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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
8/23

…俺、凹み祭り…わっしょい…わっしょい…わっしょ

「今日は初日だから訓練はこのあたりにしよう。

 その紙の棒はわれが愛情込めて作ったから各自大事に保管しておくように。

 ソファはこのままで良いぞ。

 5月といえどこの時間になるとこの辺りは少し冷えるな。

 1階の暖炉に薪をくべてコーヒーでも飲むか。」

「賛成だよ。」

「私も賛成~!

 四郎、もう着替えても良い?

 また今度はシャワーじゃなくてお風呂にゆっくりつかりたいんだけど。

 この戦闘服も泥とかついてるから洗いたいな。」

「ああ、構わんぞ、だが、戦闘服は明日も朝着るからな。」

「うん、でも、洗濯しても良いでしょ?」

「構わんが…朝までに乾くのか?」

 「うふふふ、今は乾燥機と言う物があるのよ。

 さっきランドリーを見たけど大きい乾燥機はちゃんと動くようね。

 みんなの分も洗って乾燥機に入れるから今日着た服は全部あとでランドリーにもって来てね。」

「うん判った。」

「便利な世の中になったものだな。

 それじゃ、われもお願いしようかな。」

「オッケー」


真鈴がナイフと紙の棒を持って階段を下りて行った。

四郎と俺が1階に行こうとした時、四郎が俺に顔を寄せた。


「なあ、彩斗、1階に大きな風呂があるだろう?」

「うん、有るけど。」

「われはあれに入りたいなぁと思ったのだが、何やら色々なスイッチがあって使い方が皆目判らん、教えてくれるか?」

「ああ、お安い御用だ。」


俺達が階段を下りて2階の廊下に出ると、真鈴が人形がある部屋の前で人形を覗き込んでいた。


「あの人形、もう話さないのかな?」

「あの死霊の女の子も慣れない憑依をしたから疲れたのであろうと思うぞ。

 今日は寝かせてやれ。」


人形は椅子に座って背もたれにもたれかかり手足を投げ出したままの態勢でいた。

真鈴は人形に近寄りタオルをかけてやった。


「おやすみ、また明日ね。」


俺と四郎は顔を見合わせてほほ笑んだ。

そして四郎は着替えを持ち、俺と一緒に1階のでかいジャグジー付きの風呂があるバスルームに行った。


「四郎、今お湯を溜めている所だよ。」

「うむ、凄い勢いでお湯が出る物だな。

 あっという間にお湯がいっぱいではないか。」

「そうだね、それで、お湯が溜まると勝手に止まるから、後はそのまま入れば良いんだよ。」

「なるほどそうか…彩斗このスイッチは何だ?」


四郎がジャグジーのスイッチを指さした。


「ああ、これか。

 これはジャグジーと言ってこのスイッチを入れてこのダイヤルを回すと…」


大量の泡が出て湯船のお湯がごぼごぼと派手な音を立てた。


「なんだこれは!

 まるで百人もの人間が中で屁をこき続けているようにあぶくが出ているぞ!」


四郎が顔を引きつらせて叫んだ。


「あはは、四郎泡風呂と言ってこのあぶくで体中をマッサージして血行を良くして疲れを取ってくれるんだよ。

 四郎、気持ち良いから試してごらんよ。」

「うむ、トイレについている尻の穴を洗う奴みたいな物だな。

 ぜひ試してみよう。」

「俺はキッチンでコーヒーの用意をしてるから判らない事があれば聞いてよ。」

「うん、判った。」


キッチンでコーヒー豆を挽いているとバスルームの方から四郎の声が聞こえてきた。


「何だこれは~!うひゃひゃひゃひゃ!おおほほほほほ!なんだこれは~!んぎぃいいいいい~ギボジイイイイイから~!」


いったいどんな顔をしてあんな声を上げているのだろうか?

俺はついさっきの訓練の時の四郎の顔と今ジャグジーで気色悪い歓喜の叫びをあげている四郎の顔を思い浮かべて思わず笑いが込み上げてきた。


俺も2階で風呂に入り、上下をスウェットに着替えてスリッパを履いて寛いだ姿になって一息つくと、着替えをランドリーに持って行き洗濯機横のバスケットに放り込もうとした。

ふと見ると真鈴の戦闘服の下から真鈴のブブブブブラとパパパパパンティーが少し顔をのぞかせていた。

ぎくりとして俺は固まった。

何も変な事をするつもりは無いが、思わず周りを見回してしまう。

目を凝らしてブブブブブラとパパパパパンティを見つめてしまった。

大学を卒業してから、正確には大学一年の6月から今までおよそ11年の間一切彼女がいない俺にとっては…いかんいかんと頭を振り俺は真鈴の服の上に自分の服をどさりと置いてキッチンに向かった。

真鈴がお湯を沸かしていた。


「あら、彩斗、今コーヒー淹れるよ~」


真鈴もパジャマ姿で寛いだ姿になっていた。


「あのさぁ、真鈴…」

「なあに?」

「洗濯だけど俺と四郎の服とか…真鈴の服と一緒に洗って…大丈夫なの?」

「え?何の事?」

「…いや、真鈴の下着とかも一緒に洗うと…」


真鈴がじっと俺の顔を見つめた。

真鈴の顔が徐々に赤くなってゆく。

俺はいたたまれない気持ちになった。

ひょっとして俺はデリカシーが無いセクハラ発言のような事を言ってしまったのではなかろうか…

真っ赤な顔をした真鈴がブッ!と吹き出し、笑い始めた。

真鈴が腹を抱えて笑っている。


「あ~!おかし~!ひゃひゃひゃひゃは!」


俺は唖然として腹を抱えて笑っている真鈴を見た。


「彩斗、バカじゃねぇの~!

 下着なんて只の布切れじゃん!

 それに洗濯機に入れて洗剤入れて洗うんだよ~!

 そんなん気にするわけ無いじゃ~ん!

 あんた、それ、中学生のチェリー坊やの発想だよ~!

 きゃはははは!

 バカじゃん~!」


ひとしきり笑って腹を抱えて俯き、真鈴は笑いの余韻で肩を震わせていた。

そして、ゆっくりと顔を上げて俺を見た。


「彩斗、あんた、私の事を処女処女って言うけど、あんた実は童貞なんじゃないの?

 だから時々おこちゃまみたいな事を言ってるんでしょ?

 私は私の下着が彩斗や四郎の下着と洗濯機の中で揉みくちゃになっても全然気にしないよ~!」

「お、俺は童貞じゃねえよ!

 俺は童貞じゃねえよ~!

 俺は、俺は…」


そう言いながら俺はなぜか涙が出そうになって自分でも情けなくなった。

確かに俺は童貞ではない。

しかし、ここでだけの話だが決して四郎や真鈴には口が裂けても言えない事であるが、…俺の生涯で女性とセックスしたのは…全部で3回だ…高校生の時に教育実習生で来ていた女子大生と1回、そして、大学には行った時にゼミの新人歓迎コンパの夜に先輩の女性と1回。

後は宝くじを当てて…軽蔑しないで聞いて欲しいがデリバリーヘルスで選んだ写真と別人の…鯨…鯨のような女性と押しつぶされるようなセックスを1回だ。

そう、それが俺の30年余りの人生の性体験の全てなのだ。

うううううう…う、うううう、本当に涙が出そうになって来た。


「あ~良い風呂だった。

 ん?君らどうした?

 うむ、なるほどなるほど、あはは。」


やはり寛いだスウェット姿でやって来た四郎が暫く俺達を見て納得した笑い顔になった。


「あら、四郎、さっき大きいバスルームから変な笑い声が聞こえたけど、あれ、四郎なの?」

「うむ、ジャグジー風呂に入ってあまりの気持ち良さにわれを忘れてしまった。」

「へえ~ジャグジー良いね~今度皆で入ろうよ。

 もちろん水着着るけどさ。」

「いやいや、真鈴、あの気持ち良さは全裸じゃないと味わえないぞ。」

「あら、私は構わないわよ~!」


真鈴が横目で俺を見ながらへらへら笑いを浮かべた。

不覚にも真鈴の胸がジャグジーの泡の圧力でぶるぶる震える情景が目の前に浮かんでしまった。

…嬉しいけれどとても悔しい。


「もう…暖炉に薪をくべてコーヒー…飲もうよ…」

「ああ、そうだね。

 彩斗、史郎、私コーヒーとおやつの準備するから暖炉に火を入れてきてよ。」


俯いてこくりと頷いた俺と四郎は広間に向かった。


「何があったか、まぁ、少しは予想が付くが彩斗、あまり気にしない方が良いぞ。」


四郎がやさしく俺の肩を叩いてくれた。


「うん、四郎、ありがとう…ところで四郎はどれくらい体験してるの?」

「え?何をだ?」

「…」


広間に来て暖炉の前に来た時にやっと俺は四郎に訊く事が出来た。

薪を少し積んで火付け用の麻縄をほぐす四郎に俺は尋ねた。


「あ、あの、四郎はその女性と…」

「ん?女性と何だ?」

「四郎は女性と…」

「ちょっと待て彩斗、ライターを2階に忘れて来たな…おっここにファイアスターターがあるぞ、YouTubeでキャンプをしている女性が使っていたな、これをこう擦ると、おお!火花が出た!これをほぐした麻縄に…ん?何かわれのスマホが鳴いているぞ、彩斗、火を点けて置いてくれるか?

 使い方、判るよな?」

「うん、判るよやっておくよ。」

「そうか、頼むぞ。」


四郎はそう言うと暖炉に面したソファに腰を下ろし、スマホをいじりだした。


「何だ?おお!これはlineだな。

 使い方はっと…」


俺はファイアスターターを擦り、ほぐした荒縄に火花を飛ばしたが中々火が点かない。


「ええと…」

「四郎、今までに女性とその…セックスしたことある?

 何人くらいとしたことある?」


俺はファイアスターターを何度も擦りながら早口で四郎に尋ねた。


「何?それは女性と…つまりあれをした回数か?

 はは、彩斗は変な事を訊くな。」


そう言いながら四郎は苦労してラインのメッセージを開いた。


「おお、これは『みーちゃん』のところで働いている…ユキちゃんからだ…あれ、こうすれば良いのだな?…われはセックスした回数などいちいち覚えていないぞ。

 まぁ、お付き合いした女性は…人間なら6人、悪鬼なら1人だな。」


俺は一所懸命にファイアスターターを擦るが全然火が付かなかった。


「おまたせ~、」


そう言いながら真鈴がコーヒーのセットとスーパーで買ったお菓子を載せたワゴンを押してきた。


「あら?まだ暖炉火を点けてないの?

 もぉ~彩斗…私に変わりなさい。」


真鈴は俺からファイアスターターを取り上げて俺を押しのけると何度か擦った。

俺がやる数倍の火花が飛んであっという間にほぐした麻縄に火が付いた。

真鈴は手際よく細木を差し入れて火を大きく育て、あっという間に薪に火がついて燃え出した。


「さてと、ほら、彩斗ソファに座んなさいよ。

 あれ?四郎何?line?へぇ~ここもアンテナ立つんだね…うわ!ユキちゃんからじゃないのよ!

 四郎、やる~!」


俺は四郎からスマホを取り上げて覗き込む真鈴の代わりに3人分のコーヒーをカップに注いだ。


「お菓子は各自適当に取ってね…ユキちゃんからのlineね、どうせお店来てありがとうみたいな営業でしょ?」

「ううん、彩斗、かなり凄いわよこれ、四郎、私が読んでも良い?」

「別に構わんぞ。」

「サンキュー、ええと昨日の夜はとても楽しかったです。おばさんのお店を手伝ってから四郎さんのように面白い人にあったのは初めてです…ここでハートマーク!ええと、…四郎さんが歌った曲は本当に感動しました。

 私、四郎さんが良ければ色々歌を歌ってほしいです…なんか歌のリクエストがいっぱい入ってるわよチャゲアスで「始まりはいつも雨」「ラブソング」他にも色々…四郎覚えなきゃね。ええと…プッ!あはは!」


真鈴が笑い転げた。


「真鈴どうした?」

「ええと、これ読んでも良いかな?良いよね?読むよ!

 あの、真鈴さんは…プッ…四郎さんの話し方は少し変だけど私は大好きです。真鈴さんは四郎さんの彼女さんですか?もしも違うなら四郎さんは今お付き合いしている女性はいますか?変な質問でごめんなさい。今聞くのは怖いのでまたお店に来た時に教えてください。待っています…だってさ!なんかこれ、マジな感じだよね~!

 四郎、私達がこれ読んだのは絶対ユキちゃんには内緒にしてあげなよ。

 この、モテモテ吸血鬼め~!」

「うむ、判ったぞ。

 真鈴、少し落ち着け。

 さて。コーヒーを飲もうではないか。

 彩斗、さっきから随分、たそがれて…この言い方で良いよな?たそがれてないか?」

「…ううん別に。

 このコーヒー美味しいね。」

「うむ、一日頑張った後のコーヒーは格別だな。」

「そうね~、暖炉の前でコーヒー飲んで美味しいお菓子は最高よ!」


恐らく四郎を復活させてから一番落ち込んだ俺に気が付かないで四郎と真鈴は和やかな会話をしていた。

恐らく四郎は俺が酷く落ち込んでいる事に気付いているだろうが、気が付かない振りをしてくれている優しさにも更に傷ついていた。

俺はユキちゃんがちょっと好きだったのだが…うう、うううう、ううううう~。

彼女もいない、エッチも生涯で3回しかしていない、童貞みたいな妄想をする、ろくに薪に火も付けられない。

ううう、ううう、ううう、ううううう~。






続く




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