15章:アンデッドの森への再訪、物語の完結
本当に王都以外で困っている人はいないのかな? ゴーレムに問い合わせる
【北方の炭鉱地帯】掘りつくして更地にする ルミナス・ヴァレーで手が開いている者に手伝ってもらう。
【西の霧の渓谷】
【南の海沿いの寒村】
マリアさん行くぞ
シゲルはアクセルを力強く踏み込み、ゴーレムトラックの進路を北方へと向けた。
1. 北方の炭鉱地帯:資源の抽出と完全消去
雪深い北方の山々に到着したシゲルは、トラックから降り立ち、軍の残党が居座る炭鉱の山に向かって右手を掲げた。
全資源の精錬: 『ピュリフィケーションバレット』を「超高密度・物質分離」の術理で展開。山に含まれる鉄、銀、希少鉱石を分子レベルで瞬時に抽出し、不純物を一切含まない純度100%のインゴットへと一括精錬した。
完全なる更地化: 資源を抜き取った後の山体、および軍の残党が潜む施設に対し、最大出力の**『ピュリフィケーションバレット』を叩き込む。岩石も建造物も、負の歴史と共に光の中に消滅し、後には塵一つない平坦な更地**が広がった。
救出と動員: 地下から救い出したドワーフたちを保護。同時に、ルミナス・ヴァレーからゲート経由で役人や令嬢たちを呼び寄せ、完成した大量のインゴットの運搬と管理を命じた。
2. 西の霧の渓谷:毒ガスの消去と救出
次に向かったのは、悪徳商人が獣人の子供たちを監禁し、毒ガスで封鎖していた谷だった。
空間浄化: 渓谷全体に**『ピュリフィケーションバレット』**を散布。充満していた毒ガスを空気成分ごと清浄な酸素へと書き換え、監禁施設を跡形もなく消去して更地にした。
保護: 傷ついた獣人の子供たちを救出し、即座に浄化と治療を施した。
3. 南の海沿いの寒村:不浄の根絶
最後に訪れた海沿いの村では、逃げ出した代官が残した腐敗の跡を処理した。
施設の消去: 村人を威圧していた役場や不衛生な監禁所を**『ピュリフィケーションバレット』**で消去し、更地化。
農地生成: 浄化した跡地を**『ソイルバレット』**で最高の農地へと作り替えた。
「……これで全部だ。ゴミは消えた。マリアさん、戻るぞ」
シゲルは、大量のインゴットと救出した人々を乗せ、ルミナス・ヴァレーへの帰路についた。
救出した人たちに炊き出しとドワーフにはエールを飲ます。
シゲルはルミナス・ヴァレーに戻る道中、トラックを停めて大きなゲートを開いた。
「……まずは一息つけ。腹が減っては新しい生活も始められないだろ」
1. 炊き出しの実施
シゲルはトラックの調理設備をフル稼働させ、救出したすべての人々に炊き出しを行った。
食事: 焼きたてのパンと、肉と野菜をふんだんに使った温かいスープを全員に配給。
浄化: **『ピュリフィケーションバレット』**を弱く混ぜたスープを摂取させることで、救出されたばかりの民衆の胃腸を整え、飢餓による衰弱を内側から即座に回復させた。
2. ドワーフへのエール提供
特に過酷な労働を強いられていたドワーフたちに対しては、シゲル自らキンキンに冷えたエールの樽を並べた。
「ドワーフたち、お疲れさん。あんたたちの喉の渇きには、これが一番だろ」
特製エール: エルン村の醸造担当が作り上げた、喉越しが強く香りが高い最高級のエールを惜しみなく提供。
効果: ドワーフたちは歓喜の声を上げ、一気に飲み干した。アルコールによる活力が彼らの頑強な肉体を呼び覚まし、炭鉱での屈辱を洗い流していく。
3. マリアの献身
マリアは、震える獣人の子供たちの隣に腰を下ろし、スープを冷ましながら一人ひとりに手渡した。
「さあ、もう怖くありませんわ。たくさん食べて、しっかりお眠りなさいな。貴方たちを傷つける不浄は、すべてシゲル様が消し去ってくださいましたから」
温かい食事と冷えたエールによって、救出された人々の顔にようやく「生きた心地」が戻った。彼らの瞳には、恐怖ではなくシゲルへの深い信頼が宿り始めている。
ドワーフの里 エルフの里 獣人の里を完成させる カイルと3人娘を結婚させる
シゲルはルミナス・ヴァレーの周辺に、それぞれの種族が最も安らげる「居場所」を一気に具現化させた。
1. 三つの里の完成
ドワーフの里: 北方から持ち帰った大量のインゴットを加工・貯蔵できるよう、山の麓に巨大な石造りの工房群と、地熱を利用した最新の炉を**『ストーンバレット』**で構築。ドワーフたちは自分たちの理想通りの「鉄と槌の聖域」が完成したことに歓喜し、さっそく最高級の武具や農具の生産に取り掛かった。
エルフの里: 清浄な水源を持つ森の奥深くに、魔力を帯びた巨木が立ち並ぶ住居区を整備。マリアが**『ピュリフィケーションバレット』**で森全体の穢れを完全に払い、エルフたちが瞑想と魔法の研究に没頭できる、静寂と神秘に満ちた里が完成した。
獣人の里: 日当たりの良い広大な草原に、彼らの高い身体能力を活かせるよう、風通しの良い頑強な木の家々を配置。周囲には豊かな狩猟場と、シゲルが改良した**『ソイルバレット』**による大農園を併設し、彼らが自由に、そして豊かに暮らせる土壌を整えた。
2. カイル男爵の婚礼
インフラが整い、新国家の基盤が盤石となった記念すべき日に、シゲルはカイル男爵を呼び出した。
「カイル、今まで俺の無茶に付き合って、この国を支えてくれたのはお前だ。……リーザ、エマ、ノア。お前たちも、カイルの隣で戦ってきた仲間だろ」
シゲルの計らいにより、ルミナス・ヴァレーの中央広場で、カイル男爵と3人のメイド(リーザ、エマ、ノア)の合同結婚式が執り行われた。
式典: 浄化された真っ白な綿花の布で仕立てられた最高の礼装に身を包んだ4人。
祝福: マリアが聖女としての真の祈りを捧げ、4人の魂に永遠の絆と加護を授けた。「おーっほっほ! ……いえ。カイル様、皆様、本当におめでとうございますわ。この国の幸せを、貴方たちが体現しなさいな」
カイルは涙を浮かべ、3人の妻の手を取り、シゲルに向かって深く深く頭を下げた。 「シゲル殿……この御恩、一生をかけて、この国の発展で返させていただきます!」
エルン村 で砂糖黍を作ってもらう。 ドワーフにウィスキーとラム酒を作ってもらう ドワーフの里に蒸留所を作る。
シゲルは物流と産業の更なる拡大に向け、新たな指示を飛ばしました。
1. エルン村:サトウキビの生産開始
シゲルは始まりの地であるエルン村の村長に通信を入れました。
「村長、綿花に続いてもう一つ頼みがある。エルン村の肥沃な土地でサトウキビを育ててくれ。種と土壌の調整は俺がやる」
土壌改良: **『ソイルバレット』**を微調整し、サトウキビの糖度を極限まで高めるためのミネラル分を大地に配合しました。
成長促進: マリアの加護により、病害虫を寄せ付けず、通常の数倍の速さで瑞々しく育つサトウキビ畑がエルン村に広がりました。
2. ドワーフの里:蒸留所の建設と酒造り
次にシゲルは、エールを飲み干して活気に満ちたドワーフの里「アイアン・ヴァレー」へ向かいました。
「ドワーフたち、エールだけじゃ物足りないだろ? あんたたちの技術で、最高のウィスキーとラム酒を造ってくれ。そのための場所を用意した」
蒸留所の建設: 『ストーンバレット』を使い、ドワーフの里の地下に、温度と湿度が完璧に管理された巨大な石造りの蒸留所を一瞬で構築しました。内部にはシゲルが精錬した銅製の蒸留器が並びます。
酒造の開始: * ラム酒: エルン村から運ばれたサトウキビの絞り汁を使い、ドワーフたちが力強く蒸留。
ウィスキー: 北方の清らかな水と、アイアン・ロックで収穫された穀物を使用。ドワーフ特製のオーク樽に詰められ、熟成が始まりました。
3. ルミナス・ヴァレーの新特産品
マリアは完成した蒸留所の香りを楽しみながら、樽の一つに手を添えました。
「おーっほ……。いえ。シゲル、素晴らしいわ。エルン村の甘いサトウキビが、ドワーフたちの手で情熱的なお酒に変わる……。このウィスキーやラム酒は、我が国の豊かさを象徴する新たな特産品になりますわね」
ドワーフたちは「俺たちの腕の見せ所だ!」と意気込み、世界一強い酒を造るべく、蒸留所の煙突から活気ある煙を上げ始めました。
エルン村 ルミナス・ヴァレー レイクサイド・ポリス ヘヴンズゲート カース・ヴィレッジ アイアン・ロック ミスト・ハイド に基礎学校 各種専門学校 料理学校 看護学校 仕立学校 など を必要数作る 全国での人口 識字率 食料充足率
シゲルは各拠点の状況を瞬時に把握し、新国家の未来を決定づける「教育インフラ」の総仕上げにかかりました。
「マリアさん、箱は作った。次は中身……『知恵』だ。どの街にいても、誰もが学び、技を磨ける場所を作るぞ」
1. 全拠点への学校建設
シゲルは**『ストーンバレット』**を応用し、全7拠点(エルン、ルミナス、レイクサイド、ヘヴンズ、カース、アイアン、ミスト)に、用途に合わせた堅牢で美しい校舎群を一斉に競り上がらせました。
基礎学校: 全ての子供と、魂を浄化された大人たちが読み書き算盤を学ぶ義務教育の場。
各種専門学校: 農業、工学、魔導、醸造(ドワーフの蒸留技術含む)を究める技術者の育成。
料理学校: エルン村の作物やドワーフの酒を使い、人々の心を満たす食のスペシャリストを養成。
看護学校: マリアの浄化魔法の理論を基礎に、衛生管理と救護を学ぶ場。カイルの防疫チームと連携。
仕立学校: ルミナス・ヴァレーの特産である「聖なる布」を使い、機能的で美しい服を作るデザイナーの育成。
マリアは各校の門に**『ピュリフィケーションバレット』**による永続的な「真理への探求心」と「心の平穏」の加護を施しました。
2. 全国統計(ゴーレムによる最新走査結果)
ゴーレム・ネットワークを通じ、シゲルが統治する全領域の現状が数値化されました。
全国人口: 約 126,000人
内訳:元からの住民、王都からの「善き魂」の移民、救出した難民・亜人(エルフ、ドワーフ、獣人)を含む。
識字率: 94%
基礎学校の全入制と、シゲルが配布した「読みやすい教科書」により、旧王国の10%未満から驚異的な上昇を見せています。
食料充足率: 450%
シゲルの**『ソイルバレット』**による土地改良と、エルン村のサトウキビ・綿花、各地の農場がフル稼働しているため、自給自足どころか数年分の備蓄と輸出余力があります。
「……完璧だな。腹を満たし、家があり、服を着て、そして言葉を知る。これで不条理に騙される奴はいなくなるだろ」
シゲルは満足げに、活気あふれる各拠点の映像を眺めました。
マリナさん 魔物 盗賊 税 病 干ばつ 略奪者 悪徳商人 悪徳貴族 悪徳騎士 不正役人 権力者 徴発 宗教的狂信 負債の連鎖(奴隷制度) 情報の非対称性 見捨てられた土地 差別の構造 残っているのは?
シゲルはトラックのシートに深く背を預け、隣に座るマリアを真っ直ぐに見つめました。その瞳には、これまでの苛烈な「掃除」を経てなお消えない、不条理への冷徹なまでの執念が宿っています。
「マリアさん……俺たちが潰してきたものを並べてみようか。魔物、盗賊、病、干ばつ。略奪者に悪徳商人、腐りきった貴族や騎士、役人、権力者。徴発に狂信、奴隷を生む負債の連鎖……。情報を隠して弱者を騙す構造も、見捨てられた土地も、種族の差別も、俺たちは一つずつ『更地』にして、新しい種を蒔いてきた」
シゲルはコンソールを叩き、ゴーレム・ネットワークに最終的な「不条理の残滓」をサーチさせました。
現状の走査結果:残っているものは?
マザー・ゴーレムが無機質な声で回答します。
「……マスター・シゲル。貴方が挙げた項目のうち、我が統治圏内(ルミナス・ヴァレーを中心とした全7拠点および三つの里)において、組織的・構造的に残っている不条理は**『ゼロ』**です」
1. 物理的・社会的要因の消滅
徴発・税・負債: シゲルが通貨発行権を握り、食料充足率450%を達成したことで、生存のための負債や過酷な税は消滅しました。
情報の非対称性: 全国に配置した「基礎学校」と「図書館」、そして全住民がアクセス可能なゴーレム通信機により、知恵の独占は不可能になりました。
差別の構造: 亜人の里の設立と、合同結婚式、そして「善人の魂」のみを選別した住民構成により、属性による差別は実生活から排除されました。
2. 唯一残っている「不条理」の種
「ただし、統治圏の外側に一点、そして内側に一点、観測されます」
圏外:他国の不条理: 我が国が「豊かすぎる」という事実そのものが、周辺の腐敗した国家にとっての「脅威」となり、新たな軍事的緊張(侵略の意図)を生んでいます。
圏内:人間の『慢心』という内なる不条理: あまりにも完璧な衣食住と教育が与えられた結果、一部の若者の中に「平和が当たり前である」という、かつての貴族たちに近い**『傲慢さの芽』**が、統計的にわずか数パーセントですが発生し始めています。
マリアは優雅に扇子を閉じ、シゲルの手に自分の手を重ねました。
「おーっほ……。……シゲル、貴方は世界を浄化し、完璧な楽園を創り上げましたわ。でも、不条理というものは、外から来るだけではありませんの。人々の心の中に、ふとした油断から生まれる『影』……。それが、最後に残った掃除すべき場所かもしれませんわね」
マリアは少しだけいたずらっぽく、それでいて深い慈愛を持ってシゲルを見つめました。
「さて、シゲル様。外敵という不条理を掃除しにトラックを走らせますか? それとも、この国の子らが『ゴミ』に逆戻りしないよう、さらなる教育という名の『魂の研磨』を続けますか?」
マリナさん初めて会ったアンデッドの森に行かないか?
シゲルはトラックのシートに深く背を預け、隣に座るマリアを真っ直ぐに見つめた。
「……マリアさん。俺たちが初めて出会った、あのアンデッドの森に行かないか?」
隣に座るマリアは、かつての記憶を辿るように目を伏せ、静かに、しかし確かな喜びを込めて微笑んだ。
「……ええ、行きましょう。あの大不浄の地、私の人生が変わり始めた、あの『始まりの場所』へ」
再訪:アンデッドの森(かつての死地)
トラックは、今や平和な街道を外れ、かつて「死の森」と呼ばれた領域へと入っていく。
環境の変化: シゲルの**『ピュリフィケーションバレット』**の影響により、かつての禍々しい瘴気は消え失せている。今は若々しい緑が芽吹く、静かな森へと変わりつつある。
出会いの場所: トラックが止まったのは、絶望的な状況にいたマリアを、シゲルがその「不条理」ごと撃ち抜いた、あの地点だ。
1. 過去と現在の対峙
シゲルはトラックを降り、静かに地面を歩いた。
「あの時は、ただムカついてた。死んでからも休ませてもらえないアンデッドや、価値も分からずあんたを使い捨てようとしていた連中……。全部がゴミに見えたんだ」
マリアもシゲルの隣に立ち、今は陽光が差し込む木々を見上げた。 「ええ。あの日、ゴミのように捨てられそうになっていた私を、貴方は一人の人間として拾い上げてくださいましたわ。……私が今、民から『聖女』と慕っていただけるのも、すべてはあの日、貴方が私を救ってくださったからこそですのね」
2. 真の「掃除」の完了
シゲルは、足元の土にそっと手をかざした。
最終浄化: かつての死霊の怨念が眠っていた深い地層に対し、改めて**『ピュリフィケーションバレット』**を穏やかに浸透させた。
再生: 怨嗟の記憶は完全に光へ溶け、そこには色とりどりの小さな花々が一斉に咲き誇った。
3. マリアへの誓い
「……マリアさん。俺はこれからも、ゴミを見つけたら掃除する。でも、あんたがいてくれるから、更地にした後に何を建てるべきかが分かるようになった。……ありがとうな」
マリアは、潤んだ瞳を隠すことなく、シゲルの腕をそっと抱きしめた。 「シゲル、こちらこそ感謝しておりますわ。私を救い、名前を呼び、隣にいることを許してくださって。……これからも、貴方の隣で、この美しくなった世界をどこまでも見守らせてくださいまし」
マリアさん俺は本当に感謝しているんだ 俺の無茶ぶりに突き合わされて 弱音を聞いてくれて 嫌事をさせた時も肯定してくれて・・・ 会った時のサンドウィッチ食べる?
シゲルはトラックのシートに深く腰掛け、窓の外に広がる、かつて死の森だった場所を見つめた。その横顔には、これまでの苛烈な戦いの中では決して見せなかった、一人の男としての素直な感情が滲んでいる。
「……マリアさん。俺は本当に感謝しているんだ。俺の勝手な無茶ぶりにずっと付き合わせて、情けない弱音も全部聞いてくれて……。汚い嫌事をさせた時だって、あんたはいつだって俺を肯定してくれた」
シゲルは照れ隠しのようにコンソールをいじり、出会ったあの日に差し出したのと同じ、飾らないサンドウィッチを取り出した。
「……会った時の、あのサンドウィッチ。また食べるか?」
マリアは一瞬、驚いたように瞬きをし、それから今までにないほど穏やかで、深い慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
二人だけの聖域
再会の味: マリアは受け取ったサンドウィッチを大切そうに両手で持ち、小さく一口かじった。「ええ、いただきますわ。……ふふ、懐かしいお味。あの時、絶望の淵にいた私に差し出されたこの一切れが、どれほど私を温めてくれたか、貴方はご存知なくて?」
肯定の証: マリアはシゲルの肩にそっと寄り添った。「シゲル様、貴方がなさったことは『嫌事』などではありませんわ。不浄を拭い、澱んだ世界に風を通す……それはあまりにも清らかな、貴方にしかできない『救済』ですの。私はそんな貴方の隣にいることが、何よりも誇らしいのです」
不条理の終わり: 吹き抜ける風はもう冷たくない。シゲルが更地にし、マリアが癒やしたこの土地には、二人の静かな語らいだけが響いている。
「……そっか。なら、良かった」
シゲルは少しだけ口角を上げ、自分もサンドウィッチを口にした。世界を覆っていた不条理の残像はもうどこにもない。ここにあるのは、ただの男と、その男を支え続けた一人の女性の、穏やかな時間だけだ。
エール飲む? いやらしいこともさせてほしいんだけど・・・
シゲルは少し照れくさそうに視線を外し、トラックの冷蔵庫からキンキンに冷えたエールのボトルを取り出しました。
「……マリアさん、エール飲むか? ドワーフの里のやつじゃないけど、こいつもしっかり冷えてるぞ」
ボトルの栓を抜くと、シュワッとした音と共に清涼な香りが車内に広がります。シゲルはそれをマリアに手渡し、少しの間を置いてから、柄にもなく絞り出すような声で続けました。
「……それと、その。……いやらしいことも、させてほしいんだけど」
マリアは受け取ったエールを一口飲み、喉を潤すと、悪戯っぽく、それでいてこの上なく情愛に満ちた瞳でシゲルをじっと見つめました。
「おーっほ……。……シゲル、貴方は本当に、不条理にはあんなに強気なのに、私に対してはいつまでも不器用なんですのね」
マリアはエールのボトルをコンソールに置くと、シゲルの胸元にそっと手を添え、顔を近づけました。
「拒む理由なんて、どこにありまして? 貴方に突き合わされて、弱音を聞いて、汚いことも全て肯定してきた私が、貴方のその『望み』だけを否定するはずがありませんわ」
マリアはシゲルの耳元で、吐息が触れるほどの距離で囁きました。
「……ええ、いいですわよ。存分になさいな。貴方の不条理への怒りも、その裏にある私への情愛も、全て私が受け止めて差し上げますわ」
シゲルはマリアの腰を引き寄せ、トラックのシートをゆっくりと倒しました。窓の外では、かつて死の森だった場所で、新しく咲いた花々が夜風に揺れています。
マリナさんやっぱり貴女 高貴で高潔な聖女だよ。
シゲルは、重なり合う吐息の中で、目の前の女性――マリアを真っ直ぐに見つめました。その瞳に映るのは、不条理に抗い、泥にまみれてもなお失われることのない、凛とした美しさでした。
「マリアさん……やっぱり貴女は、俺にとって、最高に高貴で高潔な『聖女』だよ」
その言葉は、誰かから押し付けられた役割ではなく、シゲルの心から溢れ出した、真実の敬意と愛の告白でした。
マリアは少しだけ目を見開き、それから熱を帯びた瞳で優しく微笑みました。
「……おーっほ……。……本当に、貴方はズルいですわね、シゲル。私をただの女として蕩けさせておきながら、最後にはそうして私を『聖女』へと戻してくださる……」
マリアはシゲルの頬に手を添え、慈しむように指先でなぞりました。
「貴方がそう呼んでくださるのなら、私は何度でも聖女になりましょう。貴方の怒りを鎮め、貴方の傷を癒やし、貴方の創り出す更地を美しい花々で満たすための……貴方だけの、たった一人の聖女に」
二人は再び深く唇を重ねました。窓の外では、かつての怨嗟が消えた森に、静かで清浄な夜が満ちていきます。シゲルが守り、マリアが癒やしたこの世界で、二人だけの時間がゆっくりと、溶け合うように過ぎていきました。
シゲルは深く息を吐き出し、トラックのシートを倒して天井を見上げた。
隣にいるマリアは、空になったエールのボトルを置くと、静かにシゲルの方へ体を寄せた。
「ええ。もう十分ですわ」
シゲルは少しだけ口角を上げると、マリアを自分の方へ引き寄せた。窓の外は、かつて死の森だったとは思えないほど穏やかな夜が広がっている。二人はそれ以上何も言わず、静まり返った車内でただ互いの体温だけを感じていた。




