第1話 道明寺、修羅の道
慶長二十年五月六日、早朝。
河内国、道明寺。
視界を遮る濃霧の中、地鳴りのような轟音が響いていた。伊達政宗が誇る「騎馬鉄砲隊」の蹄の音である。
対する後藤隊は、わずか二千八百。敵はその十倍。
だが、霧の中から現れた二つの影を見た時、伊達軍の先鋒は思わず足を止めた。
「……ありゃあ、人間か?」
先頭を行くのは、銀色の甲冑を纏った後藤又兵衛。
そしてその横には、ボロボロの具足に笹を差した可児才蔵。
二人は馬にも乗らず、徒歩で、しかし疾風のような速さで突っ込んできた。
「どけえッ! 雑魚に用はねえ!」
才蔵の十文字槍が旋回する。
それは武術というより、天災に近かった。触れた者の手足を弾き飛ばし、兜ごと頭蓋を砕く。才蔵が通った跡には、血の道ができる。
「才蔵、突出するな! ……左だ!」
又兵衛の声が響く。才蔵の死角から迫る敵兵の喉元を、又兵衛の槍が正確無比に貫く。
「動」の破壊力と、「静」の精密射撃。
二つの槍は互いを補完し合い、巨大な一つの生き物となって敵陣を食い荒らしていく。
「カッカッ! どうした又兵衛、息が上がってるぞ!」
「貴殿こそ、腰が引けているぞ!」
二人は笑っていた。
四方を敵に囲まれ、死が確実な状況下で、彼らは人生で最も充実した時間を生きていた。
京の竹林で始まった因縁が、この修羅場で昇華されていく。
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