第3話 後藤又兵衛、戦場の座禅
静寂が戻った戦場で、又兵衛はゆっくりと立ち上がった。
目の前には、仁王立ちのまま絶命した才蔵の背中がある。
「……馬鹿野郎が」
又兵衛の声は震えていた。涙が、銀色の頬当てを伝って落ちる。
「一番格好いい死に方を、持っていきおって……」
又兵衛は悟った。
才蔵は、自分のために「戦場での死」を引き受けてくれたのだ。ならば、自分に残された役割は一つ。
才蔵がかつて夢見た「畳の上での死」を、この地獄で再現することだ。
又兵衛は、敵が恐る恐る近づいてくる中、槍を地面に突き刺した。
そして、血と泥にまみれた地面に、着物の裾を整えて座った。
正座である。
戦場には似つかわしくない、茶室にいるかのような所作。
彼は兜を脱ぎ、才蔵の背中に向かって静かに手を合わせた。
「才蔵よ。……地獄の入り口で待っていろ。すぐに追いつく」
そして、敵将に向かって大音声で告げた。
「我こそは、後藤又兵衛基次! 我が友の死に様、見事であったか!」
敵兵が槍を構えて殺到する。
だが、又兵衛は動かない。背筋を伸ばし、目を閉じ、呼吸を整える。
その姿は、まるで悟りを開いた高僧のようだった。
(……悪くない)
切っ先が体に触れる直前、又兵衛は心の中で微笑んだ。
熱い。でも、静かだ。
二人の魂が、一つに溶け合っていくのを感じながら、又兵衛の意識は白い光の中へ消えた。
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