人形はしゃべるし四郎の料理は美味しいし屋根裏ではナイフの使い方をギャラリー付きで…
俺と真鈴は椅子に座った人形と四郎を交互に見つめた。
ニヤニヤしながら人形を見つめる四郎。
ビスクドールを模写して現代の素材で作られた、あどけなく、そして見ようによってはほんの少し怖い感じの精巧に顔を作られた人形。
「なんだ、君らも聞いた事くらいあるだろう?
死霊が気に入った人形を住処にするくらいありふれた事だろうに。」
「まぁ、今の俺達にとってはありふれた事…だろうと…思うけど。」
「四郎…まさかこうなる事を知っていたの?」
「まさか、こうなる事も有るかな?とは、多少は思ったが……な。」
「な、じゃないわよ~!
こうなるかも知れなかったらもっと可愛いクマのぬいぐるみとかドラえもんとかにしたのに~!
可愛いけどちょっとリアルすぎて怖いよ~!」
「真鈴はオカルトを研究していると言っていたが、何をそんなに騒ぐのだ?
格好の研究材料じゃないか、やはり…プッ…処女の乙女は怖がりなのかな?」
「だから処女じゃねぇってばよ……」
「でもさぁこの部屋や屋敷の感じとこの人形は雰囲気が似合っているよね。」
俺が言い、部屋の佇まいとアンティークの椅子と人形がマッチしていて、一枚の絵のようで見とれてしまった。
「…確かに良くマッチしてるわねぇ…我ながら違和感が無い人形を選んだのかも…」
「真鈴が人形を選ぶときにこの屋敷の雰囲気が頭の中にあったのだろうな、それともこの少女の死霊とどこかでシンクロしたのか…どちらにしても気に入ってるようだから良いじゃないか。」
「でも…本当に死霊の女の子はこの人形気に入ってるのかしら…」
小首をかしげている人形の口がまた開いた。
「ア…ア…アリガトウ…マリン…ダイスキ…」
真鈴が口に手を当ててフワァ~と声を漏らした。
その顔が赤くなっている。
「え?え?何?…彩斗、四郎、今の聞いた?可愛い~!可愛い~!可愛い~!私も好きよ~!大好き~!」
真鈴が真っ赤になった顔で両手を口にあてて女子高生のように小刻みに飛び跳ねて足踏みをした。
真鈴の恐怖感は一瞬にして粉々に吹き飛んだようだった。
人形は少し疲れたのか首を椅子の背もたれに持たれて膝の上に置いた手を体の脇にだらりと下げ、全体的に力が抜けたような姿勢になった。
「少し疲れているようだな。まだ慣れていないのだろう。
今はそっとしておこう。
さて、われは料理を作るぞ、君らは汗を流してこい。
この部屋のドアは開けておこう。
部屋の前を通る時は軽く挨拶しておけよ。」
そう言って四郎はキッチンに戻っていった。
俺と真鈴もそれぞれの部屋に戻り替えの下着を用意してシャワーを浴びる事にした。
ふと、もう一度人形を見ると人形におぶさるようにして人形のような服を着た5~6歳くらいの奇麗な顔立ちの女の子が椅子に座っているのが見えた…ような気がした。
俺は目をごしごしこすってもう一度見たが、女の子の姿は見えなかった。
気のせいかな?俺はシャワーを浴びに行った。
真鈴にお洒落なメインのバスルームを占領されたので1階のジャグジー付きの豪華なバスルームか2階持ち主の主寝室にあったユニットバスを使うか迷ったが、ささっと済ませるために2階のユニットバスでシャワーを浴びる事にした。
シャワーを浴び、替えの下着を着てあちこち土や葉っぱが付いている戦闘服をバサバサと振って大まかに汚れを落とし、また着込んだ。
頑丈なブーツを履く時にリラックスしたくてスリッパに履き替えようかと思ったが、四郎のまだ今日の訓練は終わっていないと言った言葉を思い出してやはりブーツを履いた。
1階のダイニングに降りて行くとキッチンから何やら香ばしい豊かな香りが流れていた。
正直言って体を酷使して食欲があまり、どころか全く無いけれどキッチンから流れてくる料理の匂いを嗅いで少しは食べられそうだと安心した。
「おお、彩斗、もうすぐ出来上がるから少し待っていろよ。」
「はぁ~い。」
俺の返事を聞いて四郎の笑い声が聞こえてきた。
「随分お疲れのようだな!
だが食べる事も訓練だから残すなよ!」
「はぁ~い。」
やがて真鈴もダイニングに入っていてどっかりと椅子の腰を下ろした。
「う~正直言ってあまり食欲無いわ…ん?何?何か良い匂い。」
「四郎が作っている料理の匂いだよ。」
「美味しそうな匂いね~少しは食べられるかも。
ところでシャワー浴びて化粧落としちゃった。
また化粧するの面倒くさくなったけど…どう?彩斗、私の顔変じゃない?」
そう言って真鈴が俺に顔を突き出したけど、まったくどこが変なのか全然判らなかった。
何と言っても真鈴は大学3年生でまだ21か22歳なのだ。
「う、うん、全然問題無いと思うよ。」
「本当に?」
「うん、ほんとに大丈夫だよ。」
「よし、出来たぞ~!」
キッチンから四郎の声が聞こえてきて大きな皿にご飯山盛りそしてカレーライスのように黒いシチューのようなものがかけられた物を持ってきて俺達の前に置いた。
サラダが入った大皿とサラダを取り分ける小皿も俺達の前に置かれた。
「四郎、これはなんていう料理?」
「うむ、われが農園の黒人の家に呼ばれた時に食べた物だ。
黒インゲン豆と野菜、豚のホルモンと書いてあった肉を入れて煮込んだ物だ。」
「美味しそうね。
なんか聞いた事があるけどソウルフードってこういう物なのかしら?」
「ソウルフード…魂の食事…我の頃にはそんな風に呼んでいなかったな、名も無い黒人料理だが。」
「正直食欲無いけどこれなら食べられそうね。
でも量がちょっと多いけど…いただきます。」
俺達は食事を始めた。
肉と豆と野菜を煮込んだ物は非常に美味しかった。
絶妙な塩加減とほんのり辛いスパイスが凄くマッチしている。
「うん、美味しいよ。
四郎、これに使ってるスパイスって…」
「うむ、ケイジャンスパイスだぞ。
われながら調合具合が上手く行っているな。」
「本当、美味しいよこれ!」
俺も真鈴も食欲が無いと言っていたが、いざ食べ始めると食が進んだ。
「旨いと言ってくれるのは嬉しいが、あまり急に詰め込むと戻してしまうかも知れないからゆっくり食べたほうが良いぞ。」
「大丈夫大丈夫!四郎、食べるのも訓練だって言ってたじゃな…んぐ!」
真鈴のほっぺたが急に膨らんだ。
うわ!こいつ!戻しちゃうの!?と俺と四郎が身構えた。
真鈴は目を白黒させて顔が青ざめたが口を両手で抑え込み、また顔が赤くなり、ごくりと俺の耳に届くような音を立てて口の中の物を飲み込んだ。
昔、ルパン三世の映画で見た血が足りねぇとか言ってバカ食いするルパンみたいな感じだった。
呆れて見ている俺と四郎に笑顔を向けて大丈夫大丈夫と言いながら真鈴は食事を続けた。
やがて俺達は食事を終えて皿を洗いゆったりと椅子に腰かけてタバコに火を付けた。
「四郎。まだ訓練するんでしょ?
外に出るの?」
「いや、屋根裏に行こうと思う。
あそこの死霊達もわれらの訓練に文句は言うまいと思うぞ。
10分後に屋根裏に集合だ。
われは少し準備するものがあるからな、一応君らのダマスカスナイフを持ってこい。」
俺と真鈴が屋根裏に行くと、部屋の隅に置いたテーブルに紙を丸めた30センチほどの棒を置いている四郎がいた。
「よし、来たな、君らのナイフはテーブルに置いておけ。
さて、これからごくごく初歩の初歩、基本中の基本、ナイフでの戦い方を教えるとしよう。
本来は素手での格闘戦を教えたいがその時間は無いし、悪鬼との戦いを考えると武器を持たない戦闘は初めから絶望的だからな。
もっとも、ポール様に教わった相手の力を受け流して尚且つその力を利用して相手を倒す戦法もかなり有効だが、それを習得するのはわれでも数年掛かった。
だから初めはナイフでの戦い方から教えよう。」
「はい!」
「はい!」
四郎がちょっと家具類が置いてある方向を見て苦笑いを浮かべた。
「元気があるのは良いが、ここではあまり大声を出さなくてよろしいぞ。
家具から頭を出してこちらを見物していた死霊達が君らの返事の大きさに驚いて頭をひっこめたぞ。」
「それ、やばいわね、ここで練習しても大丈夫なの?」
「大騒ぎしなければ大丈夫。
死霊達も興味を示しているからな。
ほど良い余興を見ているような物だろう。」
「はい。」
「はい。」
今度は俺も真鈴も普通の声で返事をした。
「うむ、宜しい。
まず、この前狼人との戦いを思い出して欲しいが思い切りの接近戦だったな。
本来は多少離れた所から弓矢や投げ槍、ピストルやライフルで攻撃するのが一番楽なんだ。
間合い、と言うか、相手の攻撃が届かない所から攻撃できれば一番良いしこちらも被害を受ける確率は減る。
ナイフを持って相手の間合いに入り戦う事は非常に難易度が高い。
だが、この時代ではそれが出来る確率は絶望的に低い。
槍や日本刀でさえ持ち歩くのはリスクが高いしな、悪鬼を討伐するより先に警察に捕まってしまうかも知れん。
ナイフでの接近戦。
これは非常に難しく、危険な事である事は覚えておけ。」
「はい。」
「はい。」
「うむ、ところでナイフで戦う際に一番注意しなければならない事を前に言った気がするのだが、覚えているかな?」
「はい。」
「彩斗、答えて見ろ。」
「え~と、自分を切ったり刺したりしない事だと思います。」
「うむ、宜しい。」
「自分や仲間もね。
自分や仲間を刺したり切ったりしない事。」
「真鈴、満点の答えだ。
我々が今持ってる一つの利点は戦う時に味方がいる事だ。
個々の戦う力が弱くても合計すれば悪鬼以上の力がある。
3人で連携して戦えば悪鬼に勝てる可能性が上がるぞ。
…だが、この時代では悪鬼も組織化されているかも知れんがな、だが、1人で戦うよりはずっと勝てる可能性が上がる。
そのうちに連携して戦う方法を教えるが、まずは…」
四郎がテーブルの上に置いてある紙を丸めた短い棒を俺と真鈴に投げ渡した。
そしてもう一本を手に取り紙の棒を右手に持って足を肩幅の広さにして少し腰を落とし、両手を緩く前に突き出した。
「これが基本的な構えだな。
この時体に力を入れてはいけないぞ。
変に力が入った筋肉は急な動きに対応できない。
普段はリラックスしているのだ。
また、ナイフの握り方だが最初に人差し指と親指をしっかりとナイフの柄に巻き付けてそれから中指薬指小指と順番に絞るように握り込め。
指かけには人差し指と親指をしっかり巻きつけろよ。
ナイフの握り方もろくに知らない阿呆な奴が良くやる失敗は相手にナイフを刺した時握りが外れて手が前にずれ、自分のナイフの刃で手を深く切ったりする事だ。
実際に大型動物や人間を刺した事が無い人間には判らないだろうが、生き物の体は固い、様々な硬さの物が詰まっていてその感触に驚くぞ。
骨はともかく、心臓などでもその筋肉は固くてナイフの刃を跳ね返したり押しのけたりして意外に激しい手ごたえを感じる事がある。
その時に握りがしっかりしていないと自分の掌でナイフの刃を握りしめる羽目になるぞ。
ナイフはしっかりと握り込めよ。
そして、目からも力を抜け、相手を見つめるな、相手の手や足体の態勢顔や目の方向表情などすべてを視界に入れて置け、じっと一点を見つめてくる奴は扱いやすいのだ。
そういう視界が狭くなっている奴は好きなだけ奴の視界の範囲の外から攻撃できるからな。
広く視界を保って相手全体の動きに注意を払え。
できれば相手の周囲も視界の中に入れて置け。
必ずしも1対1の戦いだと思わない事だぞ。」
俺と真鈴が四郎を見ながら紙の棒を手に取って構えた。
「うん、もう少し腰を落とせ両手はもう少し間隔を広げて…柄はしっかりと握り込んでいるか?…ん?ちょっと待ってくれ。」
四郎がそう言うと家具の方を見て、それから家具がある方に歩いて行った。
「何かしら?」
「何だろうね?やっぱりうるさいのかな?」
「死霊からうるさいってクレーム出されるのも…」
四郎は家具の方で何事か小声で話し、そして苦笑いを浮かべ頭を振りながら俺達の方に歩いてきた。
「彩斗、真鈴、ちょっと手伝ってくれ。」
「四郎、どうしたの?」
「死霊達がソファに座って見物したいんだそうだ。
われ達をな。
暇を持て余しているのだそうだ。」
俺と真鈴が少しずっこけそうになったが四郎の指図で家具を動かし、2つのソファを俺達の方に並べて置いた。
「ふむ、これで良いかな?
いやいやお安い御用だ。
さあ、練習に戻ろう。」
「四郎、何人ぐらいいるの?」
真鈴の問いに四郎がソファの方を見た。
「ソファ1つに3人づつ座ってるな。
上品な老婦人、くたびれたスーツに古びた勲章をいくつもぶら下げた老人、アメリカ国旗の柄の水着を着た中年の婦人、もうひとつには大工の棟梁のようなおじさん、その横には着物に白いたすきをかけた小太りで中年の婦人、白衣を着て分厚い眼鏡をかけた男。
ソファのひじ掛けに子供が1人づつ1人は半ズボンに汚れた下着を着た少年、あれは…幼稚園と言うのか?その制服を着た丸顔の少女、あと箪笥の上に淡いブルーのワンピースを着て麦わら帽子をかぶっている若い女が腰かけているぞ…
ま、見えるだけで9人かな?」
「え…そんなに見てるの?なんか、恥ずかしいと言うか…緊張するな。」
「彩斗、ギャラリーがいて良いじゃないか。」
「そうね、まぁ良いんじゃない?」
「さて、構えのチェックをするぞ。
もう一度棒を持って構えるんだ。」
俺達が再び四郎の前で棒を構えた。
「よしそういう感じだな。
この時注意する事は体の前で両手を交差させるな。
ナイフ戦闘で意外に多いのはナイフを持った手で自分のもう一つの手を切りつける事なんだ。
そんな間抜けな事は無いと思うかも知れないが、われは実際にナイフで自分のもう片方の親指を切り落としそうなくらい切ったバカを見ているぞ。
その他利き手でない方の手の甲に無様な傷をつけた奴は良く見たぞ。
ナイフを持つ手と同時にもう片方の手の事を常に気配りしておけ。
もう一つの手はいざと言う時に相手の目を抉り出したり耳を引きちぎったりと有効に使えるからな。」
「はい。」
「はい。」
四郎の教えを聞きながらも俺はソファやタンスに腰かけてこちらを見ている死霊達が気になってチラチラ見てしまう。
真鈴も同じようだ。
「彩斗、真鈴、ギャラリーの事は気にするな!」
四郎の一喝が飛んだ。
「非常に危険な戦い方をいきなり教えてるのだ。
ちょっとのことで気を取られるな。
実戦でもそうだぞ。
こんなことで気が散ると悪鬼の他愛もないフェイントに引っかかって殺されるぞ。」
「はい。」
「はい。」
その後俺達はナイフの突き出し方、引込め方、相手の急所の狙い方などを四郎に教えられた。
その際にもあくまで動作に入る直前まで力を抜くようにしつこく言われた。
俺も真鈴も汗をかいて息が荒くなってきた。
「ふむ、少し休憩しよう。」
四郎がそう言うとテーブルの水筒から水を飲み、俺と真鈴も水を飲んだ。
気が付くと屋根裏に来てから2時間も過ぎていた。
「どう?四郎?
かなり一生懸命練習したけど、少しは悪鬼に傷を負わせるくらいはできるかしら?」
「俺達、かなり頑張ったよね?」
「うむ、じゃあ試してみるか?」
四郎が俺と真鈴のダマスカスナイフを手に取って渡してきた。
「本物のナイフを使うぞ。
間違っても自分を切るなよ。
どっちからやるか?」
「あたしが行くよ!」
「よし、真鈴からだな。
ナイフを抜いてこっちに来い。」
四郎が紙の棒を持ち後ろに手を組んで屋根裏部屋の中央に立った。
「真鈴、今我は変化していないが、本気で切り掛って来い。
少しでも我に傷をつけられたら今日の訓練は終了だ。
ただ、われも気が向いたらこれで反撃するからな。」
四郎は紙の棒をポンポンと叩いた後、また後ろ手に手を組んだ。
「本当に良いの四郎?」
「なに、仮に切られてもすぐに治るから大丈夫、遠慮せずにかかって来い。」
鞘から抜いたナイフを構えた真鈴が四郎に近づいてゆく。
四郎は余裕の笑みを受かべて突っ立っていた。
真鈴がじりじりと間合いを詰めて円を描きながら四郎の周りを廻り始めた。
「そうそう、直線的な動きは読まれやすいからな。
真鈴、その調子だ。
円を描く事は良いぞ。」
四郎はそう言いながらも真鈴が後ろに回り込んでも体や頭の方向は変えずに、ただ突っ立っていた。
真鈴が突進して四郎に切りかかった。
四郎は余裕の表情でひょいと躱した。
真鈴のバランスが乱れて体がふらついた。
「攻撃した後の体のバランスも大事だぞ。
真鈴、どんどん来い!」
真鈴が本気で突きや切りかかる動作を繰り返したが四郎は笑みを受かべて躱し続けた。
足を狙って下から切りかかっても四郎はひょいと飛んで難なく躱した。
真鈴の息が荒くなり、額には汗が浮かんでいるが、四郎は余裕の表情を浮かべ、手は後ろに組んだままだった。
真鈴が渾身の気合を入れて四郎の体にナイフを突き出したが四郎はそれを簡単に避けてつんのめった真鈴の尻を紙の棒で思い切り叩いた。
「いた~い!」
そう叫んだ真鈴はうつ伏せに床に倒れてゼイゼイ息を切らしていた。
「ふむ、今日は真鈴はこのくらいかな?
自分の体を切らなかった事は褒めてやろう。
次は彩斗だな、掛かって来い。」
俺も鞘から抜いたナイフを握りしめて四郎の前に立った。
「そうそう、彩斗その調子だ。
ナイフの握り方は覚えたようだな。
だが、構えは少し硬いぞ。
力を抜け。」
四郎の余裕の表情が憎らしく感じ、俺は死に物狂いで四郎に切りつけたがすべて余裕で躱され、延々と無様なダンスを踊らされた。
そして突進した俺は四郎に躱され、足を引っ掛けられて無様に床にダイブした。
四郎がゆっくりと俺に歩み寄り、俺の尻を紙の棒で思い切りひっぱたいた。
「よし、彩斗も自分を切らなかった事だけ誉めてやろう。」
「四郎…自信が粉々に砕け散ったよ…」
「自信だと?」
四郎が俺を見下ろしてゲラゲラ笑った。
「彩斗、自信と言うのは己が鍛錬して身につけた物に対して持つ物だぞ。
今お前が自信を持っている事自体がおかしいのだ。
自信と言う物は誰かにおだてられ甘やかされたり自分で勝手な妄想をして出来る物ではない。
自信とは自分の努力創意工夫の末にわいて来る物だぞ。
バッカな事言うもんじゃない。」
確かに四郎の言う通りだ、と俺は床に顔をついて激しく息を切らせながら思った。
続く