第2話 笹の首実検
ヒュォォォンッ!
開戦の合図もそこそこに、福島隊の先頭を切って飛び出した影があった。
可児才蔵である。
「どいつもこいつも、邪魔だぁッ!」
才蔵は騎馬武者でありながら、馬のスピードに頼らない。敵陣に突っ込むや否や、馬上で槍を風車のように振り回した。
十文字槍の真骨頂。
突けば敵の喉を貫き、引けば横に出た鎌が敵の首を刈り、払えば敵の馬の脚をへし折る。
彼の周囲だけ、重力が狂ったような光景が広がっていた。人が、馬が、鎧の破片が、才蔵を中心にして四方八方へ弾き飛ばされていく。
「一番首、もらったぁ!」
才蔵は、敵の侍大将とおぼしき男の首を、すれ違いざまに斬り落とした。
だが、ここで問題が生じた。
次から次へと敵を倒していくため、討ち取った首を腰にぶら下げる暇がないのだ。さりとて、首を捨てていけば手柄の証明にならない。
「ええい、面倒な!」
才蔵は周囲を見渡した。戦場の端に、小さな笹藪が見えた。
彼はニヤリと笑うと、藪へ駆け寄り、青々とした笹の葉を鷲掴みにむしり取った。
「これでいい」
才蔵は、討ち取った生首の口をこじ開け、そこに笹の葉を強引にねじ込んだ。さらに鼻の穴にも、耳の穴にも。
顔中から笹を生やした異様な生首。それを、彼はその場にポイと捨てた。
「次だ! 次の獲物はどこだ!」
才蔵は再び戦場へ舞い戻る。
斬る。笹を詰める。捨てる。
斬る。笹を詰める。捨てる。
その作業は、残酷でありながら、どこか滑稽で、そして何よりも速かった。
彼が通り過ぎた後には、口に笹を咥えた生首が点々と転がり、まるで死の道標のようだった。
一方、少し離れた戦場で、黒田隊を率いて奮戦していた又兵衛は、その異様な光景を遠目に目撃していた。
「……ふっ」
戦場の只中だというのに、又兵衛は思わず笑みをこぼした。
(相変わらず、滅茶苦茶な男だ。だが……)
又兵衛の目の前で、銀色の槍が閃き、敵兵の心臓を正確に貫いた。
(俺も負けてはいられん。俺の槍は、黒田の武を天下に示すためのものなり)
「動」の才蔵。「静」の又兵衛。二振りの槍が、関ヶ原の戦場を朱色に染め上げていった。
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