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7.俺の年末年始

 正太が出勤していないかと時鶏に警察から連絡がきて、杉さんはすぐにピンときたそうだ。警察は事情を聴くだけというが、これは絶対に正太が何かしでかしたと。しかしその日の正太は仕事を無断欠勤し、スマホに連絡を入れても、電話には出ないしメッセージや留守電に対して一切反応しなかった。正太が全く捕まらないのだ。そうして事件から二日目の夕方、正太は『すみません、すみません』と言って頭を搔きながら時鶏へやって来た。


『女に絡まれて、離してもらえなくて』


 と欠勤理由を言ったらしいが、なん度連絡を寄越せと送っても無視を決め込んでいた正太を、杉さんはそう簡単に解放しなかった。


『女にスマホの電源を切れと言われたんだ。彼女怒ると怖いんだよ。許してもらえるまで丸一日以上かかって。ずっと二人きりだったんだ、それで監視されて公衆電話とかも使えなくて』


 言い訳だけは次々と口から出る。杉さんは警察が正太を探していると言ってみた。正太は『何もしてない、思い当たらない』と杉さんに対して繰り返したそうだ。埒が明かないと思った杉さんは、今ここへ警察を呼ぶと告げた。その途端、正太は座っていた椅子から立ち上がったので、逃げられる前に杉さんが正太をボコって取り押さえた。そして説教。正太はやっと口を割り、警察に連れていかれた。


『通報する奴なんていないと思ってたから、パトカー来てビビった。慎が捕まったなんて知らなかった。慎はなんにもしてないし助けてくれたんだから、警察に事情を話して終わりと思ってた。逃げたのは、有紗との間のこと(偽名使って嘘ついたこと、刃物沙汰になったこと)が警察にバレたら、他の女とのいざこざもバレるし、俺のやってることって実はやばいかもと思ったから』


 ということだ。そして津田も同日見つかり事情を聴かれた。


『包丁は閉店間際の百均で買った。殺すために買ったんじゃない。脅して私がどれだけショウヘイを慕っているか、ショウヘイへの本気度を見せたかった』


 言っていることがなんだかよくわからない。これっぽっちも理解できない。俺の頭が悪いからか? いや、頭が悪いのは津田だろう?


『正太の態度見てたら腹が立って、女を怒らせると怖いと思い知らせようと、包丁を突きつけてみただけ。テヘへッ!』


 だってよ! そうは見えなかったが! あの目はガチに見えたが!


 その後は杉さんがサクッと手続き等々に手を回してくれて、俺は晴れて自由の身になった。

 しかし杉さん今回の一件、立ち回りが有能過ぎないか?

 実は杉さん、警察には顔見知りがなん人もいた。


『どれだけ警察のお世話になると、あんなに警官と普通にお話ができるんですか?』


 と暗に杉さんの過去を疑うような言い方をしてみたら、杉さんから頭を叩かれそうになった。


『慎は俺をなんだと思っている?』

『見た目通りの人』


 と言ったら今度は本当に頭を叩かれた。俺も少し反省。今回の件、杉さんは恩人だ。ちょっとふざけ過ぎた。


 杉さんは年配の警察関係者に知り合いが多い。なぜか。

 それは杉さんのお父さんが若い頃、警察学校で柔道の教師をしていたからだった。それで杉さんは顔見知りの警官が多いのだそうだ。


 杉さんの本名は杉浦で、杉さんはあだ名だと俺は今回初めて聞いた。杉という苗字だと思っていた。柔道教師杉浦は杉さんそっくりの外見で、とっても頑固で短気な怖い人だったらしい。でも曲がったことが大嫌いな真っすぐな人で、正しくないこと見つけるとすぐに怒りを爆発させた。


 その杉浦家の子どもたち孫たち。なぜかほぼ全員問題児。お祖父さんはなん度も子や孫の尻拭いをさせられた。その度に大激怒。

 最も問題のない(と自称)杉さんでも、なん度も父親に捕まって説教された。問題児たちの中には張り倒された奴もいるらしいから(昭和時代の話だが)、まだマシな方なのだそうだ。

 そして元柔道教師杉浦は八十代後半でご存命。矍鑠とした爺様で、今現在、正太の行動に激怒しているそうだ。正太が『やばい』と言って怖がっていたのは、この人だった。正太は運動部だったし大学をやめるまでは比較的真面だったそうだから、今回初めて怒らせたことになる。血筋ということか?





 さて、丸二日見つからなかったこの二人。信じられないことにずっと一緒にいた。正太が杉さんに言った『怖い女』とは正しく津田のことだった。


 ここからは正太談。

 正太が時計が丘の駅周辺まで逃げた時、運悪くばったり津田と遭遇してしまった。正太は津田が他にも凶器を持っているのではないかと恐れ、回れ右をして逃げようとした。しかし逆方向に逃げれば時の沢駅に近づくことになり、警官に見つかるかもしれない。

 正太はどうしようもなく、仕方なく、本当に仕方なく、津田に頭を下げた。悪かった、許してくれ、心を入れ替える、真面目に頑張ると。そしていつか自分の焼鳥屋を持ってみせると夢を熱く語った。当然その場しのぎの嘘なのだが、津田はそれで正太を許してくれたらしい。


 はぁ? 何それ。津田あれだけ怒ってたのに、チョロ過ぎないか? あり得ないだろう。


 そして二人はスマホの通知やら何やらをガン無視し、ラブホ行ったりショッピングしたり食事したり金が尽きるまで遊んで、二日間二人だけで愛を確かめ合った。俺が警察で話を信じてもらえず困っていた時に、だ。


 俺はバイトにも行けず、クリスマスも楽しめず。街はいつの間にか年越し迎春気分。

 最悪だ。松が明けるとすぐに単位の試験もあるし。


 杉さんは二人から俺に金を払わせるという。それが二人のけじめだと。俺が受け取れるはずだったクリスマスバイトの給料、俺への迷惑料。当然二人からは『謝ったんだから、それでもういいだろう!』『私は悪くない! 全部正太が悪い! 意味わかんない』と抗議されたが杉さんは引かず、二人の親まで呼んで書類を作らせた。


 津田は一月から時鶏でバイトが決定。正太はバイトに戻る前にお祖父さんの下で、性根を叩き直すためにしばらく鍛錬させられる。


 そこまで考えて俺は溜息をついた。もう二度とあいつらには関わるものか。

 俺は重箱の中の硬くてしわくちゃな黒豆を一粒、口に放り込んで噛んだ。


読んでくださってありがとうございます。

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