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2.アリサ、酒に酔う

 突然だが、私はお酒でかなり酔っぱらっていた。


「アリサさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、ほら」


 エリスさんが心配そうに声をかけてきたので、私は椅子から立ち上がって一本足でバランスを取って立って見せる。はじめは多少フラついたものの、きちんと真っ直ぐ立つことができた。


「ほら、見てください。だいじょーぶですよ」


 私は楽しくてコロコロと笑った。



 何でそんなことになっているかというと、今日はお家にフェアリーアイ時代苦楽を共にしてきた近衛兵の皆を呼んでホームパーティーをすることになっていた。


「こうやってアリサさんと過ごすのは久しぶりですね」


 そう言ったのはエリスさん。菖蒲色のロングヘアーは艶々で、容姿もそれに負けないほどの美貌の持ち主だ。彼には美人という言葉が良く似合うと私は思っている。ちなみにカイトとエリスさんは同期で心安い仲である。


「そうですね。なので今日は皆さんとゆっくりお話ししたくてお呼びしました」

「お元気そうで何よりです」

「ありがとうございます。皆さんもお元気そうで良かったです」


 次に話しかけてきたのはオークリーさん。こげ茶の短髪とそばかす、純朴で人当たりの良い人で、カイト含め今ここにいる近衛兵の中では1番の先輩だ。とても冷静な判断力を持っている。


「今日はアリサさんの手作り?」

「全部ってわけじゃないけど、私も手伝って色々作ったわ」


 タメ口で砕けた話し方をするのはお調子者でおしゃべり好きなレオンさん。赤い髪をオールバックに決めているが、小柄なせいか立ち居振る舞いのせいかこの中ではやや幼く見える。


「本日はお招きいただきありがとうございます」

「いえこちらこそ、御多忙の中お越しいただきありがとうございます」


 少し堅苦しい言葉遣いをするのはギルバートさん。藍色のボブヘアーに眼鏡がきりっと映える。クール系という感じで、目元の涼やかな美形だ。レオンさんとギルバートさんは同期で、一見正反対のようにも見えるが、なんやかんやと2人一緒に行動していることが多い。


「さぁ、始めようか」


 勿論パーティーにはカイトも参加している。私たちはお酒を手に乾杯をすると近況を報告し合いながらゆったりとしたペースで食事を楽しんだ。


「アリサさん、そういえばお酒が弱くなったって本当ですか?」

「はい。フェアリーアイだったからお酒に強かっただけみたいで、今はもう大して飲めません」


 その異変に気が付いたのは去年の春だった。戦争の後片付けも終わり一息ついた頃、カイトと2人で私の部屋で飲もうということになった。流石に店で飲むには色々と厄介そうだったのでそういう話になったのだ。

 ワイン1本を2人で開けたところで、私は何だかフワフワとした心地がしていた。


(何だろう?寝不足?)


「アリサ、顔赤くないか?」

「え、本当?」

「もしかして体調悪い?」

「そんなことなかったんだけど」


 カイトが額に手を当ててきた。


「熱はなさそうだけど、なかったってことは今は具合悪いの?」

「うーん、何かフワフワして頭が回らない。あと鼓動が早く感じられる」


 私がそう言うとカイトは目を丸くした。


「それ、酔っているんじゃないのか?」

「え?これが酔い?」


 確かに初めての感覚ではあった。


「私酔っているの?何で?しかもワイン半分で?」

「…もしかしたら君がお酒に強かったのはフェアリーアイの体質だったのかもしれない」

「ああ、なるほど」


 合点がいった。私の前のフェアリーアイのサリア様も大酒飲みだったらしく、「フェアリーアイの肝臓には浄化魔法がかかっているのではないか」と私は真剣に疑ったことがある。酒は言ってしまえば毒だ。毒を浄化する自浄作用がフェアリーアイは体質的に優れていたのかもしれない。しかし私はもうフェアリーアイではなくなったため、私の身体本来の体質に戻ったということなのだろう。


(父さんも母さんもお酒強くなかったからなぁ)


 母に関してはお酒を一滴も飲めない下戸だったし、父も晩酌をするほどお酒好きではなく、飲んでも少ししか飲まなかったからあまり強くなかったのだと思う。

 私は欠伸をしかけて噛み殺した。


「何だかちょっと眠たくなってきたかも」

「ひとまず水飲んで」

「うん」


 アルコールを分解するには水が必要である。お酒と同量の水を飲むのが理想と言われ、水を飲まずに酒を大量に摂取していると二日酔いになりやすい。なおそういった知識はあるが私はまだ二日酔いになったことがない。まぁなったって仕様もないのでカイトの言う通りに水を飲んだ。


「今後人前であまりお酒を飲まない方が良い」

「元々人前じゃあまり飲まないじゃない」

「そうだけど、お酒で眠くなる体質は危ないから。俺がいる時はまだ良いけど、いない時にお持ち帰りされたら困る」

「お持ち帰りってそんな世の男性をケダモノみたいに」


 私の身を案じてくれるのは嬉しいが、いくら何でもオーバーすぎる。私がお酒を飲む時は大体がパーティーなどで周りは皆紳士である。しかしカイトは真剣だった。


「知らないようだから教えるけど、男は皆紳士の皮を被ったケダモノだ。アリサみたいな可愛い女性が酔って顔を赤くして無防備に座って目をとろんとさせていたら、介抱にかこつけてお持ち帰りするに決まっているだろう」

「そんな、言い過ぎよ」


 カイトが肩を竦めた。


「アリサ、立って」

「どうしたの急に?」

「良いから」


 私が立ち上がるとカイトが近づいてくる。何をするのかと思えばお姫様抱っこをされた。ちょっと慣れ始めた自分が怖い。


「何、急に?どうしたの?」


 カイトは無言でベッドに私を運ぶ。優しく横たえられると、彼はそのまま私の上に重くのしかかってきた。


「ちょっ」


 声を出そうとしたら手で口を塞がれる。代わりにカイトが話し始めた。


「しっ、隣の部屋のリリアンに聞こえる。…今これで体重の半分くらい預けている。ここからこの態勢で抜け出せる?」


 手は動かせたが、足は完全に押さえつけられていて動かせなかった。腕の力だけでカイトの上半身を押してみるものの全く動かない。


(嘘、男の人ってこんなに重たいの?)


 まるでびくともしない。彼が鍛えているというのもあるだろうが、単純なウエイトの話、基本的に私より男性の方が重たい。それでこんなふうにのしかかられたりしたら本当に手も足も出ないのだ。


「華奢な君じゃ抜け出せないの、分かった?」


 私はコクコクと頷いた。


「酒は眠らせるだけじゃなくて判断力も鈍らせる。それは君の判断力だけじゃなく紳士の判断力も奪うだろうな。男は可愛いものは愛でたいし、無防備なものにはそそられる。そういうふうにできているんだ。だから酔いが深くなって正常な判断ができなくなると、どこの馬の骨とも知らないケダモノが指輪も気にせず君に声をかけ、君も君でフラフラとついて行ったりしたらこうなる可能性もある。あるいは熟睡していて気が付いた時にはこうなっているかもしれない」


 どうやらカイトは身をもってお持ち帰りされた場合の末路を教えてくれたらしい。口を塞いでいた手を外されたので私は彼に言った。


「分かった、教えてくれてありがとう。あなたの前以外ではこんなに飲まないようにする」

「うん、そうして。それから」


 カイトは私の耳元で囁いた。


「俺の鋼の理性にも感謝して」


 耳朶を軽く噛まれる。全身に軽く痺れが走った気がした。そんな私を置いて、カイトはさっとベッドから降りると帰り支度を始めていた。


「もう帰るの?」

「ああ、済まないが後のことはリリアンに任せることにする」


 多分彼は自分がケダモノになる前に退散したのだと思う。

 しばし思い出に耽っていたが、エリスさんの言葉で現実に引き戻される。


「良い飲みっぷりだったのに残念ですね」

「あははっ、飲みっぷりを褒められてもそんなに嬉しくありませんよ」

「そうなんですか?あのドラゴンとの飲み比べ対決は圧巻でしたけどね」

「皆騙されたやつ!懐かしい!」


 レオンさんが大笑いしていた。


「度肝を抜かれました」

「確かに、そんなこともありましたね」


 ギルバートさんとオークリーさんが口々にそう言って苦笑しているが、カイトは釘を刺してきた。


「もう絶対駄目だからな」

「分かっているよ」


 昔話にも花が咲き、楽しい時間と共に自然と杯は進んでいった。しかしそれが良くなかった。ここ1年は本当に色々と忙しく、プライベートでゆっくりと酒を飲んだのはカイトと2人きりの時だけだった。故に私はこの身体の酒との付き合い方をいまいちよく理解していなかった。加えて回りは皆酒に強い人たちばかりで、水を飲みながら抑えて飲んでいるつもりだったのだが、いつの間にか随分と飲んでしまったらしく、私は完全にできあがっていた。

私事ですが仕事をし始めたのでストックがそれほどありません。

そのため本編は毎日投稿できていましたが、こちらは毎週に切り替えます。ご容赦くださいませ。

その代わりと言っては何ですが、1話が長めのものが多いです。

次回は来週水曜日の12時台に投稿予定です。

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※「ら抜き」「ら入れ」「い抜き」などの言葉遣いに関しましては、私の意図したものもそうでないものもキャラ付けとして表現しております。予めご了承くださいませ。


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