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吸血鬼ですが、何か? 第3部 訓練編  作者: とみなが けい
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何気に訓練きつくて四郎はどSだし…そんでもってまた非科学的な…

景色を楽しみながら歩いていた俺と真鈴は少し違和感を感じた。

四郎も周りの景色を楽しみながらゆっくりと歩いているように見えるけれど、実はかなり速い速度で歩いている。


「ちょ、ちょっと四郎。

 歩くの早くない?」

「そうか?」

「そうだよ、もう少し敷地の景色をさぁ…」

「うむ、思い出した。

 君たちこれを持ちなさい。」


四郎はポケットから2枚の紙を出して俺と真鈴に渡した。

それはおれが不動産業者からファクシミリで送られてきた屋敷の敷地の図面のコピーだった。


「見た感じ結構広いところだから迷子になっても困るからな。

 そして景色を楽しみながら周りの風景の特徴やわれらが進んでいる方向、屋敷がある方向も覚えておく方が良いな。

 今いる所をすぐに判るようにしよう。

 これは非常に大切な事だぞ。

 さて、君らはまだおしゃべりする余裕があるようだからもう少し歩みを早めるとするか。」


そう言うと四郎の歩みはまた少し早くなった。

俺と真鈴の息が少し荒くなった。


「ちょっと四郎、もう訓練みたいだよ〜お昼ご飯食べてからでしょ〜」


真鈴が抗議の声を上げて俺も同意して頷いた。


「なんだ君達、ええとこういう時なんて言うのだったかな?

 YouTubeで見たぞ…あ!冗談は良子ちゃんだ!

 もうとっくに訓練は始まっているに決まっているだろう。

 冗談は良子ちゃんだぞ〜。」

「なんか古い言い方だけど意味は伝わるよ。」


俺が息を切らせながら答えた。


「そうか、意味は通じるのか、それは良かった!

 われも早くこの時代に馴染んでナウなヤングにならねばな。」

「ナウなヤングはちょっと…意味は通じるけど。」


 真鈴も息を切らせながら言うと、四郎は笑い声をあげた。


「まぁ良いでは無いか。

 われを見失うなよ。

 風に乗って熊の臭いがするぞ。

 われとはぐれると熊の餌食になるかも知れん。」


四郎はまた歩く速度を上げた。

ちょっとした小走り位の速さだ。

振り返ると屋敷は遥か彼方に見えていた。

俺と真鈴はゼイゼイと息を切らせているのに、四郎は昨日カラオケで歌ったOld Folks At Homeを歌いながら軽やかに進んでいた。

四郎が手拭いを渡した意味が判った。

俺も真鈴も汗びっしょりになっていた。

元々道など無い草原を四郎は構わずに進んで草が深く、足場が悪いところでもどんどん入っていった。

四郎が俺達に振り向き、後ろ向きに進みながら俺達の歩きと言うか走り方を直すように言った。


「彩斗、もっと上半身を起こすのだ!真鈴、腕の振りが弱いぞ!腕の振りの反動も利用して前に進め!二人ともつま先と踵の重心移動を少し考えながらスムーズに前に出るように考えろ!」


四郎とゼエゼエ言いながらついてゆく俺と真鈴。

やがて草原は藪になり、山に通じる上り坂になっていった。


「四郎!もう…限界だよ〜!」


真鈴が情けない声を上げる。

俺は声さえも出せずにフラフラと進んでいた。


「何?限界?よしよし!限界を少し超える位の負荷を与えないと体は鍛えられないからな〜!良い調子だ〜!」


と四郎は言いながらもその後数分くらいで少し開けた場所で立ち止まった。


「ここで休憩だな。

 急に腰を下ろすと却って足腰を痛めたりするからゆっくりとわれの周りを歩け。

 その荒い息が収まってきたら座って良し!」


俺と真鈴はゆっくりとした歩みで四郎の周りを廻り息が整うのを待ってから腰を下ろした。


「水を飲め。

 ゆっくり味わいながら飲めよ。

 足はどうだ?

 念の為、靴と靴下を脱いで目で確かめろ。」


俺と真鈴は水筒の水をゆっくりと飲み、靴と靴下を脱いで足の具合を確かめた。

靴擦れ程ではないが、足はひりひりと痛んだ。

それを言うと四郎は自分で足をマッサージして足の汗を拭くように言った。

水を飲んで足のケアをする俺達を見ながら四郎も水筒から二口三口水を飲み、ポケットから携帯灰皿とエコーを取り出して火を点けた。

汗びっしょりの俺達と違い、四郎は全く汗をかいておらず、ほんの散歩がてらにここに来たと言った感じで寛いでいた。


「四郎、人間の姿だと体力とかも人間並みと言ってたじゃないの。

 あんた、大丈夫なの?」


真鈴に訊かれて四郎は笑顔を浮かべた。


「われは今は人間並みだぞ。

 ただ、かなり鍛えた人間並みにな。」


俺達はため息をついた。

確かに鍛えた人間並みの体力も俺には無い。


「私、高校の時はクロスカントリーとか陸上とかもやってたけど、高校の時の私でもかなりへばるはずよ。」

「あはは、まぁそうかもな。

 そう気を落とすな。

 ああ、そろそろ昼だな。」


そう言って四郎はポケットからナッツバーを出した。


「今から今くらいのペースで屋敷に戻り料理を作るかそれとも…ここでこれを食うかだな。

 どうする?

 屋敷に帰るか?」


真鈴も俺も力無く顔を横に振ってポケットからナッツバーを取り出してもそもそと食べ始めた。


「屋敷に帰ったら夕食はわれが腕によりをかけて旨い物を作ってやるぞ。」

「…はぁ〜い。」

「よろしく作ってね〜」


俺も真鈴も気の無い返事しか出来なかった。


四郎は時々ナッツバーを齧りながら話した。


「なあ、彩斗、真鈴。

 悪鬼が戦闘態勢になったら、いやいや戦闘態勢に変化しなくても、かなり鍛えた人間以上の力、俊敏さ、正確さ、耐久力、持久力があるのだ。

 君らがどんなに鍛えても、この世界のどんなに勇猛で体を鍛えて戦闘経験を積んだ兵士でも、人間の状態の悪鬼に、ましてや戦闘状態の悪鬼なら尚更に正面から戦って勝つことは非常に難しいと言わねばならん。」

「…」

「…」

「君ら人間が悪鬼を倒すには十分な武器を持ってそれを使いこなせる技術を身に着け、尚且つ不意を突いて悪鬼を混乱させて急所を正確に攻撃しないといけないのだ。

 単純な力では今の時代のどんな人間でも悪鬼には見劣りする。

 だから君らは不意を衝く俊敏さ、状況判断、チームワークを武器にしなければならない。

 あとは賢さ、知恵や狡さと言っても良い。

 それを駆使する事が大事だ。」

「…」

「…」

「悪鬼は、大抵の悪鬼は人間の弱さを知っている。

 だからその弱さを、悪鬼が人間を侮る油断に付け込まなければならない。

 そうでないと悪鬼にずたずたに引き裂かれるぞ。

 質の悪い悪鬼にはどんな命乞いをしても無駄だ。

 奴らが返って喜び、笑いながら君らを引き裂くだろうな。

 だが、奴らの油断をついて混乱させ正確に急所を攻撃すれば悪鬼を討ち取る事も不可能ではない。」

「…」

「…」

「君らが体を鍛えてムキムキの筋肉をつけろとは言わない。

 単純な力ではどうあがいても戦闘状態の悪鬼には叶わないのだよ。

 だからわれは君らに最低限必要な俊敏さ持久力正確さを身につけてほしい。

 後はチームワークと戦術だ。

 今、われは君らの持久力を探らせてもらったが、まだまだ全然足りないと言うしかないな。

 一日二日で身に付く物では無いし、これはしょうがないが、かといってそれで悪鬼に殺される訳にも行かないからな。」

「…」

「…」

「さっきも言ったが限界だ!となったそこからほんの少し頑張る事、少しずつ限界を超えて、限界を高めて行く事が大事なんだ。

 …君ら…出来るか?」


そこまで言うと四郎は俺達を見つめながらナッツバーをもう一本取り出して齧った。


「…いまさら何を言ってるのよ、四郎、私たちがやらなきゃダメじゃないの。」


真鈴ももう一本ナッツバーを取り出しながら決意が籠った声で言った。


「俺もだ、確かに怖いし訓練は想像以上に辛そうだけど、もう絶対逃げないと誓ったしね。」


四郎がナッツバーを齧って笑顔になった。


「そうかそうか、成る程判った。

 われも君達をしごく甲斐があると言う物だな。」

「四郎、頑張るからよろしくお願いね。」

「四郎、俺にもいろいろ叩き込んでくれよ。」


四郎が立ちあがってナッツバーの包みをポケットにしまうとエコーに火を点けた。


「よし、一服したら出発しよう!

 われも誓うぞ!

 君らが体を痙攣させながら血反吐を吐いて血の涙を流して失禁しながらお願いだから止めてくださいと言っても、一切手を緩めないとな!」


張り切る四郎の言葉を聞いて俺と真鈴はほんの少しだけ後悔した。

その後俺達はきついクロスカントリーを再開した。

時々四郎が急に足を止めて俺達に地図を出して今どのあたりにいるか答えさせた。

今いる場所を正確に把握するのは非常に重要だと四郎は言った。

最初は俺も真鈴も見当違いの場所を指さして四郎に修正された。

やがて敷地の中で一番標高が高い山の頂上に上り、雄大な景色に俺も真鈴も感動したが、四郎が指さす方向に屋敷がちっぽけに見えている事に気が付いてため息が出た。

俺達はあそこに戻らないといけないのだ。

そしてまた、来た時とは違うルートでクロスカントリーをしながら四郎に現在の場所を聞かれ、時には小川を足を濡らしながら超えて、手に擦り傷切り傷をこしらえながら藪を突破して陽が落ちる頃にやっとの事で、正直ぶっ倒れそうに疲れた状態で屋敷に辿り着いた。

四郎は元気そのものの口調でシャワーで汗を流し下着を着替え、ただ戦闘服はそのまま着るようにと言われて俺達は重い足取りで階段を上った。


「まだ今日の訓練は終わっていないからな。

 とりあえず夕食が出来るまで休憩しろ。」


階段を上る俺達の背中に四郎は非情な追い打ちをかけた。

その時、重い足取りで階段を上り、踊り場に辿り着いた真鈴が異変に気が付いた。


「…彩斗…人形が無くなってる…四郎〜ちょっと来て〜!」


キッチンで料理の準備をしようとしていた四郎が階段を上って来た。


「どうした?」

「人形が…無くなってる。

 あの可愛い女の子は今どこにいるの?」

「ふぅん、今ここにはいないな。」

「探してみる?」


俺の言葉に真鈴と四郎が頷き、3人で2階に上がって各部屋を調べた。

真鈴が声を上げて俺と四郎が2階の空き部屋のドアの前で立ち尽くす真鈴を見つけた。


「真鈴どうした?」

「あれ…見てよ…」


真鈴が指さした方向には開けられた空き部屋のドアの先にドアの方を向いた椅子の上、真鈴が2階の死霊の可愛い女の子にあげた人形がちょこんと座っていた。


「…四郎、どうなってるの?」


四郎はじっと椅子に座った人形を見つめた。


「うむ…あの女の子は人形をかなり気に入ってるようだな。」

「それでなんで人形が椅子に…」

「どうもなぁ〜」


そこまで言って四郎は黙った。


「四郎、どうしたの?四郎ってば!」


真鈴が四郎の沈黙にじれったくなって声を上げた。

その時、椅子に座った人形がゆっくりと小首をかしげた。

そして、微かに人形の口が開いた。


「ワラワ…ワラワハ……シャベレル…」


俺と真鈴は驚いて言葉を失った。

四郎が俺達を見てにやりとした。


「な、そういう事だ。」








続く



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