表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双璧の槍 ―笹と亀―  作者: beens
第五章 月下の杯、無言の槍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/25

第3話 最期の酒

 翌、慶長二十年五月五日。

 大坂夏の陣。冬の陣での和議は破られ、裸城となった大坂城には、滅びの予感が漂っていた。

 明日は決戦。場所は、道明寺どうみょうじ

 その夜。城壁の一角で、又兵衛は愛槍を磨いていた。

 月が綺麗だった。

 明日の戦いは、負け戦だ。霧の中で数万の敵とぶつかる。生きて帰れる見込みはない。

「……飲むか?」

 背後から、才蔵が徳利を二つぶら下げて現れた。

 二人は並んで座り、月を見上げる。

「なあ、又兵衛」

 才蔵が酒を一口煽り、ポツリと言った。

「俺は、夢を変えたぜ」

「夢? ……畳の上で死ぬ、というあれか」

「ああ。やめだ、やめ」

 才蔵は、自分の十文字槍を愛おしそうに撫でた。

「広島で隠居していた時、俺は毎晩考えた。綺麗な畳の上で、孫に囲まれて死ぬ。……悪くはねえ。だがな、そこには『お前』がいねえんだ」

 又兵衛の手が止まった。

「俺の人生、半分はお前と競うことに費やした。お前がいない極楽より、お前と並ぶ地獄の方が、よっぽど楽しそうだと思ってな」

 才蔵は、子供のような無邪気な顔で笑った。

「だからよ、俺の死に場所は、明日の道明寺だ。お前の横で、派手に散ってやる」

 又兵衛は、こみ上げる熱いものを必死に堪えた。

 この男は、自分のために「安穏な死」という夢を捨てて、地獄まで来てくれたのだ。

「……ならば、才蔵」

 又兵衛は、静かに杯を返した。

「貴殿が捨てたその夢、わしが貰い受けよう」

「あん?」

「貴殿が戦場で散るなら、わしはその最期を見届けた後、貴殿が望んだ『静寂』の中で死んでみせる。……二人で一つ。それでよかろう」

 才蔵は目を丸くし、やがて腹を抱えて笑い出した。

「カッカッカ! 違いねえ! 俺が動で、お前が静。……いいぜ、その夢、くれてやる!」

 二人は杯をぶつけ合った。

 カチン、と澄んだ音が、滅びゆく城の夜空に吸い込まれていく。

 それは、現世での最期の契約だった。

更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ