第3話 遠雷の噂
時は流れ、国内は再び風雲急を告げていた。豊臣秀吉が没し、徳川家康が天下簒奪へと動き出した頃である。
各地の戦場や宿場で、二人の槍使いの噂は、風に乗って互いのもとへと届いていた。
【美濃、福島正則の陣】
「おい聞いたか? 黒田の後藤又兵衛、また一番槍だってよ」
「朝鮮であれだけ暴れて、まだ足りねえのか。まさに『黒田の番犬』だな」
雑兵たちの噂話を聞きながら、可児才蔵は愛用の槍の手入れをしていた。
福島正則という、豪快だが気風のいい主君を得て、今の才蔵は水を得た魚のようだった。
「番犬か……。違うな」
才蔵はニヤリと笑った。
「ありゃあ、鎖に繋がれた狼だ。……そろそろ鎖を引きちぎりたくて、うずうずしてる頃だろうよ」
【筑前、黒田家の城下】
「可児才蔵殿が、また武功を挙げたそうです。なんでも、首を十七も取ったとか」
「野蛮な男だ。戦場の作法も知らぬと見える」
家臣たちの陰口を背に、又兵衛は道場で黙々と素振りを続けていた。
汗が飛び散る。
(野蛮? 違うな)
又兵衛は心の中で否定した。
(あれは純粋なのだ。己の強さを証明すること以外に、興味がないだけだ。……羨ましいほどにな)
一振りのたびに、風が唸る。
会わずとも分かる。あのカニのハサミは、さらに巨大に、鋭くなっている。
遠く離れた空の下、二つの星が、来るべき「関ヶ原」という巨大な重力に引き寄せられていた。
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