第3話 焼け野原の再会
午後には、勝敗は決していた。
西軍の敗走。関ヶ原は、おびただしい数の死体と、折れた武器、そして夕焼けに染まる硝煙の海となっていた。
戦いが終わり、兵たちが手柄の確認(首実検)に奔走する中、才蔵は一人、戦場の外れにある小高い丘に腰を下ろしていた。
彼の手元には、十七つもの首級が積み上げられている。その全てが、口に笹の葉を咥えていた。
「……やれやれ、暴れすぎたか。腰が痛え」
才蔵が愛槍についた血糊を拭っていると、背後から足音が近づいてきた。
銀色の具足。戦いの激しさを物語るように、あちこちが凹み、返り血で黒ずんでいる。
後藤又兵衛だった。
「……見事な首の山だな、カニ殿」
又兵衛は、笹を咥えた首の山を見て、呆れたように、しかし敬意を含んだ声で言った。
「ああ、亀殿か。お前の槍も、随分と血を吸ったようだな」
才蔵は振り返りもせず、懐から竹筒を取り出して酒を煽った。
二人の間に、言葉少なに時間が流れた。
勝利の熱狂から離れた、二人だけの静謐な空間。
「なあ、又兵衛」
不意に、才蔵が口を開いた。その声には、いつもの覇気とは違う、奇妙な落ち着きがあった。
「俺は、もう十分だ」
「十分?」
「ああ。思う存分暴れた。人を斬り、突き、この槍で天下に名を売った。……だからよ、次の戦はもういい」
才蔵は遠く、茜色に染まる空を見上げた。
「俺の最後の夢はな。……畳の上だ」
「畳?」
「ああ。戦場じゃねえ。静かな畳の上で、きっちりと甲冑を着込んで、行儀よく座って死ぬ。……それが、俺の上がりの夢よ」
又兵衛は目を見開いた。
戦場を誰よりも愛し、野生の獣のように生きてきた男の口から出た、あまりにも意外な「夢」。
「……貴殿らしくもない」
「はん、笑いたきゃ笑え。だがな、俺は本気だ」
才蔵は立ち上がり、槍を担いだ。
「じゃあな、又兵衛。お前はまだ、その重てえ甲羅を背負って歩くんだろう? ……せいぜい、道を見失うなよ」
去っていく才蔵の背中を、又兵衛は黙って見送った。
畳の上での死。
その言葉が、又兵衛の胸に小さく、だが深く突き刺さっていた。
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