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双璧の槍 ―笹と亀―  作者: beens
第四章 錆びゆく刃、疼く魂

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第2話 奉公構、乞食武者

 同じ頃、京の都。

 かつて栄華を誇った一人の男が、路地裏の長屋で膝を抱えていた。

 後藤又兵衛基次である。

 黒田長政との確執は、決定的なものとなっていた。

 「天下に二つの名槍なし」。あまりに高まった又兵衛の名声を、長政は許せなかったのだ。又兵衛は黒田家を飛び出したが、長政の手回しにより「奉公構ほうこうがまえ」という沙汰が下されていた。

 これは、他家が又兵衛を召し抱えることを禁ずる、実質的な「兵糧攻め」である。

「……おい、浪人。酒代はどうした」

 酒屋の主人が、薄汚れた着物を着た又兵衛に詰め寄る。

「……すまぬ。今は持ち合わせがない。必ず払う」

「『槍の又兵衛』様が聞いて呆れるぜ! とっとと出て行きな!」

 罵声を浴びせられ、泥水をかけられる。

 だが、又兵衛は動じなかった。彼は汚れた着物の袖で顔を拭うと、静かに主人を睨みつけた。

 その目。

 飢えた獣のような、それでいて理性を失わぬ澄んだ瞳に、主人は思わず後ずさった。

 又兵衛の部屋には、家財道具など何もない。

 ただ一つ、部屋の中央に鎮座する長大な槍と、丁寧に磨き上げられた銀色の兜だけが、異様な存在感を放っていた。

(……才蔵よ)

 又兵衛は、冷たい握り飯をかじりながら、遠き友を想った。

(貴殿は今、広島の屋敷で何不自由なく暮らしているだろう。……羨ましくはない。いや、少しは羨ましいか)

 自嘲気味に笑う。

 細川家、池田家、福島家……多くの大名が又兵衛を欲しがった。だが、黒田の邪魔が入るたびに、話は消えた。

 世間は彼を「終わった男」と笑う。

 だが、又兵衛の心臓は、まだ熱く脈打っていた。

「俺の槍は、錆びてはいない」

 彼は毎夜、闇の中で槍を振るった。

 いつか来る「その時」のために。黒田を見返し、天下に己の義を示すために。

 亀の甲羅は傷つき、苔むしていたが、その中身は誰よりも純粋な炎を蓄えていた。

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