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従順なる1人目の信徒 4

 

「やっと、私を頼って下さいましたね」


 ヒオラの傍に立ち、右手を前に出す。

 すると、寸前のところで神官から放たれた雷は、まるで見えない壁に弾かれるかのようにせき止められた。


「さ、サリアーゼ様……? これは」


「結界ですよ?」


 神官の放つ雷は今も勢いは止まらないけど、この程度の威力なら……弱くなった私の力でも容易に防ぐことが出来るわ。本当に大したことない下民ね。


「ぐ、ぐぬぬぬぬ、なんだと言うのだ……コレは」


 ただ悲しいのは、信徒が一人もいない私には結界を維持したまま敵を攻撃する手段が無いと言うことね。

 あの神官も、なかなか諦めてくれそうにないし、困ったわ。


「ご、ごめんなさい、サリアーゼ様。せっかく私のために色々と助けて下さったのに……どうして、どうしてこんなことに」


 ヒオラはヒオラで、その場で蹲ってしまう。


「ヒオラさん。いいえ、ヒオラ。いい加減、現実を見てくださいな」


 泣いたって、何も変わらないのよ。


「分かってます。分かってるんです。私は、騙されていたんですよね。でも、女神レイニア様に直接お会いすれば、まだ……」


「いい加減、会ったことも見たことも無い女神のことを頼るのはやめて下さいますか?」


「え?」


 信仰心が厚いことは良いことだけれど、ちゃんと現実を直視して欲しいものだわ。


「あなたがコレまで得ていた加護擬きは、あの神官の力。そしてあの神官は、女神レイニアの名前を利用して信徒を騙していただけなのでしょう」


「……」


「あなたが女神レイニアを信仰する理由が、いったいどこにあるのでしょうか」


 そろそろ腕も疲れてきたわ。

 大したことない威力の魔法だけど、あの神官なかなかの魔力量を有しているみたいね。


「ヒオラ。あなた、私の信徒になりなさい」


 右手で結界を維持したまま、左手をヒオラへと差し出した。


「私が……サリアーゼ様の、信徒に?」


「そうです。不満ですか?」


 希望、不安、ヒオラの瞳の奥に、そんな感情がユラリと垣間見える。

 でも、私の加護を得たら不安なんて物は掻き消えるでしょうね。


 さぁ、私の手を取りなさい。


「私……なんかで、良いのですか?」


「えぇ、あなたが欲しいのです」


 ゆっくりと、ヒオラの右手が持ち上がる。

 そしてようやく、ぴとりと軽く触れる程度だったけど、たしかに私の左手に触れてくれた。


「良いでしょう。ヒオラ」


「は、はい。女神サリアーゼ様……私ヒオラは、偉大なる女神サリアーゼ様へ、この信仰心を生涯捧げると誓います」


「はい。信徒ヒオラよ。あなたの信仰心が続く限り、私サリアーゼは大いなる加護をあなたへ与えると誓いましょう。あなたの信仰心が失われない限り、私の加護は大いなる恩恵をあなたへ持たらしてくれることでしょう」


 光が、私とヒオラを包み込む。

 そう。コレよコレ。ヒオラの信仰心が、私へ流れ込んでくるわ。

 同時に、私の加護がヒオラへ与えられていく。


「す、凄い……です。なに、コレ、暖かい」


「ソレが、正真正銘、本物の女神の大いなる加護ですよ? 今までの加護擬きとは異なる物です」


 自分の手と体を確認するヒオラ。

 漲る力のせいで、まるで自分の体じゃないような錯覚に襲われているに違いないわ。ま、いずれ慣れるでしょう。今はそれよりも――


「では信徒ヒオラよ。あなたの力で、あの無礼な下の下の下民である神官を懲らしめてあげて下さいますか?」


 今のあなたなら雑作もないこと。そう付け加えると、恐る恐るではあるけど、頷いてくれた。


「では、いきますよ? 私がこの雷を弾き飛ばしたら、ひと思いにやっちゃって下さい。遠慮は無用ですよ?」


「で、でも、良いのでしょうか? そんないきなり」


「良いのです。私が良いと言えば、それで良いのです」


 なんたって私は女神サリアーゼなのだから。私の言うことは絶対なのよ。


「では、いきますね?」


 ヒオラに合図を送り、右手を大きく振り抜く。

 すると、結界を激しく打ちつけていた雷が今度こそ綺麗サッパリと吹き飛んだ。ようやく見晴らしも良くなったと言うものだわ。


「な、なにぃ!? 私の魔法が、馬鹿な!」


「偉大なる女神サリアーゼ様の加護の下、分け与えられし力をもって神罰を下します!」


 ヒオラが、詠唱を口にしているわ。

 私の加護が、しっかりと彼女に恩恵をもたらしている証拠ね。

 さてと、私は座って待っていようかしら。


「き、貴様! な、なんだソレは!?」


「神聖なる神の剣よ、滅ぼせ!」


 ヒオラの魔力が収束して出来た眩しい剣が、閃光を放ちながら一直線に神官へと突き進む。

 激しい魔力の奔流を纏って、周囲を薙ぎ払いながら向かう剣だ。直撃すれば、命は無いどころか塵一つ残らないでしょう。

 でも――剣は少しだけ逸れた。

 神官を掠めて、神殿を半分程吹き飛ばしながら空の彼方へと過ぎ去って行った。


「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」


 あまりにも恐ろしい体験をしたせいか、その神官はへたり込んでしまう。

 瞳は焦点が合わず、虚空を見つめているみたい。

 ま、生きた心地がしなかったでしょうし、無理ない話ね。

 剣が逸れたのは、ヒオラの優しさなのか、それとも単純に操作を誤ってしまったのか。

 どうやら、その両方みたいね。

 行きている神官を見て、少しだけホッとしたような表情をしているわ。


「よくやってくれました、ヒオラ」


「サリアーゼ様……でも、わたし」


 きっと、剣が神官に命中しなかったことを気にしているのね。


「良いのですよ。命を取ったとしても取らなかったとしても、あなたが選んだ末のこの結果を、私は尊重しますよ?」


 そう言うと、ヒオラの瞳に涙が滲み出る。

 本当にこの子はよく泣くわね。


「ありがとうごさいます。女神サリアーゼ様。私は生涯、あなた様への信仰を忘れないと誓います」


 ヒオラがその場で跪き、頭を垂れる。


「もう、私以外の者に跪き、頭を下げることを許しませんよ? よろしいですか?」


「はい! 女神サリアーゼ様……」


 暖かく、心地が良くて、愛すらも混ざった信仰心がヒオラから伝わってくる。

 昔は余りある程にあった信仰心だけど、失ってしまった大切な信仰心。

 ヒオラから伝わるコレは間違いなく本物ね。


「これからよろしくお願いしますよ。ヒオラ」


 こうして、私は従順なる一人目の信徒、ヒオラ・オパールを獲得した。

 これは、偉大なる女神だった私が、その威厳と力、そして信徒を取り戻し、再び世界に降臨する物語。


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