間話 大坂城の女たち
大坂城、奥御殿。
淀殿に仕える侍女・お初は、城内の異様な熱気に当てられ、めまいを覚えていた。
ここ数日、城には毎日数百人もの浪人たちが流れ込んでくる。
みな、顔つきが怖い。目は血走り、全身から殺気を漂わせている。
「お聞きになりまして? 今日、あの方が入城されたとか」
「ええ、後藤又兵衛様でしょう? なんでも、銀色の甲冑が後光のように輝いていたとか」
侍女たちの噂話に花が咲く。
滅びゆく豊臣家に集まる、時代の徒花たち。彼らは死に場所を求めてやってくる蛾のようにも見えたが、その輝きはあまりに美しかった。
そんな中、お初は奇妙な老人を見かけた。
城門の隅で、警備の兵に誰何されている。
「だからよ、俺は可児才蔵だと言ってるだろうが」
「嘘をつけ! 才蔵様は広島で隠居されているはず! そんな薄汚れた爺が!」
老人は困ったように頭をかき、懐から枯れた笹の葉を取り出した。
「困ったねえ。……じゃあ、これでどうだ?」
瞬間、老人の気配が変わった。
彼が持っていた槍の石突きで、地面をトンと突いただけで、周囲の屈強な兵たちがビリビリと震え上がったのだ。
お初は見た。
その老人の目が、城の奥、本丸の方角をじっと見つめているのを。
そこには、すでに入城していた後藤又兵衛の姿があったはずだ。
(……ああ、役者が揃ったのだわ)
お初は、震える手で胸を押さえた。
この城は燃える。だが、その炎はきっと、歴史上最も美しい炎になるだろうと予感していた。
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