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昔はすご~い女神でした 2

「女神サーネーゼ? って聞いたことあるか?」


 と、男は連れていたもう一人の下民に聞く。


「さぁ? 知らないわね。ってかここらへんは女神レイニア様の神域でしょ? 他の女神が寄り付くとも思えない」


 女の下民から驚くべき言葉が飛び出てきた。

 女神レイニア? 女神? 私以外に女神が存在しているとでもいうの?


「お嬢ちゃん? いくら女神様への信仰心が高くても、女神様のマネをするのは良くないわよ?」


 まるで子供をなだめるように頭を撫でられる。

 この女神サリアーゼの頭に触れるなんて、なんて図々しい下民ね……。


「め、女神レイニア……とはどのようなお方なのです?」


 なんとか笑顔を崩さずに言えた。

 どうやらこの下民達は私の名を知らないらしい。と言うか、もしかしたらこの世界にはもう私の名前すら残っていない可能性までありそう。


「おっと、こりゃどっかの地方貴族の嬢ちゃんが家出でもしたか?」

「レイニア様……よ? そっか、お嬢ちゃんは知らないのね。ま、箱入り娘だったのかな?」

「女神レイニア様は、この世界に存在する女神様の一人よ? ここらへんじゃ知らない人はいない筈だけど」


「へ、へぇ~。そうなのですね〜」


 と、とにかく……もっと人のいる場所へ行ってこの世界が今どうなっているのか知る必要がありそう。


「レイニア様に限らず、この世界には多くの素晴らしい女神様が存在しているのよ。私達程度じゃ、直接お会いすることは到底無理だけど、それでも信仰心を捧げることでたくさんの加護を与えてくれるわ」


「へ、へぇ~。そうなのですね〜」


 勿論知っている。いや、レイニアとか言う奴のことは知らないけど、人間に加護を与え、見返りに信仰心と言う形で力を返してもらうのは……紛れも無い女神の力だ。

 この下民共の話が事実なら、そのレイニアと言う奴も女神ということになる。


「その、女神レイニアにはどこでお会いすることが出来ますか?」


「レイニア様……な? 会えるかどうかは分からないが、女神レイニア様の神殿なら、この街道を暫く行った先の街にもあるぜ」


 男が指し示すのは、まさに私が向かおうとしていた方向だ。


「教えて下さり、ありがとうございます。ところで、あなた方は本当に女神サリアーゼを御存知ないのですか? とーっても偉大な女神様なのですが」


「女神サリアーゼ? いやぁ~聞いたことないな。偉大な女神様なら、それこそ歴史の中に名前くらい残っていても良さそうだが、知らないなぁ」


 男の連れも、同様の反応を見せている。

 これ以上この下民共と話していても意味が無さそう。私のことも知らないし……それに今のこの私の姿じゃ、女神だと信じてもらえそうにない。


 私はもう一度礼を行ってから、街道を進むことにした。


「あ! おい! 嬢ちゃんひとりで大丈夫か?」


「お構い無く。私は女神サリアーゼ。かつてあなた方を救い、導いた女神です。いずれまた、あなた方人類全てを私の前で跪かせてご覧にいれます」


「は?」


 きっと、子供の戯言だと思っているのでしょうね。

 けどすぐに思い知るわ。あなた達下民の女神は……私だけだということをね。


「私、昔はすご~い女神だったのですよ?」


 それだけ言い残して、街を目指した。


 ◇◇◇


「……」


 なんてこと。

 街にたどりついた私は驚き、開いた口がふさがらなかった。もし昔の信徒がこの場にいたなら、私の口の中を拝むことが出来て卒倒しているでしょうね。


 人類の数が減ったなんて可能性も考えていたけど、大違いだ。


 目の前には大きな街。そして行き交う人、人、人。いや下民、下民、下民、下民。

 私が眠りにつく前と比べてると、明らかに繁栄して……人類はその数を増やしている。


「えっと……あ、あの、そこの方?」


 女神レイニアの神殿はどこにあるのかと、道を行く下民に尋ねようと声を出したが、上手く声が届いていないようで無視される。

 誰も私のことを見向きもしない。興味も示さない。こんなこと初めてだ。

 何度か話しかけることで、ようやく捕まえることが出来た下民に、神殿の場所を聞き出す。

 どうやら、街の中心に続くこの大通りを進めば嫌でも見つかるそうだ。


「ご親切に、どうもありが――」


 その下民は、私の言葉を最後まで聞くことなくどこかへ行ってしまった。

 そんな失礼な下民だけど、私は笑顔で見送る。ムカつくけど、場所を教えてくれたのは事実なのだから。頬がヒクヒクと動くのは仕方がない。


 あの下民の言う通り、道を暫く進めば神殿はすぐに見つかった。

 思わず見上げる程に大きくて立派な神殿。壁や柱には豪華な装飾が施された、私的には決して趣味が良いとは言えない大神殿。


 とりあえず、この世界に本当に私以外の女神が存在しているのかどうかをちゃんと確かめる必要がある。

 そして女神が実在するのなら、一度会って話をしてみたい。

 さっき森の街道であった下民は、女神レイニアに会えるかどうかは分からないと言っていたけど、この神殿なら何か手掛かりが掴めるでしょう。


「ん、よいしょ……っ」


 何よコレ。やたら重いわこの扉。

 ゴテゴテと装飾ばかりに拘るから、こんな重い扉になってしまうのだろう。

 そんな重厚な扉を、子供の身体の私なりに一生懸命押すことでなんとか開くことが出来た。


 神殿の中は、以外とサッパリしている。あの外見からは想像出来ない。

 内部を見回してみる。

 おそらく信徒と思われる下民と、これから信徒となるべく訪れた下民で賑わっている。

 そして奥には、明らかに他の下民とは違った装いの下民。

 ふむふむ。多分、あの下民が『神官』にあたる人物だろう。

 信徒にもいくつかの階級があるのは今も昔も変わっていないのだろうか。


 とにかく、女神レイニアについて尋ねるなら、あの神官の下民が良さそうだけど――なにか話しているわね。

 近付いて、様子を伺ってみると。神官と、信徒と思われる少女が話し込んでいる。


「そ、そんな!? どうして私が追放されなければいけないのですか……?」

「お前は、女神レイニア様の信徒に相応しくない。ただそれだけのことだ」

「ど、どうして!? 私のレイニア様への信仰心は今も昔も変わりません! お願いします! どうか、レイニア様に会わせてください!」

「馬鹿がっ! レイニア様の加護を得ても非力なお前をレイニア様は見限ったのだよ! 貴様のような娘の信仰心なぞ、いらないそうだ」


「……そ、そんな……レイニア様……っ」


 少女は力無くその場にへたり込んでしまった。


 あらあら。下民同士で何を揉めているのかと思えば。

 まさか信徒を追放してしまうなんて。レイニアという女神は、それだけ信徒に困っていないということね。

 過去の私でも、信徒を追放したことなんて無いと言うのに……。

 それにしても、これ程の信仰心を持つ下民を追放するなんて、正気とは思えないわ。ま、ここまでされてしまえば、この少女の中にあった信仰心も、綺麗サッパリ失われてしまうでしょうけどね。


「少しよろしいでしょうか?」


 ま、私の信徒でもない下民のことなんてどうでも良いわ。


「おや? これは可愛らしいお嬢さん。レイニア様へ信仰を捧げに? 入信の希望ですね?」


 さっきまでは、まるでゴミを見るかのような目で少女を見下ろしていたのに、私が話しかけた途端気色の悪い笑みで目を細める。


「いえ。ですが女神レイニアについて興味がありまして……少しお話を聞かせてもらえればと思い、声をかけさせてもらいました」


 朗らかな笑顔を崩さないように努め、そう口にする。

 するとこの神官は、ピクリと眉を動かした。


「レイニア様とお呼びなさい。たとえ今は信徒ではなくても、いずれは貴女もレイニア様を信仰するかも知れません」


「これは失礼しました」


 決して頭は下げない。

 しかし、偉大な女神でる私が、誰かを『様』で呼ぶなんて……それこそあってはならない話。


「可能であれば、私もお会いしたいですが……難しそうですね」


 チラリと、今も蹲り泣いている横の少女を見ながらそう言うと、神官は頷いた。


「えぇ。レイニア様は忙しく、気まぐれなお方。神殿に多大な貢献をもたらした信徒ならまだしも……そうでない者の前に降臨することはあり得ないでしょう」


「これ程までに、懇願していてもですか?」


 チラリとまた、横で泣いている少女を見ながら続ける。


 従順な信徒が、ここまで会いたいと懇願しているのに。そう言った意味も含めて問いかけたが……神官の答は変わらなかった。


「そうですか。それは残念なことです」


 やはり、最低でも信徒にならなければ女神レイニアに会うことは出来ないらしい。

 とりあえず直接会うことは諦めて、まずはもう少し情報を集めましょう。


 神官に別れの挨拶を交わし、引き返す。

 すると、パタパタと神殿の入り口から駆けてきた別の信徒とすれ違う。その信徒はそのまま神官の下へと駆け寄っていた。

 振り返らずに、聞き耳を立ててみる。


「神官様! これ、本日の寄付金です! お納め下さい!」

「おお! これはなんとも良い心がけです! 女神レイニア様も、より一層お喜びになるでしょう。きっと更なる加護を与えてくれる筈ですよ」

「本当ですか!?」


 などと和気あいあいと話している声が聞こえてくる。

 そして――


「貴様はいつまでソコでそうしているつもりだ! もうお前は信徒ではない! さっさとこの神殿から出て行け!」 


 泣いていた少女へ浴びせられた罵声も聞こえてくる。


 やがて少女は、涙を必死に拭いながらトボトボと私の横を素通りして神殿から出て行った。

 そんな彼女の後ろ姿を見て、ハッとした。


 そうだ、良いこと思いついたわ。


 思わず笑ってしまいそうだけどなんとか我慢して、私も少女に続いて神殿を後にしたのだった。


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