ち着きが無さすぎて困る。
何とか宥めて、俺は姉さんをソファに座らせることに成功した。
その後、俺は紅茶でも淹れようかと思いソファから離れようとしたが、急に姉さんに引っ張られ、それは叶わなかった。
「ねぇアル、お願い話を聞いて。本当に変なの!」
「わかったわかった。とりあえず紅茶を...」
「そんなのいいから!ネネ、紅茶!セイロンの気分だわ!」
アリーユ姉さんは、付き侍女にそう命じながら俺を座らせた。姉さんにこんなに振り回される侍女...大変だな。
「で、何が変なんだ?」
「あのね、さっき、お姉様がね、笑ったの。」
「姉さんが.......笑った...?」
俺は電撃が落ちるかのような衝撃を受けた。
最初に言ったように、長女、アレイル姉さんには唯一であり最大の欠点がある。
そう、表情がないのだ。常に無表情。
表情が少し変わったとしても、機嫌が悪い時に眉間のシワが2本くらい増える程度だ。
俺は姉さんが笑ったことろを見たことがない。
幼い頃はアレイル姉さんを笑わせようと、アリーユ姉さんと一緒に企み事をたくさんしたほどである。
その姉さんが、笑った...だと?
「なんで笑ったんだ?」
「突然よ!!私がお花を摘んできて、それをお姉様に自慢しに行ったら、優しく微笑んでくれたのよ!」
なんだって.....?!
「俺も花を自慢しに行けば微笑んで貰えるのか...?」
「なんか変な呟きが聞こえた気がするけど、やめた方がいいわよ。」
姉さんは急に真顔になり僕を見つめた。
いつも感情が顔に出ているが、俺の前だけでは、なんというか、社交界で言われているようなものと真反対の表情をするんだよな。
「姉さん.....。王国の聖女だと言われた人がそんな酷い言い方に酷い顔、しない方がいいんじゃない?」
「知らないわよ!私をこんな顔にさせるアルが悪いんじゃない!!とにかく、お姉様がなんで笑ったのか調べないと...」
「男が出来たとか?」
おとこ...?
...てか、ん?今不謹慎な事を言ったのは誰だ?
声がした方へ振り向くと、赤髪のくせっ毛の男がにやにやしながら俺を見下ろしていた。
こいつは.....。
「ラーセル殿下!!お久しぶりですわ!」
こいつ、ラーセルはこの国の王子で、アリーユ姉さんの婚約者なのだ。
◇◇◇
「やっぱり男だね。女の子が変化する理由とか、それしかない。」
「アレイル姉さんに対して失礼なことを言うな。邸から追い出すぞ。」
「僕が失礼?追い出す?僕、王子だけど?王族不敬罪で投獄しちゃうぞ?」
...何も言えなくなってしまった。
俺の家へ好き勝手出入りしているが、そういえばこいつは王子だった。
それにしてもアレイル姉さんに男、か...。
うん、失礼だな、こいつ。
「アリーユ姉さん、男見る目ないんじゃない?」
俺はそう言いながらラーセルを睨んだ。
姉さんはというと、話に着いてこれていないのか、目をぱりくりさせていた。
「アル、急にどうかしたの?」
「この王子のどこが良いんだ?」
俺は反射で姉さんにそう言ってしまった。
アリーユ姉さんはラーセルのことが大好きで頑張って婚約に漕ぎ着けたとか言っていたが、正直、頑張って婚約するほど俺はこいつに魅力を感じない。
顔は良いが、どこかヘラヘラしていて、俺に対しては礼儀も何も無い。王族としてどうなんだ?
「そこの侍女さん。この横暴末っ子のどこがいいんだ?」
ラーセルは俺の話を無視してアリーユ姉さんの侍女に話しかけていた。横暴末っ子?俺のことか?失礼だな。
それにどうして関係ない侍女に聞くんだよ...。
「ね、ネネ...ですか?」
ネネという名なのだろうか。ピンク髪のおさげの侍女はそう言いながら俯きもじもじし始めた。そりゃあ、一国の王子様、しかも結構イケメンなのに話しかけられたらそうなるよな...。悔しい。
まぁ俺ももっと背が伸びてかっこよくなる予定だから大丈夫だ。
「―――楽しそうね。お茶会でもしているのかしら。」
!!!!!!
突然ドアが開く音がしたと思うと、聞きなれた声が降ってきた。
「アレイル姉さん。」




