第3話 脱走、西へ
慶長十九年(一六一四年)。
事態は急変した。徳川と豊臣の関係が悪化し、大坂で戦が始まるとの報が全国を駆け巡ったのだ。
広島城。
福島正則は、苦悩していた。豊臣恩顧の大名として、秀頼公に味方したい気持ちはある。だが、徳川の圧力は絶対だ。
「……才蔵よ。わしは、どうすればよい」
老いた主君の弱音を聞き、才蔵は決意した。
(この城は、俺の死に場所じゃねえ)
その夜。
才蔵は、愛用の甲冑と槍だけを持ち、屋敷を抜け出した。
行き先は一つ。大坂。
そこには、全国から「あぶれ者」たちが集まっているという。主家に捨てられ、世に容れられなかった、強者たちが。
そして間違いなく、あの男もそこにいるはずだ。
城下を出る峠で、才蔵は一度だけ振り返った。
「殿、世話になり申した。……だが、俺は『傘』ではなく『槍』として死にたいのでな」
彼はニヤリと笑うと、懐から予言の日付を書いた紙を取り出し、破り捨てた。
「愛宕様、約束の日を変えさせてもらうぜ。……畳の上より、もっと面白い寝床が見つかりそうだからな」
一方、京の長屋でも、一匹の亀が動き出していた。
又兵衛の元に、大坂城からの密使が訪れていたのだ。
「後藤様。秀頼公が、貴殿の槍を求めておられます。支度金は望むままに」
又兵衛は、積まれた小判に見向きもしなかった。
彼が手に取ったのは、愛用の槍だけだ。
「金はいらぬ。……ただ、思う存分暴れられる場所をくれ」
西へ向かうカニ。
東へ向かう亀。
二つの道が、巨大な城郭都市・大坂で交わろうとしていた。
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