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従順なる1人目の信徒 1

 

 あらあら。

 なんとも悲壮感の漂う背中だわ。


 神殿を後にして、まさに今この神殿を追放されてしまった少女の後をつけてみる。

 見た目は16歳と言ったところか。少しボサッとした黒髪を背中まで伸ばした年頃の女の子だ。身なりは、決して上等とは言えない。

 とても、あの神官の言う偉大な女神の加護を受けているとは思えないわ。

 追放されてしまったことが余程堪えてしまったのね、終始俯いたままだわ。


 ……それにしてもこの下民、いったいどこまで歩くつもり? もう街の端まで来てしまったけど……って、どうやら外に行くみたい。


 街を出て、森の奥へ、奥へ、奥へと進んでいく。


 なんだか嫌な予感がするわね。

 もし、自らの未来をここで断つつもりなら、女神として流石に見過ごすことは出来ない。もう少し観察していたいけど、声をかけようかな。


「……っ?」


 と思っていたら、少女の目の前にいつの間にか魔物が現れていた。


 大きいわ。

 大人二人分くらいはありそうな、四足歩行の獣。少女を睨みつけて鋭い牙で威嚇している。

 私が眠りにつく前にも、似たような魔物がいたのを覚えてる。


「わ、私も、魔物を倒して……お金に換えて寄付すれば……貢献すれば……もう一度信徒にしてもらえる!」


 まるで呪文みたいにそんなことを唱えている。


「女神レイニア様の加護の下、与えられし力をもって神罰を与えん! 雷鳴よ、貫け!」


 と、女神の加護を与えられた信徒が行う詠唱を、この少女はしっかりと口にする。

 信仰心がある限り、女神の加護はその者に宿り続ける。その信仰心が本物ならば。

 でも――


「……」

「……」


 ズシリ、ズシリと、目の前の獣は何事も無かったかのように少女との距離を詰める。

 いや、何も起こらなかったのだから当然。


「そ、そんな……どうして……」


 獣が近づくだけ、少女も一歩ずつ後退する。


 絶望の色に染まる少女の顔を見て確信した。


 ――加護を、取り上げられてしまったのね。


 なんということ。

 女神が、信徒から一方的に加護を取り上げてしまうなんて。


「助けて! レイニア様っ!!」


 そう叫びながら、その場で座り込み頭を抱える。

 勿論、だからと言って獣の動きが止まることなんてない。寧ろ、今こそ狩り時だと言わんばかりに飛び掛かる。


「ったく、しょうがないわね」


 私の信徒ではないけれど、目の前で下民が食べられてしまうのを見過ごす訳にもいかない。どこに誰の目があるのかも分からないのだから、コレも信仰心を取り戻すために必要なことね。


「はい。ソコを動いてはいけませんよ?」


 素早く飛び出し、少女と獣の間に割って入る。

 そしてピンッと指を獣に向けてそう命令すると、ピタリと獣の動きが止まる。

 獣が私の命令に従っている訳ではない。私の力で、動きを縛りつけているだけ。その証拠に、この獣は今も敵意を剥き出しにして鋭い牙をこれでもかと見せつけている。あまり汚い牙を見せないで欲しいわ。

 それよりも、ピクピクと身体をよじり抵抗しているのがムカつくわね。

 まったく……こんな獣一匹の動きを完全に封じることが出来ないなんて、私の力も弱くなってしまったものね。


「……そこの貴女? いつまでそうしているつもりですか?」


 とまぁ愚痴はここまでにしておいて、今も後ろで怯えている少女に話しかける。

 この下民、まさか自分が食べられてしまったとでも思っているんじゃないでしょうね。


「え、え?」


 何度か呼びかけると、ようやく顔を上げてくれた。


 あらまぁ。

 こうして近くで見ると、とても綺麗な顔立ちをしているじゃない。ま、私には到底敵わないけど。


「可能なら、この魔物にとどめを刺して欲しいのですが、お願い出来ますか?」


 信徒を失い、得られる信仰心も無くしてしまった私には、動きを封じたままこの獣を倒す術が無い。悲しい話だけど、今はこの下民に頼る以外に無い。


「え? え? え!? なにが、どうなって……」


 混乱しているわね。

 色々と説明してあげたいけど、今はちょっとめんどくさいわ。


「さぁ早く。この獣にとどめを刺さないと、私も貴女も食べられてしまいます」


「え? あ……あ! だ、駄目なんです! 私、女神レイニア様の加護が失くなって……魔法が使えなくなってしまったんです」


「……」


 ……そう言えばそうだったわね。


 仕方がない。


「こちらをお使い下さい」


 もう片方の手の人差し指をくるくると動かし、私の力を収束させる。

 すると、少女の傍らにはあら不思議。とーっても立派な剣が現れた。勿論、私の加護が宿った強力な剣。その剣を使えば、信徒でなくても私の力の一部を使うことが出来るわ。


「うそ……」


 綺羅びやかな剣でしょう? とっても驚いているわね。


「さぁ、その剣でひと思いにブスリといって下さいな」


「わ、私が?」


 お前以外にいないでしょう?

 いい加減腕も疲れてきたし、早くして欲しいわ。


「えぇ。大丈夫です。ブスリと刺すだけです」


 おそらく、急に加護を失ってしまって怯えているのでしょう。

 この獣も、私の力で動きを封じているとは言え、今にも動き出しそうにも見えなくも無い。


「さぁ、ブッスリと。ひと思いにやっちゃって下さい」


 さぁ。さぁさぁさぁ!


 ただでさえ怯えてしまっている少女をあまり怖がらせないために、優しい笑顔を浮かべてあげる。


 少女は、私の顔と出現させた剣へ交互に視線を向ける。


 ニッコリと微笑みながら頷く私を見てから、ようやく少女は地面に転がった剣へと手を伸ばし、掴んだ。

 震える足でなんとか立ち上がると、うめき声を上げながら今にも動き出しそうな獣へ剣を向け――


「やぁぁぁぁぁあああっ!!」


 一直線に進んで剣を突き刺す。


 獣の胸に剣が突き刺さると、その周囲ごとカッ!! と言う閃光と共に大部分の体が吹き飛んだ。


 あらあら、簡単に消し飛んじゃって。見かけによらず大したことない魔物だったわね。


「な、なに……コレ」


「勿論、私の加護の力ですよ?」


 どしゃりと崩れ落ちた獣の前に立ち尽くし、握る剣をまじまじと見つめていた。


「それより、お怪我はありませんか?」


「え、う、うん」


 怪我は無いようだけれど、顔色は良くないわね。

 やっぱり、自分が信仰している女神から加護を取り上げられてしまって、相当ショックを受けているのね。あぁ、可哀想。


「あ、あの……助けてくれてありがとう」


「お気になさらず」


 さぁ、私がどこの誰だか尋ねなさいな。

 自分より歳下にしか見えない美しい少女が、とてつもない力をあなたに見せたのよ? 気になるでしょう? 気になってしょうがないでしょう?

 ちゃんと答えてあげるわ。偉大なる女神、サリアーゼだと。


「コレ……返すね」


「はい。お役に立てて何よりです」


「私、やることがあるから……」


 と、深く頭を下げてから背を向ける。


 え? ちょ、ちょっと?

 こ、この下民、私のことが気にならないとでも言いたいの? 

 だとしても! そんなさっさと行こうしなくても良いでしょうに!


「お、お待ちくださいな!」


 背を向けてそそくさと行ってしまいそうな少女を呼び止める。


「あなた、ソコの魔物を討伐してお金に換えたかったのでは?」


 たしかそんなことを言っていた筈。

 どうやら、魔物を討伐することで報酬を貰えるのでしょう。

 私がそう尋ねると、少女は動かそうとしていた足をピタリと止めて振り向いてくれた。


「ソレは……私が倒したのじゃなくて、あなたの力で倒したようなもの。私は受け取れない」


「私は、ほんの手助けをしたに過ぎませんよ? その魔物を倒したのは紛れもなく貴女です」


「で、でも……」


「良いのです。私は偉大なる女神サリアーゼ。私が良いと言えば、それで良いのです」


 これ以上ないくらいの笑顔で私の名を宣言してみた。

 だけどやっぱり、この少女も私の名を聞いてもピンと来ていないみたい。


「め、女神……さま?」


「はい。女神サリアーゼです」


 さっきの私の力を目の当たりにしているのだから、流石に信じてくれても良いとは思うけど、どうでしょう。


「めめめ、女神様!? す、すみません! 私、本物の女神様にお会いしたのは始めてで!」


 と、どうやら信じてはくれたみたい。慌てて這いつくばってしまったわ。ここまでの反応は望んではいないけど、うーん……頭を下げられるのはやっぱり気分良いわね。


「頭をお上げ下さいな。それよりも、少しお話を聞かせて下さいますか?」


 ひとまず、詳しく話を聞かせてもらいましょう。

 私は、先の神殿で少女と神官の話を聞いていたことと、後をつけていたことを説明してから、少女の話を聞くことにした。


「なるほど。つまり貴女は、女神レイニアの信徒を新たに獲得することも出来ず、献上金もまともに用意出来ない日が続き……遂には神殿を追放されてしまったということですか」


 女神が信徒から献上金を集めたり、信徒に新たな信徒を集めさせたりと気になることが凄く多いけど、今はどうでも良いわね。

 この少女は神殿を追放されて、挙げ句の果てに加護まで取り上げられてしまったのだから、きっと新たに信仰する女神を求めているに違いないわ。


「あぁ……可哀想。あなた、お名前は?」


「ヒオラ。ヒオラ・オパールです」


 なかなか良い名前じゃないの。

 私の従順なる信徒一人目に相応しいわね。


「従順なる民、ヒオラよ。あなたを我が信徒として迎えましょう。望むのなら私の加護を与え、その信仰心が続く限り、永遠に恩恵を授けることを誓います」


 昔に何度も繰り返した言葉。

 コレを言うと下民は跪き、泣いて喜ぶのよね。

 さぁヒオラ、泣いて喜び感激し、あなたの信仰心を私に捧げなさい。


「え、私を……?」


 ヒオラは戸惑いつつもキュッと唇を噛み締めている。


 そして――


「ご、ごめんなさい! 私、あなたの信徒にはなれません!」


 ホラ、泣いて喜び――え? 今なんて?


「き、聞き間違いでしょうか?」


 この私の力を目の当たりにして、それでも私の加護を欲しくないと? そんな馬鹿な。

 そう思ったけど、どうも少し違うみたい。その証拠に、ヒオラは私の前にちゃんと跪き頭を垂れている。


「わ、私の信仰心は女神レイニア様へ捧げています。ですから、女神さ、さ、サーネーゼ様へ信仰心を捧げることは出来ません!」


「サリアーゼです」


「女神サリアーゼ様へ信仰心を捧げることは出来ません!」


「あなた、女神レイニアの加護を取り上げられたのでしょう? それでも、女神レイニアへ信仰心を捧げ続けると言うのですか?」


「私は加護が欲しくて女神レイニア様を信仰している訳ではありません」


「……」


 なんて従順なる信徒でしょう。

 この子が女神へ向ける信仰心は本物と言うことね。

 過去の私の信徒に、この子のような者がどれだけいたでしょうか。いや、仮にいたのなら今のような現状にはなっていなかったのかも知れないわ。


 欲しい! 欲しいわ! 私はこの子が欲しい!

 この子は私の信徒に相応しいわ!


「そう……ですか。それは仕方がありません。ですが、私に少しあなたの協力をさせてはもらえないでしょうかる」 


「協力?」


「はい。無事にあなたが再び神殿へ戻れる協力です。女神が手助けすれば、きっとあなたの願いは叶いますよ?」


 ヒオラは少し迷ったみたいだけど、私の美しい笑顔に負けたのか、首を縦に振った。



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