悪魔達の宴会
うみねこが飛び交ったあとの潮風が、トビアスの金髪に絡みつく。海と空の青色を混ぜたような碧眼が眩しそうに細められた。
「いい天気だ。絶好の旅日和!」
長期休暇を利用して、彼は九州への旅行を計画していた。大きなスポーツバックとカラフルに装飾されたスケートボード。海に似つかわしくない格好だが、お構いなしにスケートボードに飛び乗る。タイヤが空転し、スケートボードが動きを止めたあと――なにかが爆発するようにトビアスが射出された。
トビアスの背中に生えた悪魔の羽根が、海の風を受けて気持ちよさそうにたなびく。高度を調整しつつ大海原を眼下に進む彼は、まさに悪魔としての生活を謳歌していた。スポーツバックから携帯型通信端末を取り出す。慣れた手つきで端末を操作すると、動画を取り始めた。
「悪魔系Vチューバーのトビアスです。今日は僕の友達がいる佐賀へ向かってます。呼子のイカを食べようって約束してて、すごく楽しみです」
コメントが大量に書き込まれ、滝のように流れていく。
「ほら見て、海。綺麗でしょ。あっ、クジラ!!」
噴射された潮をまともに浴びたトビアスが面白そうに笑う。
「あはは、びしょびしょだ。可愛いクジラでしたね! 美味しそう」
発言をいじる書き込みや、食欲の旺盛さに驚くコメントを眺めつつ、画面の向こうへと語りかける。
「佐賀は穏やかでいいところです。皆さんもぜひ遊びに行ってみてください! それじゃあね! バイバイ!」
最後に九州の海と山を映し、動画を撮り終わる。
「はぁ、楽しかった。日常のささやかな楽しみを共有できるなんて、いい時代になったなぁ」
彼の澄んだ碧眼が九州の陸地を捉える。海岸で待つ友人たちは、すぐそこに見えていた。高度を落とし、海岸の砂を巻き上げながら弧を描きつつ着陸する。
「ハル教授に、ヨノン先生。元気だった?」
二人の悪魔がそれぞれの笑い方で答える。
「久しぶりね、トビアス。また背が伸びたかしら」
「相変わらず荒っぽいな、お前は」
スケートボードを手にしたトビアスが、気の抜けた笑顔を見せる。
「僕は二人のおかげで育ったようなものだからね」
それよりイカ食べたいな、イカとはしゃぐトビアスに、年長者二人組は苦笑しつつ顔を見合わせるのだった。